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一回目 (過去)
36.ローザリアの朝のお仕事
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ジャスパーを振り切るように急ぎ足で井戸に向かい桶を準備して鶴瓶を井戸に放り込んだ。ロープに手をかけ引き上げるとギシギシと不快な音を立てながら水がいっぱいに入った鶴瓶が上がってきた。注意深く桶に水を移して鶴瓶を井戸に放り込む。
何度かそれを繰り返し2つの桶に水を溜めて天秤棒を通して抱え上げた。
「まっ、待って下さい。俺が持ちます」
それまで呆然と立ち尽くしていたジャスパーが慌てて天秤棒を掴んだ。夜が明けたと言ってもまだ薄暗く屋敷は静まりかえっている。高位貴族の令嬢が井戸から水を汲む様に驚き過ぎて頭が働かない。
手慣れた様子からしてローザリアの日課なんだと漸く気付いたジャスパーは見よう見まねで天秤棒を担いだ。
「慣れないと難しいですから」
へっぴり腰でふらふらとするジャスパー。桶の水がチャプチャプと音を立ててほとんど溢れてしまうのを見兼ねたローザリアが交代した。
天秤棒を担ぎ前後の桶に手を添えて歩き出す。厨房の隅の水瓶を空にして運んできた水を注いでまた井戸へ歩いていく。
「毎朝コレをやっているんですか」
「ええ、屋敷には大勢人がいるんで1日に2回か3回」
「使用人達は⋯⋯いえ、なんでもありません」
ジャスパーは疑問も文句も飲み込んで水の入った桶のロープを掴んで運びはじめた。
「天秤棒は無理でしたが、力はあるんで任せて下さい」
水汲みの後、裏の小屋から薪を運び竈に火をおこし終わった頃にぽつりぽつりと使用人が起きてきた。
「はぁ、めんどくせえ。昨夜の客は長っ尻で眠たくてしょうがねえ。ったく、お嬢様は気楽でいいですねぇ。呑気に朝寝坊ですかぁ?
玄関の掃除をさっさとはじめろってメリッサが怒って⋯⋯ん? アンタ誰だ? 新しい使用人にしちゃヘンテコな服着てんな」
丸々と太った血色のいい男が汚れたエプロンをローザリアに押し付けようとしていた時、顳顬をヒクヒクさせて怒りまくっているジャスパーに気がついた。
「この方は教会の方です。玄関に行きましょう」
エプロンを握りしめてジャスパーの手を引いて歩き出したローザリアの後ろから聞こえよがしの嫌味が聞こえてきた。
「教会ねえ、暇潰しで厨房なんかにこられちゃいい迷惑だ」
言い返そうと振り向きかけたジャスパーの手を強く引いてローザリアがズンズンと廊下を歩いて行く。
「あれはいったい」
「気にしないで下さい。昨夜忙しかったので機嫌が悪いんだと思います」
リネン室の籠にエプロンを放り込んで用具室から箒と塵取りを持ち出し玄関に向かう。
「玄関は一番に終わらせて下さいっていつも言ってますよねぇ。覚えておられないんですかぁ?」
玄関を掃いていると通りかかったメリッサが集めたばかりの落ち葉を蹴散らした。
「ケビン様が今日は朝から人が来るから玄関は特にきれいにしておくよう仰ってたのに遅すぎませんかねぇ。
間に合わなかったら私が怒られるんですけどぉ」
丁度ジャスパーがゴミを運んでいた時だったので、メリッサはローザリアしかいないと思ったのだろう。いつも通りに嫌味を言ってきた。
「そこの落ち葉は集めたばかりだったのだが!?」
後ろから唸るようなジャスパーの声が聞こえてメリッサが飛び上がった。
「あら、どなたかしら? 私はここのメイドをしているメリッサですの」
「せっかく集めた落ち葉を散らかしては掃除は終わりませんが?」
「あら、ついうっかり⋯⋯こんなところにゴミを纏めてるなんて思ってなかったの」
頬を染めてチラチラと見ながら媚を売るメリッサはテトテトとジャスパーに近付き、上目遣いで見上げたジャスパーの胸に手を添えようとして払い除けられていた。
(ああ、ジャスパーさんって結構かっこいいし、騎士服も似合ってるから。はぁ、この後も続きがありそう)
「ローザリア様、箒をお貸しください。後は私が」
「いえ、もう少しで終わりますから」
さっさと落ち葉を集めて袋に詰めて箒とちりとりを持ち裏に向かう。
(屋敷の中を抜けると面倒が増えそうな予感がするもの)
ジャスパーがローザリアの後に続くとメリッサが追いかけてきた。
「こんな朝早くからどうしてここに来てるの? ご用なら私がお聞きしますわ。旦那様にご用が? あっ、朝いらっしゃるって言うお客様ね。私がご案内しますわ」
無視されていることに気付いていないのかメリッサはジャスパーの前に立ち塞がったまま話を続けた。
「この方は教会から来られた方ですから」
「はあ? お嬢様には聞いてませんからぁ。余計なことばかりされるのはやめていただけます? ベラが呼んでましたよぉ、お早く行かれてはいかがですか、お嬢様?」
「私はローザリア様の「行きましょう」」
「どうして」
何度かそれを繰り返し2つの桶に水を溜めて天秤棒を通して抱え上げた。
「まっ、待って下さい。俺が持ちます」
それまで呆然と立ち尽くしていたジャスパーが慌てて天秤棒を掴んだ。夜が明けたと言ってもまだ薄暗く屋敷は静まりかえっている。高位貴族の令嬢が井戸から水を汲む様に驚き過ぎて頭が働かない。
手慣れた様子からしてローザリアの日課なんだと漸く気付いたジャスパーは見よう見まねで天秤棒を担いだ。
「慣れないと難しいですから」
へっぴり腰でふらふらとするジャスパー。桶の水がチャプチャプと音を立ててほとんど溢れてしまうのを見兼ねたローザリアが交代した。
天秤棒を担ぎ前後の桶に手を添えて歩き出す。厨房の隅の水瓶を空にして運んできた水を注いでまた井戸へ歩いていく。
「毎朝コレをやっているんですか」
「ええ、屋敷には大勢人がいるんで1日に2回か3回」
「使用人達は⋯⋯いえ、なんでもありません」
ジャスパーは疑問も文句も飲み込んで水の入った桶のロープを掴んで運びはじめた。
「天秤棒は無理でしたが、力はあるんで任せて下さい」
水汲みの後、裏の小屋から薪を運び竈に火をおこし終わった頃にぽつりぽつりと使用人が起きてきた。
「はぁ、めんどくせえ。昨夜の客は長っ尻で眠たくてしょうがねえ。ったく、お嬢様は気楽でいいですねぇ。呑気に朝寝坊ですかぁ?
玄関の掃除をさっさとはじめろってメリッサが怒って⋯⋯ん? アンタ誰だ? 新しい使用人にしちゃヘンテコな服着てんな」
丸々と太った血色のいい男が汚れたエプロンをローザリアに押し付けようとしていた時、顳顬をヒクヒクさせて怒りまくっているジャスパーに気がついた。
「この方は教会の方です。玄関に行きましょう」
エプロンを握りしめてジャスパーの手を引いて歩き出したローザリアの後ろから聞こえよがしの嫌味が聞こえてきた。
「教会ねえ、暇潰しで厨房なんかにこられちゃいい迷惑だ」
言い返そうと振り向きかけたジャスパーの手を強く引いてローザリアがズンズンと廊下を歩いて行く。
「あれはいったい」
「気にしないで下さい。昨夜忙しかったので機嫌が悪いんだと思います」
リネン室の籠にエプロンを放り込んで用具室から箒と塵取りを持ち出し玄関に向かう。
「玄関は一番に終わらせて下さいっていつも言ってますよねぇ。覚えておられないんですかぁ?」
玄関を掃いていると通りかかったメリッサが集めたばかりの落ち葉を蹴散らした。
「ケビン様が今日は朝から人が来るから玄関は特にきれいにしておくよう仰ってたのに遅すぎませんかねぇ。
間に合わなかったら私が怒られるんですけどぉ」
丁度ジャスパーがゴミを運んでいた時だったので、メリッサはローザリアしかいないと思ったのだろう。いつも通りに嫌味を言ってきた。
「そこの落ち葉は集めたばかりだったのだが!?」
後ろから唸るようなジャスパーの声が聞こえてメリッサが飛び上がった。
「あら、どなたかしら? 私はここのメイドをしているメリッサですの」
「せっかく集めた落ち葉を散らかしては掃除は終わりませんが?」
「あら、ついうっかり⋯⋯こんなところにゴミを纏めてるなんて思ってなかったの」
頬を染めてチラチラと見ながら媚を売るメリッサはテトテトとジャスパーに近付き、上目遣いで見上げたジャスパーの胸に手を添えようとして払い除けられていた。
(ああ、ジャスパーさんって結構かっこいいし、騎士服も似合ってるから。はぁ、この後も続きがありそう)
「ローザリア様、箒をお貸しください。後は私が」
「いえ、もう少しで終わりますから」
さっさと落ち葉を集めて袋に詰めて箒とちりとりを持ち裏に向かう。
(屋敷の中を抜けると面倒が増えそうな予感がするもの)
ジャスパーがローザリアの後に続くとメリッサが追いかけてきた。
「こんな朝早くからどうしてここに来てるの? ご用なら私がお聞きしますわ。旦那様にご用が? あっ、朝いらっしゃるって言うお客様ね。私がご案内しますわ」
無視されていることに気付いていないのかメリッサはジャスパーの前に立ち塞がったまま話を続けた。
「この方は教会から来られた方ですから」
「はあ? お嬢様には聞いてませんからぁ。余計なことばかりされるのはやめていただけます? ベラが呼んでましたよぉ、お早く行かれてはいかがですか、お嬢様?」
「私はローザリア様の「行きましょう」」
「どうして」
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