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一回目 (過去)
107.ご機嫌な酔っ払い
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「おー、直ぐ行くから~。ちょっといいですか? 今日の女は時間制限なんでとっとと済ませないと」
へらっと笑って部屋を出ようとしたハリー・ノールケルト子爵を執事風の男が羽交締めにした。
「ちょちょちょ! 娼婦より水だろ? 娼婦は掃いて捨てるほどいるが水はない!! 頼む、思い出せ!」
執事風の男は悪い奴ではなさそうだが名前がまだわからない。娼婦のお陰で子爵のファーストネームがハリーなのはわかったが⋯⋯。
「ハリーちょっと何やってるのよ。さっさとしないなら帰るわよ。アンタがいくら早漏だか⋯⋯あら、お客さん? もー、ネイサンったらこんないい男がいっぱいいるなら先に教えてよ~。
初めまして、アタシはミラ。どうぞお見知り置きをって、ちょっと待ってて⋯⋯直ぐに名刺持ってくるから」
娼婦のお陰で執事風の男の名前まで判明した。裾をからげて部屋を飛び出そうとしたミラにナザエル枢機卿が声をかけた。
「名刺は不要、無駄になる」
「あら、ひとりくらいいるでしょ? アタシでも良いよって言う人が。
そんなちびちゃんより、ほら。ねっ?」
うっすらと透けたドレスをヒラヒラさせて大きな胸をアピールするミラ。ターゲットはナザエル枢機卿・ナスタリア神父・ニール辺りのよう。
「悪いがこれ以上付き合ってられん。で、テントを張る場所を」
「きゃ! 違うテントを「黙れ!ミラ、空気読めよ。頼むからさ」」
「えーぎょーぼーがい! はんたーい」
場の空気も読まず握り拳を振り上げて笑うミラ。
「申し訳ありません。ミラもかなり酔ってて」
ぺこぺこと頭を下げるネイサンだが相手は酔っ払い2人。状況を改善できるはずもない。
「明日出直してくる、酒を抜いて話ができるようにしておいてくれ。女もなしだ。それができていなければ次の街へ移動する。行くぞ」
「はい!」
「ままま、待って下さい! テント張る場所ですよね」
「結構だ、この辺りは酒臭くて敵わん。街の外に出た方がマシだ」
「危ないです! 街の外なんてゴロツキがいっぱいで」
青褪めて慌てるネイサンだがその後ろでは座り込んだハリーが既に舟を漕いでいる。
「問題ない。俺達を殺るなら一個師団いても足りんからな」
応接室を出ると後ろから嬌声が聞こえてきた。
「やん! かっこい~!」
隊列を整えて街の外へ出る。無言のナザエル枢機卿の眉間には皺が寄り、いつも以上の迫力に周りを歩く人達が飛び上がって逃げ出した。
街に少し人が増えてきたようだが不機嫌そうな人が多い気がする。
「なんだか大変でしたが、ミラさん可愛かったですね」
「⋯⋯可愛い、ですか?」
「精霊の話し方に似てるからかも。いつも楽しそうで元気いっぱいで、やる気満々って感じなんです」
「そうか、精霊と話すのは大変そうです」
ジロジロと遠巻きに見る人達の間を抜けて街の外に出た。お昼過ぎに街に入りほんの2時間程度で街を出ることになるとは思いもよらなかった。
街の喧騒から離れたあたりで野営することに決めた。この後の手順はいつも通り。馬の世話をする者とテントを張る者、食事の準備をする者に分かれて作業をはじめた。
初めの頃は声をかける勇気がなかったローザリアも今では立派な食事係を担当している。
食事班のリーダーは火の加護を持つトニー。平民出身で気さくな性格のトニーは両親が食堂をやっていて、幼い頃から父親に教わって料理を作っていた。自ら志願して食事係の担当になり、たまに実家の新メニューを作ってくれる。
「芋と人参を頼みます」
「はい」
皮むきは得意なので少し離れた場所に籠を置いてローザリアは黙々と作業していた。
「ローザリア様、芋もらって行きます」
「人参できました」
「じゃあ、そっちの⋯⋯」
日差しが少し和らぎはじめのんびりとした時間が流れる。
「今日は時間があるから例のやりますか?」
「やるやる!」
トニーの言う『例の』とは塩漬けの豚肉を煙で燻してベーコンを作ること。ローザリア達が登山していた時に下処理を済ませておいてくれたので後は燻製にするだけ。
まるで子供のお遊びのようだがローザリアはこれが楽しくて仕方ない。少し甘い香りと豚の焼ける香りが漂いしょっちゅう覗いて手を出してはトニーに笑われる。
「作り立ては美味しいからって直ぐなくなるんですよね」
夕闇が迫る頃になると手の空いた者が交代で見張りに立つ。ローザリアは野営の時シスター・タニアと行動しているが、今日はニールと3人で行動していた。
辺りが夕闇に包まれはじめた頃、街とは反対側から予想通りガサゴソと音が聞こえてきたた。
へらっと笑って部屋を出ようとしたハリー・ノールケルト子爵を執事風の男が羽交締めにした。
「ちょちょちょ! 娼婦より水だろ? 娼婦は掃いて捨てるほどいるが水はない!! 頼む、思い出せ!」
執事風の男は悪い奴ではなさそうだが名前がまだわからない。娼婦のお陰で子爵のファーストネームがハリーなのはわかったが⋯⋯。
「ハリーちょっと何やってるのよ。さっさとしないなら帰るわよ。アンタがいくら早漏だか⋯⋯あら、お客さん? もー、ネイサンったらこんないい男がいっぱいいるなら先に教えてよ~。
初めまして、アタシはミラ。どうぞお見知り置きをって、ちょっと待ってて⋯⋯直ぐに名刺持ってくるから」
娼婦のお陰で執事風の男の名前まで判明した。裾をからげて部屋を飛び出そうとしたミラにナザエル枢機卿が声をかけた。
「名刺は不要、無駄になる」
「あら、ひとりくらいいるでしょ? アタシでも良いよって言う人が。
そんなちびちゃんより、ほら。ねっ?」
うっすらと透けたドレスをヒラヒラさせて大きな胸をアピールするミラ。ターゲットはナザエル枢機卿・ナスタリア神父・ニール辺りのよう。
「悪いがこれ以上付き合ってられん。で、テントを張る場所を」
「きゃ! 違うテントを「黙れ!ミラ、空気読めよ。頼むからさ」」
「えーぎょーぼーがい! はんたーい」
場の空気も読まず握り拳を振り上げて笑うミラ。
「申し訳ありません。ミラもかなり酔ってて」
ぺこぺこと頭を下げるネイサンだが相手は酔っ払い2人。状況を改善できるはずもない。
「明日出直してくる、酒を抜いて話ができるようにしておいてくれ。女もなしだ。それができていなければ次の街へ移動する。行くぞ」
「はい!」
「ままま、待って下さい! テント張る場所ですよね」
「結構だ、この辺りは酒臭くて敵わん。街の外に出た方がマシだ」
「危ないです! 街の外なんてゴロツキがいっぱいで」
青褪めて慌てるネイサンだがその後ろでは座り込んだハリーが既に舟を漕いでいる。
「問題ない。俺達を殺るなら一個師団いても足りんからな」
応接室を出ると後ろから嬌声が聞こえてきた。
「やん! かっこい~!」
隊列を整えて街の外へ出る。無言のナザエル枢機卿の眉間には皺が寄り、いつも以上の迫力に周りを歩く人達が飛び上がって逃げ出した。
街に少し人が増えてきたようだが不機嫌そうな人が多い気がする。
「なんだか大変でしたが、ミラさん可愛かったですね」
「⋯⋯可愛い、ですか?」
「精霊の話し方に似てるからかも。いつも楽しそうで元気いっぱいで、やる気満々って感じなんです」
「そうか、精霊と話すのは大変そうです」
ジロジロと遠巻きに見る人達の間を抜けて街の外に出た。お昼過ぎに街に入りほんの2時間程度で街を出ることになるとは思いもよらなかった。
街の喧騒から離れたあたりで野営することに決めた。この後の手順はいつも通り。馬の世話をする者とテントを張る者、食事の準備をする者に分かれて作業をはじめた。
初めの頃は声をかける勇気がなかったローザリアも今では立派な食事係を担当している。
食事班のリーダーは火の加護を持つトニー。平民出身で気さくな性格のトニーは両親が食堂をやっていて、幼い頃から父親に教わって料理を作っていた。自ら志願して食事係の担当になり、たまに実家の新メニューを作ってくれる。
「芋と人参を頼みます」
「はい」
皮むきは得意なので少し離れた場所に籠を置いてローザリアは黙々と作業していた。
「ローザリア様、芋もらって行きます」
「人参できました」
「じゃあ、そっちの⋯⋯」
日差しが少し和らぎはじめのんびりとした時間が流れる。
「今日は時間があるから例のやりますか?」
「やるやる!」
トニーの言う『例の』とは塩漬けの豚肉を煙で燻してベーコンを作ること。ローザリア達が登山していた時に下処理を済ませておいてくれたので後は燻製にするだけ。
まるで子供のお遊びのようだがローザリアはこれが楽しくて仕方ない。少し甘い香りと豚の焼ける香りが漂いしょっちゅう覗いて手を出してはトニーに笑われる。
「作り立ては美味しいからって直ぐなくなるんですよね」
夕闇が迫る頃になると手の空いた者が交代で見張りに立つ。ローザリアは野営の時シスター・タニアと行動しているが、今日はニールと3人で行動していた。
辺りが夕闇に包まれはじめた頃、街とは反対側から予想通りガサゴソと音が聞こえてきたた。
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