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一回目 (過去)
108.教会の不文律、怒らしてはいけない男
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「美味しそうな匂いさせやがってよお。ちっと分けてくれや」
ヘラヘラと笑う男達が武器を手にじわじわと輪を狭めてきた。この街には剣闘場があり腕に自信のあるものが集まっている。
裏では殴り合いありの拳闘も行われているので筋肉質で体格の良い男もいる。
「ローザリア様、絶対に私から離れないで下さい」
ニールが盾になって一歩前に出た。相手の数は20人程度だろう。対するローザリア側は街の偵察に行っているものもいて人数的にはほぼ互角だろう。
「そこの姉ちゃん、教会ごっこなんぞつまんねえことしてねえで俺たちと遊ぼうぜ」
「そうそう、ちょっと楽しいことして、飯のひとつも奢ってくれりゃあ良いんだぜ。そいつらなんかよりよっぽど楽しませてやるよ」
暴漢どもは教会遊びをしている貴族か裕福な平民だと思ったのかもしれない。
「我等聖騎士に敵うと思ったか?」
「俺たちはみんな闘技場で戦う本物の剣闘士と拳闘士だぜ。お前らのへなちょこな剣技なんぞかすりもしねえよ!」
「お前らは魔法が使えなきゃ俺らの敵じゃねえんだよっと」
言い終わると同時に5人の男が一斉に魔道具を投げた。ローザリアは右手を前に出し空を飛ぶ魔道具を結界で包み込んだ。
コロコロと音も立てずに転がる魔道具の一つをナスタリア神父が拾い上げた。
「は? なんで?」
「くそっ、不良品掴まされた!」
「いえ、壊れてはなさそうです。それよりも皆さんはここにおられる女性を狙ってこられたわけですね」
ナスタリア神父の周りの空気がゆらゆらと蜃気楼のように揺れている。
「やばい、神父が切れてる! 燃えるぞ、準備しとけ!!」
パリンと音がして結界が壊れ、持っていた魔道具が青白い炎を上げ消え失せた。どれだけ強力な火を出したのか、聖騎士達が一歩後退る。
「下がれ!」
ナスタリア神父が右手を振ると火の玉が大量に飛んで行き、的確に敵を燃やしていく。膝をついて叫ぶ者、転げ回って泣き叫ぶ者⋯⋯。聖騎士達は一切攻撃することなく敵の殲滅が終わった。
「彼等を拘束して下さい。ひとりも逃さないように」
ナスタリア神父だけは怒らせるな。
スライスしたパンにそれぞれ好みの具を乗せて盛大にかぶりつく。スープと焼いた肉、チーズや果物がどんどん消費されていく。
「ナザエル枢機卿、なんで放置だったんですか?」
「あ? 大した相手でもなかったしなあ、あの程度の奴じゃ戦ってもつまらん。
それに、楽しかったろ?」
「いえ、肝が冷えました。ナスタリア神父だけは怒らしては駄目なんです。聖騎士達の不文律です」
「最近はちょくちょく怒ってるぞ?」
翌朝日が昇ってすぐノールケルト子爵邸を急襲したのは単なる嫌味、昨日の対応への嫌がらせ。ニールがドアをガンガン叩き続けていると夜着のままのネイサンが寝ぼけ眼で玄関を開けた。
「どひらひゃんで」
「精霊教会から来た。昨日言われたことをもう忘れたか?」
「⋯⋯へ?」
目を擦りながら首を傾げたネイサンが『はっ!』と驚いて後ずさった。
「きょー! あい、おやくひょくひまちた」
「大きく深呼吸してみろ。呂律が回っとらん」
素直にすーはーすーはーと深呼吸したネイサンが頭を下げた。
「おっはようござりましゅ」
「ノールケルト子爵はいるか?」
「はっはい、ですがまだ寝てると」
「起こせ」
はいっと言いながら階段を駆け上がっていくネイサンが階段の途中で躓いた。
ナザエル枢機卿は案内も待たず昨日の応接室に入って行った。
「お待たせしました」
不貞腐れた顔のハリー・ノールケルト子爵は無理矢理着替えせられたのだろう、ボタンを掛け違えシャツの裾が半分垂れ下がっている。
「なんでこんな朝早く⋯⋯」
「昼間は酒を飲んで女を呼んでいるようだからな。この時間ならシラフだろう?」
「非常識って言葉を知らない大人って情けないと思う」
「礼儀のなっとらん領主よりマシだな」
ふわあっと大きなあくびをして涙目のハリー・ノールケルト子爵がナザエル枢機卿を薮睨みした。
「凄い人数で来て⋯⋯そうか、水だよね。井戸の場所は、えーっと。街の人に聞いて貰えばわかるから。宜しく」
眠いと言いながら部屋を出ようとするノールケルト子爵の首根っこを捕まえた。
「うわっ、何すんだよ!」
「来客があったらまずは自己紹介だ。俺はお前の名前も知らん」
「ハリー・ノールケルト子爵」
ナザエル枢機卿を睨みあげボソリと名前だけを告げたハリー。
「不合格、ネイサン見本を見せろ!」
「ええーっ! 俺がですか!?」
ヘラヘラと笑う男達が武器を手にじわじわと輪を狭めてきた。この街には剣闘場があり腕に自信のあるものが集まっている。
裏では殴り合いありの拳闘も行われているので筋肉質で体格の良い男もいる。
「ローザリア様、絶対に私から離れないで下さい」
ニールが盾になって一歩前に出た。相手の数は20人程度だろう。対するローザリア側は街の偵察に行っているものもいて人数的にはほぼ互角だろう。
「そこの姉ちゃん、教会ごっこなんぞつまんねえことしてねえで俺たちと遊ぼうぜ」
「そうそう、ちょっと楽しいことして、飯のひとつも奢ってくれりゃあ良いんだぜ。そいつらなんかよりよっぽど楽しませてやるよ」
暴漢どもは教会遊びをしている貴族か裕福な平民だと思ったのかもしれない。
「我等聖騎士に敵うと思ったか?」
「俺たちはみんな闘技場で戦う本物の剣闘士と拳闘士だぜ。お前らのへなちょこな剣技なんぞかすりもしねえよ!」
「お前らは魔法が使えなきゃ俺らの敵じゃねえんだよっと」
言い終わると同時に5人の男が一斉に魔道具を投げた。ローザリアは右手を前に出し空を飛ぶ魔道具を結界で包み込んだ。
コロコロと音も立てずに転がる魔道具の一つをナスタリア神父が拾い上げた。
「は? なんで?」
「くそっ、不良品掴まされた!」
「いえ、壊れてはなさそうです。それよりも皆さんはここにおられる女性を狙ってこられたわけですね」
ナスタリア神父の周りの空気がゆらゆらと蜃気楼のように揺れている。
「やばい、神父が切れてる! 燃えるぞ、準備しとけ!!」
パリンと音がして結界が壊れ、持っていた魔道具が青白い炎を上げ消え失せた。どれだけ強力な火を出したのか、聖騎士達が一歩後退る。
「下がれ!」
ナスタリア神父が右手を振ると火の玉が大量に飛んで行き、的確に敵を燃やしていく。膝をついて叫ぶ者、転げ回って泣き叫ぶ者⋯⋯。聖騎士達は一切攻撃することなく敵の殲滅が終わった。
「彼等を拘束して下さい。ひとりも逃さないように」
ナスタリア神父だけは怒らせるな。
スライスしたパンにそれぞれ好みの具を乗せて盛大にかぶりつく。スープと焼いた肉、チーズや果物がどんどん消費されていく。
「ナザエル枢機卿、なんで放置だったんですか?」
「あ? 大した相手でもなかったしなあ、あの程度の奴じゃ戦ってもつまらん。
それに、楽しかったろ?」
「いえ、肝が冷えました。ナスタリア神父だけは怒らしては駄目なんです。聖騎士達の不文律です」
「最近はちょくちょく怒ってるぞ?」
翌朝日が昇ってすぐノールケルト子爵邸を急襲したのは単なる嫌味、昨日の対応への嫌がらせ。ニールがドアをガンガン叩き続けていると夜着のままのネイサンが寝ぼけ眼で玄関を開けた。
「どひらひゃんで」
「精霊教会から来た。昨日言われたことをもう忘れたか?」
「⋯⋯へ?」
目を擦りながら首を傾げたネイサンが『はっ!』と驚いて後ずさった。
「きょー! あい、おやくひょくひまちた」
「大きく深呼吸してみろ。呂律が回っとらん」
素直にすーはーすーはーと深呼吸したネイサンが頭を下げた。
「おっはようござりましゅ」
「ノールケルト子爵はいるか?」
「はっはい、ですがまだ寝てると」
「起こせ」
はいっと言いながら階段を駆け上がっていくネイサンが階段の途中で躓いた。
ナザエル枢機卿は案内も待たず昨日の応接室に入って行った。
「お待たせしました」
不貞腐れた顔のハリー・ノールケルト子爵は無理矢理着替えせられたのだろう、ボタンを掛け違えシャツの裾が半分垂れ下がっている。
「なんでこんな朝早く⋯⋯」
「昼間は酒を飲んで女を呼んでいるようだからな。この時間ならシラフだろう?」
「非常識って言葉を知らない大人って情けないと思う」
「礼儀のなっとらん領主よりマシだな」
ふわあっと大きなあくびをして涙目のハリー・ノールケルト子爵がナザエル枢機卿を薮睨みした。
「凄い人数で来て⋯⋯そうか、水だよね。井戸の場所は、えーっと。街の人に聞いて貰えばわかるから。宜しく」
眠いと言いながら部屋を出ようとするノールケルト子爵の首根っこを捕まえた。
「うわっ、何すんだよ!」
「来客があったらまずは自己紹介だ。俺はお前の名前も知らん」
「ハリー・ノールケルト子爵」
ナザエル枢機卿を睨みあげボソリと名前だけを告げたハリー。
「不合格、ネイサン見本を見せろ!」
「ええーっ! 俺がですか!?」
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