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一回目 (過去)
110.ナザエル枢機卿の狙い
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「「交換条件?」」
くだらない口喧嘩をやめてハリーとネイサンがナザエル枢機卿を注視した。
「ノールケルト子爵領は大した名産もねえしこの街はこんなだし⋯⋯領地を買ってくれる奴とか管理してくれる奴とかがいるかどうか探してやらんでもない。
それから、昨日の夜遊びに来た街のゴロツキを何人か捕まえてる。見せしめには使えそうだ」
「それで?」
「この国の領地は王国のもんだから本当なら売れねえが方法がないわけじゃねえって事。但しこんな状態の領地が金になるとは思うなよ。タダで貰ってもらえりゃ御の字ってとこだし、管理してくれる親切な奴もいねえかもな」
ノールケルト子爵領を立て直そうとすれば莫大な資金が必要になるだろう。しかも今のところ将来性のカケラもない。
「で、お前らが真面目に働くなら仕事を斡旋してやる」
「どどど、どうしてそこまで⋯⋯」
思わず正座したネイサンが前のめりになって聞いてきた。
「ネイサン、騙されんなよ。そんなうまい話があるわけねえだろ!?」
「でも、俺達を騙してもなんの得にもならないし⋯⋯ですよね」
「確かに、損はしても得なんかねえよ。理由はな、この街がこのままなのがちと気に入らねえってだけだ」
「は? たった、そんだけの理由?」
「ここに来る前にウスベルの町に寄った。ウスベルってわかるか?」
ハリーは首を横に振ったがネイサンは知っていたようでガクガクと首を縦に振った。
「元鉱山の町ですよね」
「そうだ。凄えいい奴ばっかの町だったぜ。でもよお、この街がこのままだとウスベルに被害が出る。ネイサン、その意味がわかるか?」
「えっと、おんなじ領内だから?」
「ウスベルが頑張ってもこの街が駄目だったらこの街の分の税はウスベルが稼がされる。国に収める税ってのは領地ごとに決まってるからな」
グレイソンと酒を飲みながらナザエル枢機卿が聞いた話では、ウスベルの税は極端に高かった。鉱山が好調に鉱石を吐き出していた頃と変わらない税を要求されていると言う。
「この街の奴等が好き放題してられんのは他の町の奴等のお陰だって事だな」
ナザエル枢機卿の話はハリーには難しすぎるようで首を捻っているだけだが、ネイサンは眉間に皺を寄せて真剣に考えている。
「その代わり、情報が欲しい」
「俺達ここに来たばっかりなんで何も知らなくて⋯⋯ナザエル枢機卿が欲しがる情報なんて何も思いつかないです」
「今日の夜まで待ってやる。俺達は先に水不足をなんとかしなけりゃならんからな。夜、野営地に来い。んで返事を聞かせてくれりゃいい」
呆然とするハリーを残して玄関に向かったナザエル枢機卿達をネイサンが追いかけてきた。
「あの! 俺達がナザエル枢機卿の欲しがってる情報を持ってなくても助けてくれるんですか?」
「ああ、約束だからな」
街の外の野営地で車座になってまったりとお茶を飲みはじめたナザエル枢機卿は疑問を顔に浮かべているローザリアに向けて話しかけた。
「不思議って顔してるぜ?」
「はい、ナザエル枢機卿が欲しい情報ってなんだろうって。考えても全然わからないんです。あの街を見るとどうにもならないんじゃないかって、私なんかにもわかると言うか。
その問題を引き受けても良いって思えるほどの情報ってことですよね」
ナザエル枢機卿は口は悪いがとても優しい人だと知っている。ウスベルの人達と交流して彼等が善良で素敵な人達ばかりだということも知った。
身体を洗う水が欲しいと言ってきた女性達の笑顔。登山の前に『おやじ』を守ろうと抗議してきた青年達。水源地から帰ってきた時酔っ払って喜色満面で走り回っていた人達。
元気になったと鍬を持って笑顔で畑に向かう後ろ姿。廃坑になっても畑を作り、病人が出ても水不足になっても助け合って笑い合っていた、グレイソンを中心にした大家族のような町。
「すごく素敵な人達ばかりの町だったしこれから町の暮らしが良くなっていくと良いなとは思います」
「でも、それだけでこの領地の問題を抱えるのは割が合わねえ。そう言いたいんだろ?」
「はい、その通りです」
「それだけ、この街の持ってる情報はこの先重要になるって事だ」
くだらない口喧嘩をやめてハリーとネイサンがナザエル枢機卿を注視した。
「ノールケルト子爵領は大した名産もねえしこの街はこんなだし⋯⋯領地を買ってくれる奴とか管理してくれる奴とかがいるかどうか探してやらんでもない。
それから、昨日の夜遊びに来た街のゴロツキを何人か捕まえてる。見せしめには使えそうだ」
「それで?」
「この国の領地は王国のもんだから本当なら売れねえが方法がないわけじゃねえって事。但しこんな状態の領地が金になるとは思うなよ。タダで貰ってもらえりゃ御の字ってとこだし、管理してくれる親切な奴もいねえかもな」
ノールケルト子爵領を立て直そうとすれば莫大な資金が必要になるだろう。しかも今のところ将来性のカケラもない。
「で、お前らが真面目に働くなら仕事を斡旋してやる」
「どどど、どうしてそこまで⋯⋯」
思わず正座したネイサンが前のめりになって聞いてきた。
「ネイサン、騙されんなよ。そんなうまい話があるわけねえだろ!?」
「でも、俺達を騙してもなんの得にもならないし⋯⋯ですよね」
「確かに、損はしても得なんかねえよ。理由はな、この街がこのままなのがちと気に入らねえってだけだ」
「は? たった、そんだけの理由?」
「ここに来る前にウスベルの町に寄った。ウスベルってわかるか?」
ハリーは首を横に振ったがネイサンは知っていたようでガクガクと首を縦に振った。
「元鉱山の町ですよね」
「そうだ。凄えいい奴ばっかの町だったぜ。でもよお、この街がこのままだとウスベルに被害が出る。ネイサン、その意味がわかるか?」
「えっと、おんなじ領内だから?」
「ウスベルが頑張ってもこの街が駄目だったらこの街の分の税はウスベルが稼がされる。国に収める税ってのは領地ごとに決まってるからな」
グレイソンと酒を飲みながらナザエル枢機卿が聞いた話では、ウスベルの税は極端に高かった。鉱山が好調に鉱石を吐き出していた頃と変わらない税を要求されていると言う。
「この街の奴等が好き放題してられんのは他の町の奴等のお陰だって事だな」
ナザエル枢機卿の話はハリーには難しすぎるようで首を捻っているだけだが、ネイサンは眉間に皺を寄せて真剣に考えている。
「その代わり、情報が欲しい」
「俺達ここに来たばっかりなんで何も知らなくて⋯⋯ナザエル枢機卿が欲しがる情報なんて何も思いつかないです」
「今日の夜まで待ってやる。俺達は先に水不足をなんとかしなけりゃならんからな。夜、野営地に来い。んで返事を聞かせてくれりゃいい」
呆然とするハリーを残して玄関に向かったナザエル枢機卿達をネイサンが追いかけてきた。
「あの! 俺達がナザエル枢機卿の欲しがってる情報を持ってなくても助けてくれるんですか?」
「ああ、約束だからな」
街の外の野営地で車座になってまったりとお茶を飲みはじめたナザエル枢機卿は疑問を顔に浮かべているローザリアに向けて話しかけた。
「不思議って顔してるぜ?」
「はい、ナザエル枢機卿が欲しい情報ってなんだろうって。考えても全然わからないんです。あの街を見るとどうにもならないんじゃないかって、私なんかにもわかると言うか。
その問題を引き受けても良いって思えるほどの情報ってことですよね」
ナザエル枢機卿は口は悪いがとても優しい人だと知っている。ウスベルの人達と交流して彼等が善良で素敵な人達ばかりだということも知った。
身体を洗う水が欲しいと言ってきた女性達の笑顔。登山の前に『おやじ』を守ろうと抗議してきた青年達。水源地から帰ってきた時酔っ払って喜色満面で走り回っていた人達。
元気になったと鍬を持って笑顔で畑に向かう後ろ姿。廃坑になっても畑を作り、病人が出ても水不足になっても助け合って笑い合っていた、グレイソンを中心にした大家族のような町。
「すごく素敵な人達ばかりの町だったしこれから町の暮らしが良くなっていくと良いなとは思います」
「でも、それだけでこの領地の問題を抱えるのは割が合わねえ。そう言いたいんだろ?」
「はい、その通りです」
「それだけ、この街の持ってる情報はこの先重要になるって事だ」
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