【完結】何度出会ってもやっぱり超絶腹黒聖職者

との

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一回目 (過去)

113.働き者のガイス

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 地図を片手に先頭に立つガイスの案内で街の北側からはじめることになった。

「この辺りは比較的治安が良いので問題なく終えられると思います」

 道幅は狭いがこの街の中では高級住宅街になるらしく鉄柵に囲まれた少し広めの家が並んでいる。
 頑丈そうな鍵が取り付けられ、門の近くに迫力のある男が立ち睨みを効かせている家もあった。

「カジノや闘技場のオーナーの家です。この街は窃盗目的の輩が多いものですから」

 迫力あるその男達もナザエル枢機卿がチラリと見ただけで目を逸らす。

(ナザエル枢機卿、最強かも)

 笑いを堪え過ぎて顔を引き攣らせたローザリアは足元だけを見ながら歩いていた。



「この辺りから商業地区になります。街の中では比較的まともな店ばかりですが裏道は少し用心して頂いた方がいいかと。
そろそろ休憩されますか? この辺りならご紹介できるお店もございますか?」

「いえ、大丈夫です。明るいうちに済ませてしまいたいので先を急ぎましょう」

「ああ、それは賢明なご判断でございます。夕闇が濃くなる頃には私でさえ出歩きませんので」

 道に大きなゴミは落ちていないが綺麗にしているとは程遠い。きっちり締められたドアは施錠されているそうで、呼び鈴を鳴らした客を店主や従業員が確認してからドアを開ける仕組みになっている。

「以前はそこまでではなかったのですが、水不足が深刻化してからと言うもの犯罪が多発しまして。ほとんどの店はドアの近くに銃や剣をこれみよがしに置いています」



「この辺りからは段々とですね⋯⋯えーっとお嬢様の立ち入りはおやめになられた方が」

「店に入るわけではないから構わんだろう」

 ナザエル枢機卿の合図でナスタリア神父とニールがローザリアを挟むように並んだ。

 ローザリアの前にはナザエル枢機卿が立ちジャスパーが後ろに張り付いた。それ以外の4人の護衛は少し間隔をあけて辺りを警戒した。

「畏まりました。店は先ほどに比べるとよく言えばお手頃な品を扱っていまして、まあご想像通りのものばかりですが」

 ドアは開いているが店の前にいかにも乱暴そうな男が見張りに座っていたり、店の奥からヘッドスキンの大男が睨みを利かせていたりする。
 壊れたドアに板を打ち付けて修理している店や、壊れた椅子が投げ出された店もある。


「脇道とかにもご注意頂きたいのですが⋯⋯その路地の奥にも井戸が⋯⋯えっ? 行きますか?」

「大丈夫ですから行きましょう」

 このエリアが終わる頃にはガイスはローザリアを不審げな顔で見るようになってきた。

「あの、失礼ですが精霊師の方というのはそんなにじゃぶじゃぶ水を出して平気なものでしょうか?
いえ、私の知り合いに聞いたところでは桶に水を出したら終わりとか薪に火をつけたら真っ青になって倒れるとか言っておりましたもので」

「それはかなり弱い加護の精霊師の話ですね。教会所属の精霊師ならもっと加護が強いので」

 ローザリアの力には言及せず話を濁した。

「確かに、精霊教会と王宮の精霊師の方ならこのくらい問題ないのでしょう。流石でございます」

「⋯⋯」

「ではこの奥の井戸に参りましょう」




「ここはおやめになられては如何でしょうか。終日その⋯⋯声がかかりますし、物陰とかにもですね金のないものが、その」

「⋯⋯ローザリア様、ここからはローブを」

 理由がわからないままローブを被せられたローザリアはナスタリア神父にエスコートされながら歩いた。

「あら、こんな時間に珍しい⋯⋯いい男じゃない? ねえ、遊んでかない?」

「こっちこっち~」

「はぁい、楽しませてあげるわよぉ。サービスしちゃうからぁ」

 上の方から女性の声が降ってくる。近くにも人が寄ってきているようで色々な匂いがしてきた。

(カサンドラ様やリリアーナからしてたみたいな匂い⋯⋯女性がいっぱいのエリアなんだ)

 胸元や背中を大きくあけた女性やスカートを裂いてわざと足を出した女性が、クマを隠す濃い化粧と体臭を誤魔化す香水の匂いをさせて近づいてくる。

「ねえ、仕事中なの? 終わったらおいでよぉ」

 眉間に寄った深い皺とチラリとも見ない冷たい態度に『ちっ!』と舌打ちした女達が離れていく。

「すかしてんじゃねえよ!」

「デカいのは身体だけかい、この役立たず!!」

 女性の『役立たず』という言葉にローザリアの身体が固まった。

「気にしないで、行きますよ」

 ナスタリア神父がローザリアの耳元で囁いてくれた。

(私に言ったんじゃないし、意味なんてなかった)

 自分に言い聞かせながら黙々と仕事を終わらせた。




「おい、随分と御大層な行列じゃねえか」

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