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二つの誤算

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 「私に何をさせられるか警戒をしているのね。でも、その警戒心はとても大事な事よ。私があなたにして欲しい事は今は言えないわ。それは、今話してもあなたは私の話を信用してくれないはず。だから、今は話せない。しかし、あなたは私の協力が必要なはず。今のあなたはギフトを無駄に使っている。それはあなた自身がわかっているはずよ」


 ヴァロテンヌの言っている事は胸に突き刺さるほど理解している。神様からギフトを授かる者は、努力の研鑽を励み、長い年月をかけてやっと手にすることが出来る選ばれし幸運の持ち主である。誰もが努力をすれば手に入れる事が出来る代物ではない。なのに私は、人から人生から逃げて来た結果手に入れたギフトなのである。努力を積み重ねて手にした者とは違い、あまりにも実力に伴わない者が手にしたギフトなのである。それは豚に真珠であり猫に小判である。もし、サミュエルやレアが私のギフトを手にしていたら、サージュオークなど簡単に倒すことができた。


 『私だって・・・私だって強くなりたいよ』


 私はまだ声に出して本音をさらけ出すことは出来ない。


 「詳しい事情は知らないけど、あなたは命をかけてサミュエル君を助けようと頑張っていた。その姿は、とても気高く美しく勇敢な姿だったわ。あなたは、人を避けて1人で魔銃の練習をしてきたのよね。その努力は否定しないわ。でも、1人で出来る事は限界があるのよ。あなたには誰にも気配を感じさせない才能がある。あなたは人の視界に入らない死角の場所を探す才能がある。そして、その才能を最大限に生かすことが出来る姿を消すギフトを持っている。残りの足りない部分は私が教えてあげる。そうすればあなたはこの国・・・いえ、この世界で最強になることができるのよ」


 『私が・・・私が・・・』 
 「さい・・きょう」


 私は思いもよらぬ言葉を聞いて、思わず【さいきょう】と言葉を発してしまった。


 「そうよ、あなたは最強になれるのよ!」

 「私・・・最強になりたい。最強になって両親の仇を討ちたい」


 私は10歳の時、町にオーガの大群が押し寄せて来て、私以外の住人は全て殺されオーガの食料となった。私は、家の屋根裏で必死に気配を消して隠れていたので難を逃れる事が出来た。オーガが町を襲って1週間後、ようやく王国騎士団が町に到着し、町の状況を調べている時に、偶然私を発見してパステックの町に連れて来たのが孤児院の英雄カシャロットであり、その王国騎士団を率いていたのがヴァロテンヌであった。


 「協力するわ」

 「うぇうううぇええ」


 私は歓喜余って言葉を発していたが、すぐに現実に戻りしどろもどろになる。


 「無理して喋る必要はないわよ。あなたの意思はきちんと受け取ったわ。そのまま姿を消したままでいいから私の馬に乗りなさい」


 ヴァロテンヌは側に止めていた馬に乗り、私が後ろに乗った事を確認すると常夜の大樹を目指して走り出した。ヴァロテンヌは馬を走らせながら、今回の事件の真相を語ってくれた。

 今回の事件の主犯はパンジャマンの仲間であるエリオットの犯行である。エリオットはパンジャマン達を使って北の禁止エリア付近に魔道香炉をたくさん設置して、魔獣をエリア外から誘き寄せる事にした。なんのために魔獣をおびき寄せるかは、パンジャマン達には伝わっておらず、大金を得る事ができるのでパンジャマン達は協力した。北の禁止エリアの魔道香炉のバラマキは、冒険者ギルドを欺く為の作戦でありほんまるである南エリアから目を遠ざけるためであった。
 エリオットの真の目的は、南エリアに特別の魔道香炉を設置して、モールへと進化したサージュオークを呼び寄せるためである。エリオットは、サージュオークが南の禁止エリア付近に出没したことを確認すると作戦を決行した。ポールを脅迫して、南の禁止エリア付近の繋ぎ場に行くように指示を出し、特別な魔道香炉を持たせて、確実に、繋ぎ場にサージュオークが現れるようにおぜん立てをした。
 しかし、ここで想定外の出来事が起こった。それは、パンジャマンがエリオットの立てた偽の作戦に乗らずに繋ぎ場に向かったことである。エリオットは真実を告げる事が出来ず、パンジャマン達を見殺しにして逃げる事にした。パンジャマンのプライドの高さがポールの命を救うことになる。
 この完璧だと思えた作戦であったが、さらなる誤算が発生する。それは、レアの強さと私の存在である。いくら天才と噂されるレアとサミュエルでも、サージュオークとオーク相手では勝てるはずはないと計算していたが、その計算を上回る強さを発揮したのがレアである。もし、レアが1人でポールを助けに行けば、レアもサミュエルも傷つかなくても済んだかもしれない。それほど、レアは圧倒的な強さを誇っていた。レアが右腕を失い致命傷を負ったのは、オレリアンを救ったことが原因であった。
 レアは致命傷を負い、絶体絶命のピンチに陥ったサミュエルを救ったのが私である。私がいなければサミュエルは死んでいた。いくつもの誤算が発生したことでエリオットの計画は破綻して仲間であるパンジャマンの命だけを奪う事になってしまった。

 ここで問題なのは、なぜエリオットがこのような事件を起こしたことである。ヴァロテンヌは、独自の調査の結果、エリオットを操る黒幕の存在に気付き、サミュエルとレアの命が狙われていることに気付いた。
 
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