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旅立ち

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 ヴァロテンヌの調査結果により、エリオットを陰で操る人物が居る事がわかった。しかし、その人物を特定する事は出来なかった。特製の魔道香炉は王国騎士団のみが所有するレアな魔道具なので、黒幕の正体は王国騎士団であることは確実である。


 『なんで、王国騎士団はサミュエル君やレアさんの命を狙ったのかしら』


 私はヴァロテンヌの話を聞いてその点が疑問に思ったのである。


 「ソリテちゃん、なぜあの二人が命を狙われたか気になるよね。王国騎士団が本当に命を狙っているのはレアさんで、サミュエル君は王国騎士団の協力者であるルーセル家の長男ドニーズの懇願を聞き入れて、標的になったと私は推測しているのよ」


 『長男ドニーズと次男ライターは、優秀なサミュエル君に嫉妬をしていると聞いたことがあるわ。まさか殺したいほど憎んでいたとは思わなかったわ。サミュエル君が殺される理由はわかった。でも、レアさんはなぜ王国騎士団から命を狙われたの』

 「レアさんが命を狙われる理由が知りたいよね。レアさんはまだ15歳なのにマジ―(魔法)文字の使い手なの」


 ※マジー文字とは魔力が込められた文字の事である。魔道具にマジ―文字を刻むことにより、魔道具の効果を飛躍的にあげることが出来る。四肢の切断をも治す事ができる魔道具ユルティムにはマジ―文字が刻まれている。


 「しかも、レアさんはマジ―文字でもさらに複雑で難解であるタトゥアージュを彫ることが出来る特級魔道技師の腕を持っているのよ」


 ※魔道技師のランク 初級魔道技師 中級魔道技師 上級魔道技師 特級魔道技師の4つに分かれる。

 ※マジ―文字を体に彫ることをタトゥアージュと言う。高精度なマジ―文字を体に彫ることで身体強化などを施すことができる。そして、タトゥアージュの中でも神が授けるギフトに匹敵する力を宿す事ができる超高性能なタトゥアージュは、神を冒涜する力と言われ、【七つの大罪】と呼ばれる。

 ※七つの大罪 ゴワンフルティ(暴食) アロガン(傲慢) ジャルジ(嫉妬) ラージュ(憤怒) パレス(怠惰) フェニアヴィディテ(強欲) アンピュルテ(色欲)の7つのタトゥアージュが存在する。


 『レアさんはそんなにすごい人がっだのね』


 「レアさんの常人をはるかに凌駕する才能は、母親の教えによって、世間に知れる事はなかったわ。でも、サミュエル君と付き合うようになり、レアさんがひた隠しにしていた才能がサミュエル君の兄であるライターが知ることになったのよ。ライターはすぐに兄のドニーズに報告して、王国騎士団が知る事態になったようね」


 『ライター君なんて意地が悪いのかしら!』


 「レアさんの才能を恐れた王国騎士団は、レアが大いなる力を手にする前に殺害を試みたけど失敗に終わった。すでにレアさんは七つの大罪の一つであるパレスのタトゥアージュを完成させていたのよ」


 『パレスのタトゥアージュ・・・・なんのことだがさっぱりわからないわ?』

 「パレスのタトゥアージュは、フェニックスの絵をマジ―文字で描く最高難度のタトゥアージュで、不死の力を得る事ができるタトゥアージュなの。パレスの力を得たレアさんは、サージュオークとの戦闘で瀕死の重傷を負ったが、その傷は癒えて元気を取り戻したわ。でも、パレスの精度は完璧ではなかったので、負傷の回復に時間がかかったとレアさんは述べてたわ」

 『パレスのタトゥアージュ・・・無敵だわ』

 「安易なソリテちゃんなら、パレスのタトゥアージュは無敵と感じるかもしれないけど、対抗措置もあるとレアさんは言っていたわ」

 『私の心が見透かされているわ』

 「残念だけど対抗措置のことは教えてくれなかったけどね」

 
 ヴァロテンヌは、私の心を見透かしたかのように私の知りたかった事件の真相を教えてくれた。ヴァロテンヌは、私をパステックにある自身の自宅の庭にある小さな小屋に案内してくれた。


 「ここが今日から寝床にするといいわ。私がギルドの業務を終えるまで小屋の掃除でもしておいてね。必要な家具などは私が用意しておくわ」

 『ありがとうございます』


 私は姿を見せないまま頭を下げて心の中でお礼をする。


 「今後の事は夜にでも話し合いをしましょうね。まぁ、私の一方的な会話になるけどね」


 ヴァロテンヌはニコリと笑って、ギルドへ戻って行った。


 ギルドでは、ユルティムによって体が元にもどったサミュエルがベットで横たわっていた。そして、サミュエルを取り囲むようにレア、オレリアン、ポールがイスに腰かけていた。


 「誰も死ななくてよかったわ」


 重苦しい空気の中、最初に声をかけたのはレアである。


 「ごめんなさい。僕が全て悪いのだよ」


 ポールはずっと涙を流しながら自分を責めていた。


 「いや、サミュエルの指示に背いた俺が悪い。あの時、レアは本当にポールを見捨てるつもりはなかったのだ。邪魔な俺を遠ざけるためにポールを置き去りにする判断をサミュエルに託したのだろ?」

 「私の方こそごめんなさい。オレリアンの事を信じて、きちんと私の作戦を説明しておけばこんなことにはならなかったはずよ」

 「全ての責任はリーダーである俺の責任だ。ポールが脅迫されていたこと、レアが本当の力を隠していたこと、オレリアンの正義感の心を踏みにじった事、全てはリーダーである俺の管理責任だ。俺は責任を取って冒険者を辞めることにする」

 「悪いのは全て僕なんだ。サミュエル君が責任を取る必要はないよ。僕が冒険者を辞めるよ」

 「ちがう!いつも身勝手な行動をとっている俺が一番悪い。冒険者を辞めなければいけないのは俺だ!」

 「いえ、今回の事件はおそらく私の命を狙って起こった出来事だと思うの。私が冒険者を辞めれば、全て解決するわ」


 みんなそれぞれが自分のせいでこのような事態になったと重く受け止めて冒険者を辞める事によって責任を取ろうとしていた。

 

 1年後・・・

 私はヴァロテンヌの提供してくれた小さな小屋で、ふかふかの布団で寝ることが出来、1日3食の美味しい食事に、疲れた体を癒してくれるお風呂まで入れるという天国のような暮らしと、チェインメイルに可愛い刺繍の入ったピンクのサーコート、魔銃もフラムを用意してくれた。

 私はヴァロテンヌの期待に応えるべき日々の鍛錬に励みながら、ヴァロテンヌからも指導をしてもらい、1年後には立派な冒険者になっていた・・・はずであった。

 コミュ障で人と関わるのが苦手な私が、見ず知らずの人に与えられた小屋で、安心して寝れることは出来ずに、睡眠不足になり、ヴァロテンヌのメイドが運んでくれた食事も、メイドと関わるのが嫌で扉を開ける事が出来ずに、居留守をつかって拒否をした。夜になるとヴァロテンヌが様子を伺いに訪れる事に恐怖を感じた私は、二日目の朝には小屋を抜け出してしまった。

 せっかく用意してくれた装備品などを持っていくわけにもいかないので、全て小屋に置いて来た。手紙と一緒に・・・


 『ごめんなさい。やっぱり無理です』

 
 と書き残して私はパステックの町から逃げたのであった。


 こうして、私は新たな旅に出て平穏なぼっち生活を満喫するのであった。


 ※中途半端ですが評価が全く伸びなかったので、ここで打ち切りにします。最後まで読んでくれてありがとうございます。


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