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パーシモンの町パート6

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 マグマ石が、全てなくなっているので、何があったのか、タヌキングに聞いてみる事にした。

 タヌキングは、よほど恐ろしい目にあったみたいで、ガクガクと震えている。


 「タヌキング、洞穴には、マグマ石はなかったぞ。どうなっているのだ」

 「うーーー、うーーーー」

 「トール、タヌキングが怯えているだろう。もっと優しく言えないのか」

 「わかったぜ、おいタヌタヌ、マグマ石はないのだが、なぜなのかなぁ~」

 「うーーーー、うーーーー」

 「トールさんでは、無理みたいですわ。私に任せてよ」

 
 マグマ石がなくて、かなり不機嫌なサラちゃんに、任せて大丈夫なのか心配である。


 「タヌキさん。私のマグマ石がないのよーー。どこに隠したのよーーー」

 「うーーーー、うーーーーー」

 「何を言っているのよーーー。私のマグマ石はどのなのよーーー」


 サラちゃんは、怯えて、話せないタヌキングに、イライラしてきた。サラちゃんは、タヌキングに目掛けて、炎を吐き出した。


「私のマグマ石はどこなのよーーー」


 サラちゃんの吐き出した炎は、タヌキングの頭をかすめて、タヌキングの、鋼のように硬い体毛が一瞬で燃え尽きた。

 
 「・・・勘弁してくだい。マグマ石は、さっき来た女の子が、全部持って帰ったのだと思います」

 「それは、どんな女の子でしたか」

 
 私には、犯人は分かっているが、確認の為に聞いてみた。


 「白い長い髪を、左右に結んだ、小柄な女の子です・・・」


 白髪のツインテールの女の子・・・・やっぱりクラちゃんだ。『世界の絶品珍味大事典』には、マグマ石のことは、もちろん書いてあった。クラちゃんは、今はグルメツアーをしているのに、間違いないのであった。クラちゃん相手では、モエタヌキもタヌキングも敵うわけがない。


 「そいつは、メデューから、ミスリルを、奪ったヤツじゃないのか」

 「そうですわ。また先に、やられてしまいましたわ」

 「その子は、一体何者なのよ」

 「私のマグマ石を!!!許せないわ」


 サラちゃんは、タヌキングを睨みつける。よほどマグマ石を、食べたかったのであろう。

 
 「マグマ石なら、この先にある火口の奥深くの、マグマ溜まりに行けば、まだあると思います。僕は、火口から噴火された、マグマ石を集めていますが、火口の奥深くに、行けるなら見つける事ができると思います」


 サラちゃんの睨みに、ビビったタヌキングは、少しでも、サラちゃんの、ご機嫌を取ろうと、必死であった。


 「本当なの」

 「はい。この山は、他の火山と違い甘火山です。なので、マグマ溜まりで、熟成されたマグマ石があると思います」

 「それなら私が行ってきますわ」

 「しかし、マグマ溜まりは、鋼をも溶かす、高温地帯です。入れる者は、いないと思います」

 「何を言っているのよーー。私は、火の聖霊神サラマンダーよ。私にとって炎は、心地い風みたいものよ」


 そう言うと、サラちゃんは、サラマンダーに変身して、火口からマグマ溜まりへと向かった。


 「初めて、サラが、役に立ちそうだな」

 「そうですね。私たちでは、火山の火口から、中へ入るなんて不可能ですわ」

 「でもあの食いしん坊のことだ。全部私の物と、言い出すかもしれないな」


 確かにサラちゃんなら、その可能性は高い。でも私は、サラちゃんを、信じる事にした。


 「トールお姉ちゃん。サラちゃんを信じましょう」

 「そうだな・・・ルシス。あいつを信じてみるか」


 30分ほど経過しただろうか・・・火口から、ものすごい勢いで、サラマンダーが飛び出してきた。そして、そのまま、飛んで、消えて行ってしまった。


 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」


 私たち4人は唖然として、声が出なかった。サラちゃんを信じた私が、バカであった。


 「これからどうする」

 「明日召喚して、マグマ石を、もらうのはどうですか」

 「あの食いしん坊が、残していると思うか」

 「・・・」

 「イフリート、サラと連絡は取れないのか」

 「サラマンダー様からは、連絡は取れますが、私の方からは、無理でございます」

 「他にないのか、タヌキングに聞いてみるしかないな」

 
 私たちは、タヌキングに、他にマグマ石はないか確認したが、やはり、もうないとのことだった。なので、マグマ石は、諦めて、コチンコチン山に、向かう事にした。氷河石は、食べる事はできないので、クラちゃんも、手を出していないだろう。やっと冒険者らしく、アイテム集めが、できることを私は願っている。

 カチンカチン山を降りると、すぐ向かいにコチンコチン山が見える。コチンコチン山には、ウサクイーンという水、氷属性の魔獣が住み、魔力で、全ての木の葉を、凍らせている。なので、山は、氷の山と化している。

 コチンコチン山には、キュンウサギという、ウサクイーンの配下の魔獣の群れが生息している。モエタヌキ同様に、可愛らしい大きな赤い瞳と、白くてフサフサの毛並みで、見るものを、キュンキュンさせて、なぜ山に入ったのか忘れて、キュンウサギの虜になってしまうのである。虜になった冒険者はとても心を癒やされて、目的を忘れて、山を降りて行くのであった。


 「あれがコチンコチン山か、噂通りの凍った山だな」

 「そうですな。カチンカチン山と違って、今度は、気を引き締めて、登らないとね」

 「そうだな。ポロンは特に、キュンウサギには、気をつけろよ。カチンカチン山でも、ずっと、モエタヌキを、肌身離さずに抱えていたからな」

 「そんなことありませんわ。あれは、傷ついていたから、治療をしてあげただけよ」

 「なら、なんで、コチンコチン山を降りる時に、大泣きして、モエタヌキに、別れを告げたんだ」

 「それは・・・友情が芽生えたからよ」


 モエタヌキ、キュンウサギの魅了の能力は、魔獣を見て、かわいいと感じてしまったら、その心につけ込んで、魅了されてしまう。なので、決して、かわいいと感じてはいけないのである。ちなみに、ポロンさんは、モエタヌキに魅了されたのではなく、本当に可愛くて、ずっと抱きしめていたのであった。

 私たちは、シールドを張って、寒さ対策をし、コチンコチン山に入った。まわりの木々は、全て凍っていて、氷の世界に迷い込んだみたいである。地面も凍り付いていて、気を抜いてしまうと、滑って転んで、怪我を、してしまいそうである。

 凍り付いた、地面では、かなり戦闘はやりにくそうである。しかし、キュンウサギは、魅了しかしてこないので、戦うことにならないので、問題ないと思われる。

 山も、中腹くらいに差し掛かっと時に、キュンウサギが、ぴょんぴょん跳ねて、現れた。

 白い美しい毛並みに、可愛らしい赤い大きな瞳。長くて、綺麗な二本の耳。そして、ぴょんぴょん跳ねるかわいい姿。普通の人なら一瞬で、魅了されてしまいそうである。

 しかし、前もって分かっていれば、問題はない。かわいい姿を、見なければいいのである。うさぎごときの可愛さで、私の心が、負けるわけがないのである


 「ルシス・・・・・」


 しかし、初めにキュンウサギに飛びついて、抱きしめに行ったのは、私であった。だって・・・めちゃくちゃ、かわいいんだもん・・・
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