ハズレ職業【フリーター】を授かった少年は、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを修復して最下層の泥底から成り上がる

ninjin

文字の大きさ
1 / 62

第1話 王都ケーニヒシュタットの洗礼 

しおりを挟む
 「さあ、着いたぞ坊主。王都正門前だ」

 御者の声に促され、アルトは初めて見る大都会の石畳に降り立った。その足元には、彼の故郷の畑のような土の感触は、一切なかった。城門をくぐると、アルトの五感は一斉に王都の【超一流】な現実に晒された。
 通りを歩く人々は故郷のくたびれた農民服とは違う。色鮮やかな絹や、仕立ての良いウールを着込み、清潔で生き生きとしていた。そして、アルトの足が、思わず立ち止まったのは、大通りに面した一際豪華な一角だった。

 【高級薬草と治癒魔導具販売店『聖なる治癒』】

 その店は、故郷の家々が石ころに思えるほど高く、店全体が漆黒に磨かれた大理石で造られていた。太陽光を反射して冷たく、威圧的に輝くその外観は、まるで貴族の館か、あるいは闇の巨塔のようだった。巨大な窓には透明なガラスが嵌められ、内部のきらびやかな調度品が覗いている。店の入り口には、全身銀色の鎧で武装した、警備兵士が二人、微動だにせず立っている。ショーケースに並ぶのは、故郷の母が長年苦しむ病を治療するために、喉から手が出るほど欲しかった高価な治癒魔道具だ。小さな治癒魔道具1つが、アルト一家の10年分の生活費に匹敵する値段をつけている。

 アルトはそのガラスに顔を近づけて、宝物のように輝く治癒魔道具を必死に覗き込んだ。

「おい、そこの汚い坊主」

 低い声が響いた。アルトは、警備兵士が言うような「汚い坊主」というよりも、故郷の貧しい生活には不似合いなほど華奢で整った容貌をしていた。細身の体型に幼さが残る白い肌。彼の明るい亜麻色の髪は目元に影を落としていたが、その奥にある瞳は澄んだロイヤルブルーをしていた。今日の彼は、故郷を出るにあたり新調した簡素だが清潔な服を着ており、それは彼の心に宿る希望を表しているかのようだった。しかし、王都の豪華な服と比べれば、そのみすぼらしさは隠しようがなかった。

 アルトは低い声にビクッと体を震わせた。店の入り口の警備兵士の一人が、アルトを上から下まで値踏みするように見た後、蔑むように言った。

「そこのガラスに触るな。お前のような貧乏人が触れたら、店の格が落ちる。さっさと立ち去れ。ここはお前の来る場所じゃない」

 警備兵士の言葉は、まるで鋭い石つぶてのようにアルトに突き刺さった。

「うっ……ごめんなさい!」

 顔を真っ赤にして謝り、急いで店の前を離れる。警備兵士は最後までアルトを見下ろしたまま、微動だにしなかった。

 (くそっ!見てるだけだってのに、ここまで言われるか!でも、見てろよ。今は汚ねえ小僧だけど、神様が絶対に俺にすげぇ職業をい授けてくれるんだ!)

 アルトは強く決意した。すれ違うのは、胸に銀獅子の紋章をつけた金色の鎧を着た騎士団。そして、大酒を飲んでいるA級冒険者パーティ。彼らの姿全てが、アルトの目指すレア職業を手にした成功の眩しい未来だった。その勇猛な姿を見ると不安は消え去り、胸の中は熱い決意でいっぱいになる。

「僕も超一流になるんだ!」

 アルトは強い志を抱き王都の中心部、太陽の光を反射して輝く巨大なヴェルクマイスター大神殿へと走り出した。

 大神殿の正面は、純白の大理石で築かれており、柱の一本一本に、戦士の剣、魔法士の杖、商人の天秤など、あらゆる職業の精巧なレリーフが彫り込まれている。それは、職能の神ヴェルクマイスターの力と慈悲を象徴する荘厳さだった。大神殿の内部は、外の喧騒とは打って変わって静寂に包まれていた。天井は遥か高く、ステンドグラスから差し込む光が神聖な雰囲気を醸し出す。アルトは思わず息を飲んだ。

 神殿の奥、最も神聖な祭壇の上には、巨大な神ヴェルクマイスターの像が鎮座していた。その像は、片手に研ぎ澄まされたノミを、もう一方の手に分厚い職業の書を持ち、全ての人間を見下ろしている。まるで、「お前たちの人生は、このノミで緻密に削り出される」と告げているかのようだ。

 儀式を受けるための若者の行列が、大神殿の床を埋め尽くしている。アルトは緊張で震える手で、革のバッグを抱きしめた。

 (頼みます、ヴェルクマイスター様。僕に家族を救えるだけの立派な職業を授けてください!)

 アルトは像に向かって深く頭を下げ、胸の中で熱い祈りを捧げた。


 長い行列はゆっくりと進む。ついにアルトの順番の直前になった。

 アルトの目の前で儀式を受けていたのは、派手な服を着た、王都の商人の息子らしき青年だった。彼は興奮した面持ちで水晶玉に触れる。水晶が眩い光を放ち、やがて収束した。神官が、威厳に満ちた声で告げる。

「マルクス・フリッツよ。お前が神から授かりし職業は……『大商人』だ!」
「やった!大商人だ!」

 青年はガッツポーズをし、周囲からは祝福と羨望のざわめきが起こる。

「いきなり大商人かよ!すげえな!」
「将来、絶対に国を動かす金持ちになるぞ!」

 アルトも思わずゴクリと唾を飲み込んだ。大商人。羨ましい。だが、次は自分の番だ。

「次の者、前へ」

 アルトは深呼吸をして胸を張って祭壇へ進み出た。そして、緊張で震える手を水晶玉に触れた。水晶が光を放ち、アルトの全身の力を吸い取っていくような感覚が走る。周囲の視線が、アルトと水晶に集中する。全員が次なる吉報を待っていた。やがて光が収束し、神官は水晶玉に浮かび上がった文字を確認した。 神官はアルトに向き直った。その顔は祝福や歓喜とは程遠い、困惑と深い深い哀れみに歪んでいた。

 神官は一度、周囲を見回した。そして、先ほどとは違い小声でアルトに告げる。

 「アルト・ヴィーゼンよ。お前が神から授かりし職業は……『フリーター』だ」

『ドォン』と頭の中で何かが砕ける音がした。その直後、神殿中に抑えきれないざわめきと、あからさまな失笑が広がった。

「フリーター!?嘘だろ、あのハズレ職かよ!」
「まさか、ヴェルクマイスター大神殿でフリーターを見るなんてな!」
「あーあ、可哀想に。あの地味な服からして、なんとなく察してたけど」

 アルトの頭は真っ白になった。期待の絶頂から、一瞬にして絶望の谷底に突き落とされた。

 (なんで、こんなひどい職業を授けるんですか!?こんなのあんまりだ!)

 神官は目を合わせるのも辛いといった様子でアルトを促した。

「アルト・ヴィーゼンよ。フリーターはあらゆる雑務を器用にこなすが、どの専門職にも進歩しないので継続雇用は難しい日雇い専門の職業だ。くじけず地道にがんばりたまえ」

 アルトはその場から逃げるように、失笑の渦巻く神殿を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。  そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。  しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!  命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。  そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。 ――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです

桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...