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魔王ストレイシープに挑んだ正統勇者一行は、圧倒的な実力差を見せつけられて戦意を喪失した。身長2m体重120㎏の筋骨隆々の肉体を持つ戦士ミーランは、大剣を握りしめたまま地面に膝と頭をつけて大粒の涙を流しながら命乞いをした。ピンク色のショートカットの小柄でグラマーな女性魔法使いメーヴェと青色のセミロングの背が高い細身の女性僧侶クレーエは、絶望的な恐怖に飲み込まれ失禁したまま白目をむいて気を失った。しかし、魔王ストレイシープの圧倒的な強さを前にしても、ひるまずに鋭い眼光で戦いを諦めていない者がいた。
「これほどまでに実力差があるとは思わなかった。でも俺たちは負けない」
勇者アルバトロスの目は死んではいない。戦意を失った他の3人とは違い金色に輝く瞳には希望の灯が揺らめいていた。
「まだ俺に戦いを挑むとはさすが正統勇者と言われるだけのことはある・・・と言いたいところだが、お前の勇気はただの無謀にすぎない。お前たちが俺に敵わないのは一目瞭然だ。お前にできることは一つだけ、王都に戻って魔王軍に全面降伏するように王に嘆願することだ」
「それはできない相談だ。確かにお前に勝つことは不可能だ。しかし、俺には秘策がある。すぐに俺を殺さずに怠惰な時間を作ったことを後悔しろ」
アルバトロスは隠し持っていた黒の宝玉を手に取り出した。
「なぜ、お前がそれをもっているのだ!」
魔王ストレイシープは真っ赤な目を見開いて大声で叫ぶ。
「世界入替」
アルバトロスはニヤリと勝利の笑みを浮かべて呪文を唱える。すると黒の宝玉は破裂して黒煙が辺り一面を覆いつくした。そして、その場は暗闇に支配された。
数時間後・・・
銀髪のウルフカットの男が目を覚ます。
「アルバトロス、ようやく目を覚ましたな。俺たちは奇跡的に助かったみたいだぜ」
目を覚ましたアルバトロスの瞳に映し出されたのは、戦士ミーランの安堵した笑みである。
「・・・」
しかし、アルバトロスは真っ青な顔をして何も言葉を発しない。
「アル、どうして私たちは助かったの?私は気を失っていて何も覚えていないのよ」
メーヴェはまだ腰を抜かして座ったままで、上手く立ち上がることができずにいた。
「私もです。恥ずかしながら怖くて意識を失い状況を全く飲み込めていません。魔王はどこに消えたのでしょうか」
冷静さを取り戻したクレーエは落ち着いた表情で淡々と話す。しかし、2人の問いかけにアルバトロスは返答することはなかった。
5年前、アルバトロスたちは勇者候補として魔王を倒すためにビアラークテア王国の王都エールトヌスを出発した。一方、魔王ストレイシープは幻影魔城【夢想】に居住して魔界と人間界を行き来していた。アルバトロスたちは幻影魔城【夢想】の出現情報を頼りに世界中を旅をしながら偉業を積み重ね、ついに正統勇者として認められたのであった。
正統勇者となったアルバトロスとその仲間たちは、ついに幻影魔城【夢想】を見つけ出し魔王ストレイシープに戦いを挑んだ。しかし結果は圧倒的な力を前にして正統勇者一行は敗戦した・・・とアルバトロス以外の3人は考えていた。
「アル、どうしたの?すごく顔色が悪いわよ」
正統勇者一行は誰も傷を負ってはいなかった。魔王ストレイシープは正統勇者一行に一方的に攻撃をさせ、どのような攻撃も通用しないことを身をもってわからせた後、圧倒的な力を見せつけて、正統勇者一行に攻撃を一度も与えずに心だけを破壊した。
なぜ、魔王ストレイシープがそのようなまわりくどいやり方を選んだのかは理由がある。それは、人間があまりにも弱すぎたからである。これは決して魔王ストレイシープの驕りでも怠慢でもなく実際に人間は余りにも弱すぎた。そこで、今回の正統勇者との戦いはこのような手段を選んだのである。
これは無駄な殺生をしないという高尚な考えではなく、戦う価値がないという卑下していることを意味していた。そして、圧倒的な実力差がある魔王軍が未だに人間界を支配できていないのは、魔王軍の最高権力者であり、魔王軍最強の魔王ストレイシープが、人間のあまりの弱さに落胆してやる気がないからであった。それでも時折人間界に姿を見せるのは、正統勇者と呼ばれる人間界最強の人物が、どれほどの実力があるのか少なからず興味があるからだ。
幻影魔城【夢想】に辿り着くことができた正統勇者一行はアルバトロスだけではない。魔王軍が人間界に姿を見せた300年前から、幾度か正統勇者一行は幻影魔城【夢想】に誘導されるように辿り着いていた。しかし、人間界最強ともてはやされていた正統勇者一行の実力を見て魔王ストレイシープは落胆した。実力の1%も出すことなく正統勇者一行を巨象に踏み潰される蟻のように何もさせずに圧倒した。
今回も魔王ストレイシープは圧倒的な実力差を見せつけたが、生きて帰れるように調整した。それは300年という人間界では長い年月にあたるが、魔界では短い年月の遊びを終わらせるのが目的だった。
「お・・・思い出せない。なぜ俺はここに居るのだ?それに俺は一体だれなんだ。記憶が・・・全ての記憶が思い出せない」
アルバトロスは重い口を開いて仲間に聞こえるように呟いた。
「記憶がないとはどういうことだ!」
ミーランは大声で叫ぶ。
「・・・何も思い出せない」
俯いたアルバトロスの言葉には生気はなく絶望感に支配されていた。
「これほどまでに実力差があるとは思わなかった。でも俺たちは負けない」
勇者アルバトロスの目は死んではいない。戦意を失った他の3人とは違い金色に輝く瞳には希望の灯が揺らめいていた。
「まだ俺に戦いを挑むとはさすが正統勇者と言われるだけのことはある・・・と言いたいところだが、お前の勇気はただの無謀にすぎない。お前たちが俺に敵わないのは一目瞭然だ。お前にできることは一つだけ、王都に戻って魔王軍に全面降伏するように王に嘆願することだ」
「それはできない相談だ。確かにお前に勝つことは不可能だ。しかし、俺には秘策がある。すぐに俺を殺さずに怠惰な時間を作ったことを後悔しろ」
アルバトロスは隠し持っていた黒の宝玉を手に取り出した。
「なぜ、お前がそれをもっているのだ!」
魔王ストレイシープは真っ赤な目を見開いて大声で叫ぶ。
「世界入替」
アルバトロスはニヤリと勝利の笑みを浮かべて呪文を唱える。すると黒の宝玉は破裂して黒煙が辺り一面を覆いつくした。そして、その場は暗闇に支配された。
数時間後・・・
銀髪のウルフカットの男が目を覚ます。
「アルバトロス、ようやく目を覚ましたな。俺たちは奇跡的に助かったみたいだぜ」
目を覚ましたアルバトロスの瞳に映し出されたのは、戦士ミーランの安堵した笑みである。
「・・・」
しかし、アルバトロスは真っ青な顔をして何も言葉を発しない。
「アル、どうして私たちは助かったの?私は気を失っていて何も覚えていないのよ」
メーヴェはまだ腰を抜かして座ったままで、上手く立ち上がることができずにいた。
「私もです。恥ずかしながら怖くて意識を失い状況を全く飲み込めていません。魔王はどこに消えたのでしょうか」
冷静さを取り戻したクレーエは落ち着いた表情で淡々と話す。しかし、2人の問いかけにアルバトロスは返答することはなかった。
5年前、アルバトロスたちは勇者候補として魔王を倒すためにビアラークテア王国の王都エールトヌスを出発した。一方、魔王ストレイシープは幻影魔城【夢想】に居住して魔界と人間界を行き来していた。アルバトロスたちは幻影魔城【夢想】の出現情報を頼りに世界中を旅をしながら偉業を積み重ね、ついに正統勇者として認められたのであった。
正統勇者となったアルバトロスとその仲間たちは、ついに幻影魔城【夢想】を見つけ出し魔王ストレイシープに戦いを挑んだ。しかし結果は圧倒的な力を前にして正統勇者一行は敗戦した・・・とアルバトロス以外の3人は考えていた。
「アル、どうしたの?すごく顔色が悪いわよ」
正統勇者一行は誰も傷を負ってはいなかった。魔王ストレイシープは正統勇者一行に一方的に攻撃をさせ、どのような攻撃も通用しないことを身をもってわからせた後、圧倒的な力を見せつけて、正統勇者一行に攻撃を一度も与えずに心だけを破壊した。
なぜ、魔王ストレイシープがそのようなまわりくどいやり方を選んだのかは理由がある。それは、人間があまりにも弱すぎたからである。これは決して魔王ストレイシープの驕りでも怠慢でもなく実際に人間は余りにも弱すぎた。そこで、今回の正統勇者との戦いはこのような手段を選んだのである。
これは無駄な殺生をしないという高尚な考えではなく、戦う価値がないという卑下していることを意味していた。そして、圧倒的な実力差がある魔王軍が未だに人間界を支配できていないのは、魔王軍の最高権力者であり、魔王軍最強の魔王ストレイシープが、人間のあまりの弱さに落胆してやる気がないからであった。それでも時折人間界に姿を見せるのは、正統勇者と呼ばれる人間界最強の人物が、どれほどの実力があるのか少なからず興味があるからだ。
幻影魔城【夢想】に辿り着くことができた正統勇者一行はアルバトロスだけではない。魔王軍が人間界に姿を見せた300年前から、幾度か正統勇者一行は幻影魔城【夢想】に誘導されるように辿り着いていた。しかし、人間界最強ともてはやされていた正統勇者一行の実力を見て魔王ストレイシープは落胆した。実力の1%も出すことなく正統勇者一行を巨象に踏み潰される蟻のように何もさせずに圧倒した。
今回も魔王ストレイシープは圧倒的な実力差を見せつけたが、生きて帰れるように調整した。それは300年という人間界では長い年月にあたるが、魔界では短い年月の遊びを終わらせるのが目的だった。
「お・・・思い出せない。なぜ俺はここに居るのだ?それに俺は一体だれなんだ。記憶が・・・全ての記憶が思い出せない」
アルバトロスは重い口を開いて仲間に聞こえるように呟いた。
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「・・・何も思い出せない」
俯いたアルバトロスの言葉には生気はなく絶望感に支配されていた。
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