逆転勇者~勇者と体が入れ替わった魔王が辿る敗戦勇者の敗走譚~

ninjin

文字の大きさ
18 / 18

しおりを挟む
 巨乳それは恐ろしい特殊効果を持つスキルである。俺が体感した三つの特殊効果を説明しよう。
 最初に俺が体感したのは殺気を感じずに背後を取られ背中に巨乳を押し付けられた時だ。その時俺は、心が熱湯のようにぐつぐつと煮えたぎる感情が芽生え、その感情に呼応するかのように顔が急激に熱くなり真っ赤に染まる失態をおかしてしまった。あの時すぐにメーヴェから離れたことにより事なきを得たが、あのまま巨乳を押し付けられていれば俺はどのような結末を迎えていたのだろうか?想像するだけで背筋が凍る思いである。
 次は水浴びを覗き見をした時である。近くで確認できなかったので詳細に説明することはできないが、遠目からでもわかる美しいフォルムに大きく揺れるその姿は、見る者の心を魅了して制御不能な行動を発動させる危険な効果であった。
 最後に顔に巨乳を押しつけられて新たな効果を知ることになる。これは上記の二つが魅了もしくは洗脳の効果があるとすれば、最後の巨乳の効果は精神異常を解除する効果と言えるだろう。戦闘で正面から堂々と敵の顔を胸に沈める行為は不可能に近いうえ、大きなスキを与えて返り討ちに合う危険がある。そのことから考えるとおのずとこれは仲間が精神攻撃を受けた時にする治療行為だと解釈すると納得がいく。

 巨乳とは魔力を必要としないスキル、人間にはスキルという特殊な力が宿っている情報は今までに確認がとれていなかった。これは人間が魔族にひた隠しにしていた切り札だと言える。俺は人間をなめていた。300年間も魔族を欺き弱者を演じ続けたのは、人間が魔族に勝つ最高の舞台が整うのを待ち続けているからである。おそらく、人間が隠しているスキルは巨乳だけではない。覗き見したときにクレーエの小さな二つの物体からも、メーヴェの巨乳と同じ効果を感じた。
 アルバトロスよ、俺と魂を入れ替えたことを後悔させてやる。俺は人間がひた隠しにしているスキルの秘密を暴いてやる。


 「メーヴェ、ありがとう。お前のおかげで元気を取り戻せた」


 俺の心はスッキリとしていた。それは、人間の体になって全てを失った俺が明確な目的を得たからである。目的を見つけた俺の表情は感情溢れる心地よい顔になっていた。その表情を見たメーヴェはさらに俺に巨乳を押し付けるように抱きしめる。


 「アル、何を悩んでいたかは聞かないわ。でも、なにか吹っ切れることができたのね」


 俺の顔は巨乳に浸食されるようにムニュムニュとうずもれていく。まるでモフモフの魔獣の毛皮に飛び込むような感触だ。なんてフワフワで気持ちが良いのだろう・・・なんて暖かくて心が平穏になるのだろう・・・なんて甘くてクリーミーな香がするのだろう・・・


 「あら、アルが寝ちゃったわ」
 「アルは疲れていたのでしょう。ここで少し休息を取ってから移動しましょう」
 「そうだな。少し休んでから行こうぜ」


 俺は心地よい眠気に誘われて眠りに陥りそうになっていた。なぜ急にねむたくなったのか理由は簡単だ。俺の巨乳に対する分析が間違っていたからである。俺は巨乳には精神異常を解除する効果があると説明したがそれは間違っていた。あれは相手を油断させて近づいて、ひと時の安らぎを与えながら眠らせる睡眠魔法のような効果を持っていたのだ。俺はメーヴェの策略にハマったのかもしれない。メーヴェ、お前は俺を眠らせてどうするつもりだ。お前も俺が魔王だと気が付いたのか・・・いや、それは早計な考えだ。ミーラン同様に疑っている段階だのであろう。

 30分後、俺は後頭部に暖かくて柔らかい感触を感じる。俺はハッとして目を見開いた。すると俺の予測は的中していなかった。俺の目の前には視界を遮る大きな物体が二つある。下から見てもこの物体のフォルムはとても美しく魅惑的だ。アダムとイブが禁断の果実を手にしたように、俺も手を伸ばして大きな物体を掴みたいと思わせる。いや、今はそれよりも気になることがある。それは俺の後頭部にある暖かくて柔らかい存在である。俺はその存在を目の前にある大きな物体だと思っていたが、俺の予測は外れていた。だが、この心地よい感触は非常に巨乳と似ている。この柔らかい物体に後頭部を預けていると、波の上にぷかぷかと揺れる流木のように心を無にして波に身を任せたくなる。人間の体になったこと、ミーランやメーヴェに魔王だとバレないか不安なこと、俺の今後の人生のこと、俺を悩ます全てのことがこの物体に触れている間は忘れさせてくれる。
 その時俺はハッとあることに気付き驚愕する。これはまさに前門の虎後門の狼である。目の前には巨乳後頭部には謎の柔らかい物体、これは絶対絶命の危機的状況である。俺はメーヴェの二つのスキルによって完全に心と体を支配された状態にあるのだ。ここからすぐに逃げ出さないといけないのは理解している。しかし、俺はこの場から離れたくはない。迂闊だった。絶対強者の俺が完全にメーヴェの術中にハマったのである。メーヴェ、お前は俺をどうするつもりだ・・・嘆きの声が心にこだまする。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

処理中です...