悪役令嬢と聖女をひとつの島に詰め込む話 ~生やされたくないので戦争をする~

U輔

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第16話 ギロチン令嬢「ご冥福をお祈りしますの」

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 レイネたちが階段を降りた先、暗闇の中は、事前の情報通り下水になっているようだった。
 グーラが掌に「採光」の魔法を使って光を灯し、辺りを確認する。

 道幅は広く取られていた。水路の脇をメンテナンス用の道が通っているというより、まるでその逆である。柵によって区切られた広場や通路が、開けた空間を迷路のように走り、その間を水路が通っている。
 人が住んでいないためか、なんとなく覚悟していたような強烈な悪臭、というものは特にない。強いて言うなら腐った水のような匂いが、前髪をしっとりとさせる強い湿気と共に届いてくる程度。いっそ清潔感すらあった。

 レイネは言う。

「どうですの? さっきの人形……気づかれましたか?」
「どうだろうな。少なくともこちらを見たような様子は無かったが」
「気づかれてない……と楽観するのは危険かもしれませんね。知らない人がこちらに手を振ってましたし」

 一瞬の沈黙が落ち、

「……さっき、の、アイシャ・グリーンベレーじゃなか、った? 気のせい?」
「そうでしたの? うーん、一瞬だったのでわかりませんでしたね」
「なまらでっけえカミキリムシに乗ってた系ー」
「ああーーーー、そういえば。ティス子ちゃんじゃなかったので気づきませんでした」

 こいつ……、という空気が蔓延する中、グーラが1歩を踏んだ。

「ちょいちょい、明かり持ってるのグーラちんだけなんだから勝手に進まんといてー」
「錬金術とか変なアイテムとかでどうにかならないのか?」
「錬金術はそんな便利なものじゃないっしょ。あ、でも……戦闘機ゴーレムのヘッドライトとかなら、ワンチャンツーチャンスリーチャン?」
「それ、出すとどうなりますの?」
「天井と戦闘機のどっちが頑丈かって話だねー」
「やめときましょう?」

 やめておいた。
 こちらを無視してなのか最初から気にしてないのか、グーラが言う。

「……とっさに飛び込んでみただけだったが、そう悪い引きをしたわけでもなさそうだ。見ろ」

 言われて皆が見る先、空間の奥には、さらに右へと続く空間と水路が見えている。
 どこかへと繋がっているのだ、というのは、言われずとも皆が理解できていた。

「ちなみにこれ、万が一行き止まりで、後ろからさっきのが追ってきたらどうなりますの?」
「そりゃあもちろん、袋の鼠、ってヤツだな。無論戦うが……」
「ていうか、さっき、の、アレ、何? RPG的には、ロボ系の、雑魚敵って、感じだったけど」
「そりゃあロボ系の雑魚敵じゃん? 単体ではあんま強そうじゃなかったっしょ。だけど」
「数が問題だな。終わりのわからないマラソンほど疲れるものはない」
「あーしマラソン嫌いー」
「ルカさん、割と体育会系に見えますけど」
「言うて乙女ゲーオタクなんでー」

 それはそうだ、と皆が頷いた。

「ま、とかくとにかく、進むしかないっしょー」

 と、ルカがグーラに続いて一歩を踏んだ時だった。

「!」

 風。光。吸い込まれるような反応と、明滅する何か。

 レイネたちが立つ通路の正面、開けた空間の中央で、稲妻を伴った嵐が生じた。

 》

 レイネたちは言った。風の中、

「ルカさん」
「ル、ルカ、ちゃん」
「ルカ……」
「え!? あーし!? あーしが悪いのこれ!?」

 などと言う間にも、空間の中央で生じた嵐はその風量と光を強くしていく。

 見た目としては、内側に収縮していく「何か」だ。風が巻き、その周囲を稲妻のような光が瞬き、それらが密度を濃くしていきながら中央へと集まっていく。

 と、

「!」

 グーラが掌に浮かべていた魔法の光球が、不意に砕けた。
 暗闇が戻り、光源は正面にある嵐が放つ稲妻だけになる。
 グーラが叫ぶ。

「……神聖力!? ならばこの稲妻は、悪役令嬢の力を減衰させる神聖術理の術式光!?」
「もっとわかりやすく!」
「聖女が何かやった!」

 なるほど、とレイネが納得する間にも、正面の風と稲妻は周囲から力を集めるようにしてどんどんとその密度を増していく。
 強風の中、やがてそろそろ立っているのも限界だ、という段に差し掛かったころ、

「――」

 ひときわ強い術式光がレイネの視界を焼いた。
 直後、不意に風と光が収まり、

「――」

 ぎ、という、鉄が鉄を擦る不快な音が、レイネの耳朶を叩いた。

 》

 ……え?

 レイネだからわかる。これは、刃が刃を受け止めた音だ。
 なにせ前世、ゲーム世界に転生した直後は、物珍しくてギロチンでそれはもう遊び倒した。弾数が無限で壊れたら消滅するとなれば、無意味に出したり消したり、手慰みに空中でぶつけたりなんでもありだ。なんなら電話中にガキンガキンやってたものだから通話相手の王子に「敵襲か!?」などと心配をかけたものだ。あとですごい怒られた。

 そんなレイネが感じたのだから、間違いはない。刃が振り下ろされ、それが刃によって受け止められた音。それが今、唐突に暗闇の中に響いたのだ。

 レイネは音源へと目をやった。

 暗いが、見えないこともない。音源はレイネの正面左にいたグーラだ。
 彼女が今、剣を手にして何かをこらえている。
 何、って、それは当然、

「――敵襲!」

 グーラの言葉と共に、今度は正面に炎が湧き上がった。

 》

 炎の魔法が放たれたのだ、と思った瞬間、それを光源として、レイネはいくらかのことを理解した。

 ひとつ。グーラが正面にいる何者かと剣を交えていること。
 ひとつ。炎を放った術者はさきほど嵐が消え去った場所の近くに立っており、傍らにもうひとりの人影が見えること。
 ひとつ、

 ……これを防がなければ焼け死ぬということ。

 だが正直、レイネはこういった事態には不慣れであった。
 前世、「さんぎょうかくめい!」に、このような典型的な魔法はなかったからだ。あったのは古代文明。それと神様が唐突に与える「ギフト」という理不尽な力、そしてそれらを扱う人間たちだけ。

 ……ギロチンで防げますでしょうか?

 わからない。壁は造れるだろうが、炎という不定形なものをどれだけ遮断してくれるか。どれだけの温度に耐えられるか。そして防いでどうするのか。そのあたりのことが不鮮明だ。
 魔法、という現象にこの場でもっとも熟達しているであろうグーラは、何者かと剣の鍔迫り合いの真っ最中だ。
 そういえばこの、グーラに剣を突きつけている人はなんだろうか。闇の中であることを差し引いてもよくわからない。もやがかかったようだ。強いて言うならたいそう小柄で、女性か少年であると思われた。
 敵。
 確かなのはそのことだけ。

 だが、

「――巻き添えですのよ!?」

 炎がもはや直近と言っていい位置まで迫り、グーラと謎の人影を始めとした5人を飲み込もうとする。

 その直前、

「!」

 レイネの前、正確に言うならグーラと敵とレイネの3人の前に進み出たものがあった。

「だめだ、よ、レイネちゃん。躊躇、しちゃあ」

 ガラル・モルテンであった。

 》

 レイネは、ガラルが背のリュックから何かを取り出したのを見た。
 金属製。盾にも剣にも見える、不思議な2メートルほどの構造体が、炎の魔法を受け止めた。

「!」

 競り合う。

 弾くでも消すでもなく、まるで炎が盾に吸着してしまったかのように鍔迫り合いを起こした。
 というか、

「サイズがおかしくありませんの!? 2メートルくらいのが出てきましたの!」
「収納系、の、魔法かかってるから、このリュック。大丈夫、レイネちゃんに作ってあげるヤツにも、同じ機能つけるよ?」

 それ本当にポンとあげていいものですの? とレイネは突っ込もうと思ったが、ひとまずこの場ではやめておいた。
 ガラルが言う。

「よく、あるじゃん。1回だけ、瀕死のダメージとか、呪いとか、防ぐやつ。地球にあった『無限プチプチ』から着想を得て、あれの制限解除版、を、作って、みたんだけど」
「それ世界がひっくり返るヤツでは?」
「う、ん。ひっくり返ったから、試作品持って魔界に逃げて、その後はまあ色々、と」

 本当に色々とあったんだよ、とガラルは笑う。

「だからまあ、多分イケる、はず。こっちの世界、に、来てからも、色々実験したから。魔法。スキル。ギフト。どんな攻撃も、1回防ぎ、弾き、消し去る。その後、は、沸騰したお湯で3分。元通り」
「思ったよりプロセスが庶民的で結構なんですが」

 レイネは、気になったことを問いかけた。

「弾きも消しもしてなくないです? その盾」
「え」

 レイネの言葉通り、盾は炎を弾きも消しもせず、受け止め、その威力とせめぎあっている。
 盾を持ったガラルの足は、炎の勢いに押され、ず、と1歩分を後退すらさせられており、

「……おかしい、ね?」

 言った瞬間、ガラルの体が盾と共に炎に飲まれた。
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