悪役令嬢と聖女をひとつの島に詰め込む話 ~生やされたくないので戦争をする~

U輔

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第18話 ギロチン令嬢「役立たずですの」/発明令嬢「持ち物、に、名前は書くでしょ? 普通は自分の名前? それはそう」

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 少女が正面の空間を杖で撫でるように一振りすると、その軌跡を辿るようにして複数の炎球が生成された。
 レイネは言う。

「ちょ、ちょっと! 気持ちはわかりますけども、いくら相手が陽キャだからとていきなり攻撃していいとでも!? 気持ちはわかりますけども!」
「レイネちん?」
「は! そっちが正論かますならこっちも正論で対抗しますよ!? さっきもいきなり攻撃したので今更です!」
「本当に正論で対抗してきましたね!」

 無数の炎が放たれ、剣をかまえたグーラと、土と銀、2体のゴーレムを新たに出したルカが弾かれたように走り出した。
 炎ひとつひとつのサイズは50センチほど。さきほどよりも速度は遅く小さいは小さいが、ガラルの燃え具合を思い出すに、レイネが食らったらたぶん死ぬ。
 レイネは訊いた。

「ガラルさん、さっきのアレ、燃えて生還するヤツどうやったんですの!? 私にもできますか!?」
「アレ、は、まず、エンシェントドラゴンにイケメン魔族が軽く攻撃を当ててヘイトを引き付けて。その上で自分は安全圏から、12時間、ほど、ちくちく攻撃をする。そうやって、倒すと、経験地がまるっと入ってくるから。それ、を、150回ほど」
「参考にならないことはわかりましたわ!」

 まさか姫プによるものだとは思わなかった。

 グーラは何かしらの魔法を付与した剣で。ルカはゴーレムを雑に突っ込ませて炎を弾いているが、レイネがアレを防ごうと思うならギロチンで壁をつくって亀になるしかない。そして壁で炎を防いでも蒸し焼きになる気しかしない。あまり相性はよくないと言えるだろう。
 だから、

「私、今回何もできませんわ!」
「潔い、のは、結構だけど。でも、何もできないってわけでもないよ?」
「え。それはまさか、囮になれとかそういう……」
「なりたい、なら、それでもいいけど……」

 ガラルは、リュックからさきほどと同じデザインの盾を取り出し、目の前に構える。

「出番、は、そのうち来るから。ちょっと待ってて。あっちの、魔法、は」

 言う。

「レイネちゃん、に、は。届かないから」

 》

 ガラルは走り出した。

 目標は無論、地下下水道の中央付近にいる魔法使いの少女だ。
 空間を無数の炎球が覆っているが、ガラルの盾はあらゆる攻撃を弾く。弾くはずだ。弾くはずだった。聖女の攻撃は弾けないと先ほど判明したが、それでも一瞬押しとどめる程度はできると証明された。

 盾を振る。そのシルエットは剣にも似ていて、その切っ先が複数の炎球を巻き込んだ。
 魔法とは奇跡を起こす力。炎の魔法とは対象を燃やす力。通常の炎は酸素を消費して燃料を燃やす現象だが、魔法の炎は魔力や神聖力を消費し、指定した「対象」を焼き尽くす。
 つまり多くの魔法は、適当な「対象」を用意して炸裂させてやれば、目標までは届かなくなるのだ。
 無数の炎がガラルの盾の表面だけを炎上させると、

「――」

 盾はやがて耐久力の限界を迎え、魔力の粒子となって消滅した。

 ……大体、20個くらい、は、消せるっぽいね……。

 ガラルは三度、背のリュックから新たな盾を取り出した。

 背後、レイネへと届きうる炎の数は残りおよそ180。盾の残りは15。追加があることを考えるなら、ガラルひとりで受けきるには少し厳しい。
 助けを求めて左右を見ると、グーラとルカは、炎の対処に追われながらもそれぞれの戦闘を開始していた。
 グーラは例の、もやがかかったように存在が希薄な剣士を相手に。
 ルカの相手は、床から湧き上がるように現れる能力を持つ忍者のような何かだ。

 救援は期待できない。この180はガラルが受けきるしかない。
 だが、

「――」

 魔法使いの少女が新たな炎を生み出し、放つ。
 数はおよそ100。空間を覆い尽くし、ガラルから少女への道筋を丁寧に塞ぐ。
 しかしガラルの目的は、少女の攻撃をレイネへと届かせないことであって、少女へと到達することではない。

 だから、

「……せいぜい、邪魔、させてもらおうかな」

 》

 レイネは見た。

 ガラルがリュックから、一振りの剣を取り出したのを。

 ……あれは……!

 相手の少女は魔法使いだ。今のところその攻撃手段は炎球だけに留まっているが、純正の魔法使いならばその手札には限りがない。
 その援護がある限り、左右、グーラとルカのふたりは存分に力を発揮できないだろう。現に今も、ふたりはそれぞれの相手と切り結びながら、同時に少女が放つ炎球への対処を余儀なくされている。
 だから、ガラルの目的はその邪魔だ。
 少女の注意を引き付け、ふたりへの援護とする。少女の魔法の矛先を、己へと傾ける。
 そのためには少女に、「あのパーカー女は明確な脅威だ」と認識させる必要があったのだ。

 その手段を、ガラルはリュックから取り出したのだ。

 》

 ガラルが取り出した剣は、金色の剣身を持っていた。
 ガラルが取り出した剣は、細身だが豪奢な装飾を施されていた。
 ガラルが取り出した剣は、輝くような光を放っていた。

 レイネは呟く。

「まさか……そんなものまで造れますの……!?」

 媒体によって形と色は違うが、その名を知らぬものは現代日本にはいないであろう、それは伝説と謳われる名剣だ。

 選定の剣。
 王者の証。
 支配の象徴。
 国を興す力。
 それを台座から抜いたものを、人ならざるものへと変貌させる祝福の――あるいは呪いの剣。

 レイネは見た。その剣を見た魔法使いの少女の目が、大きく見開かれたのを。
 それと同時、ゆったりと空間を漂うように進んでいた炎球が、みじろぎをするようにその軌道を傾け始める。
 例えその逸話、由来を知らずとも。「その剣」が「それ」であることは、誰の目にも明白だ。
 
 少女もまた例外ではない。その口から、その名が呟かれた。

「……エクス、カリバー……!」

 なぜ明白か、って、

「……書いてありますの……!」

 剣身の全てを覆う文字サイズで、なんなら表と裏の両方に、カタカナでそう書いてあったからであった。
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