上 下
7 / 16
1日目

07

しおりを挟む
何時間経ったのだろうか。僕はどうやら眠っていたらしい。部屋の電気はつけっ放しだ。全身にまだ痺れが残っていて、起き上がろうとしたときに一度転んでしまった。大きな音が部屋に響いた。外からは物音ひとつしなかった。

ひどく、喉が渇いている。元々二日酔いの体には酷な仕打ちだった。僕はトイレに駆け込んだ。濃い尿が少し出た。手洗いの蛇口から水を飲む。水が止まるまで、僕はそれを掬っては口に運んだ。

さて、脱出の算段を立てなくては。

今日の朝らしき頃、迂闊にドアへ向かったのは失策だったかも知れない。相手が少女と見て舐めてかかってしまった。これからは真剣に、異常者との対峙であると考えて立ち向かわなくてはならないだろう。

トイレを出て、小部屋へ。これほどまでに物がないと、脱獄のテクニックも用を成さない。小さな出入り口を押したり引いたりしてみる。鍵は頑丈なようで、思い切り蹴飛ばしても足先を痛めるだけだった。

壁の質感はどうだろう。普通の住宅としか思えない。叩いてみても音は響かなかった。軽い音が壁の向こうまで伝わる、我が安アパートが懐かしい。

四方の壁を調査していると、壁紙の継ぎ目がわずかに浮いていることに気がついた。爪で削ってみると、指先でつまめる程度に剥がれてくれた。慎重に力を込めて、引き剥がしてみる。壁紙が5センチほどめくれた。その下には、ドス黒い汚れがべっとりと染み付いていた。

僕は壁紙を元に戻し、冷んやりとしたフローリングに横たわる。

寝て目が覚めたら、公園のトイレに戻ってやしないだろうか。疲労でまだまだ寝足りなかったので、壁紙の下の様子はあまり想像しないようにしながら僕は再度眠りに落ちた。
しおりを挟む

処理中です...