4 / 14
第01章 テロメア・コントロール
第03話 【06】びていめもりい 03
しおりを挟む
尻尾が生えた。ズボンの形状が変わっていた。僕の記憶違いかもしれないが、その可能性は低い。トイレの便座の形状も微妙に変わっている。便座のふたに、尻尾をかけておくような窪みがついているのだ。これは夢だろうか。面白い何かを求めるあまり、願望が形となって……意識レベルから考えれば明晰夢だ。でも、目覚めようと意識しても変化が起きないし、周囲の環境のディテールは脳で処理できるレベルを超えている。
例のスマートフォンを手に取った。画面はブラックアウトしている。電源を入れると、画面にはこう表示されていた。
【インストールが完了しました】
そのポップアップを消して【テロメア・コントロール】のステータスを確認する。
【あなたの会員番号は0016です】
【現在のチャンネルに適用されているコンテンツは29です】
【現在ダウンロード可能なコンテンツは残り17です】
【あなたがダウンロード可能なコンテンツは残り06です】
おそらくだが、数字が変わっている。順当に増減している。
僕は寝る前、大学のあの部屋でダウンロードのボタンを押した。そしてロード中の画面にしたまま眠りについた。その間にダウンロードが終わり、そのままインストールが始まり、今の状況が出来上がった……と推理できる。
しかし、単なるアプリの機能としては、あまりにスケールがデカすぎる。にわかには信じがたいとはこのことだ。僕に尻尾が生えた……本当か? 錯乱しているのかもしれない。取り急ぎ第三者に相談したい。僕は自らのスマートフォンを取り出し、副編集長の益田を部室に呼び出した。
僕も慌てて外出の支度をする。寝癖のついた髪をなおしながら、こんなとき時でも見た目を気遣う己の神経に驚いた。
夜になり、地下の部室はさらに冷え込んでいた。長丁場になることを見越して、自宅の電気毛布を持参している。暖かだ。構内は夜十時を以て閉鎖されるが、この場所は警備員の巡回から外れており、過去に何度も徹夜を敢行した実績がある。
半刻ほど待って、益田が登場した。急げと言ったのにこの野郎、彼女の高山を連れている。
「どうした、無茶な呼び出しなんて珍しいな。ていうか寒くない?」
益田は坊主頭にかぶったニット帽を外して、鞄からホットの缶コーヒーを二本取り出した。僕の分ではなく、高山の分らしい。高山はニヤニヤと笑いながら椅子に座り、コーヒーを手元に引き寄せた。
「彼女でもできたのー、藤野君」
僕の普段の会話の程度が窺える低級な問いかけである。
「それが……なあ、今日なんか変なことが起きなかったか?」
「変なことぉ?」
「いや……わかんないけど」
「そうか……ならいいんだけど。俺はなんか凄いことが起きちゃってさ」
口で説明するより、見せたほうが早いだろう。僕は後ろ手に尻尾をつかみ、ズボンから引きずり出した。そして二人に背中を向け、尻尾を見せる。
「寝て起きたら、こんなのが生えてたんだ」
数秒の間。向き直ると二人は唖然としていた。
「おまえ……どうした? 意味分かんねえよ」
「そうなんだよ……いきなりこれ
「……きもちわるい。私帰るね」
「は?」
高山は怒ったような態度で荷物を持ち部屋を出て行った。益田は少し止めるようなそぶりを見せたが、その後、先に帰ってて、と手振りで合図した。二人は半同棲の間柄だ。
「いや、ちょっと待てよ。なんだその態度」
「なんだっておまえのせいだろ。いきなり何してくれてんだよ」
益田もなにやら怒っている。俺にはわけがわからない。
「欲求不満でおかしくなっちゃったのか?」
「待て。状況がわからない。落ち着いて話をさせてくれ」
いまにも掴みかからんとする益田を前に、俺はひとまず尻尾をしまった。高山が残していった缶コーヒーを開けて、一口飲む。
「尻尾が生えたってことなんだけど」
益田は怪訝そうな顔で言った。
「生えた、って、どういう意味だ?」
例のスマートフォンを手に取った。画面はブラックアウトしている。電源を入れると、画面にはこう表示されていた。
【インストールが完了しました】
そのポップアップを消して【テロメア・コントロール】のステータスを確認する。
【あなたの会員番号は0016です】
【現在のチャンネルに適用されているコンテンツは29です】
【現在ダウンロード可能なコンテンツは残り17です】
【あなたがダウンロード可能なコンテンツは残り06です】
おそらくだが、数字が変わっている。順当に増減している。
僕は寝る前、大学のあの部屋でダウンロードのボタンを押した。そしてロード中の画面にしたまま眠りについた。その間にダウンロードが終わり、そのままインストールが始まり、今の状況が出来上がった……と推理できる。
しかし、単なるアプリの機能としては、あまりにスケールがデカすぎる。にわかには信じがたいとはこのことだ。僕に尻尾が生えた……本当か? 錯乱しているのかもしれない。取り急ぎ第三者に相談したい。僕は自らのスマートフォンを取り出し、副編集長の益田を部室に呼び出した。
僕も慌てて外出の支度をする。寝癖のついた髪をなおしながら、こんなとき時でも見た目を気遣う己の神経に驚いた。
夜になり、地下の部室はさらに冷え込んでいた。長丁場になることを見越して、自宅の電気毛布を持参している。暖かだ。構内は夜十時を以て閉鎖されるが、この場所は警備員の巡回から外れており、過去に何度も徹夜を敢行した実績がある。
半刻ほど待って、益田が登場した。急げと言ったのにこの野郎、彼女の高山を連れている。
「どうした、無茶な呼び出しなんて珍しいな。ていうか寒くない?」
益田は坊主頭にかぶったニット帽を外して、鞄からホットの缶コーヒーを二本取り出した。僕の分ではなく、高山の分らしい。高山はニヤニヤと笑いながら椅子に座り、コーヒーを手元に引き寄せた。
「彼女でもできたのー、藤野君」
僕の普段の会話の程度が窺える低級な問いかけである。
「それが……なあ、今日なんか変なことが起きなかったか?」
「変なことぉ?」
「いや……わかんないけど」
「そうか……ならいいんだけど。俺はなんか凄いことが起きちゃってさ」
口で説明するより、見せたほうが早いだろう。僕は後ろ手に尻尾をつかみ、ズボンから引きずり出した。そして二人に背中を向け、尻尾を見せる。
「寝て起きたら、こんなのが生えてたんだ」
数秒の間。向き直ると二人は唖然としていた。
「おまえ……どうした? 意味分かんねえよ」
「そうなんだよ……いきなりこれ
「……きもちわるい。私帰るね」
「は?」
高山は怒ったような態度で荷物を持ち部屋を出て行った。益田は少し止めるようなそぶりを見せたが、その後、先に帰ってて、と手振りで合図した。二人は半同棲の間柄だ。
「いや、ちょっと待てよ。なんだその態度」
「なんだっておまえのせいだろ。いきなり何してくれてんだよ」
益田もなにやら怒っている。俺にはわけがわからない。
「欲求不満でおかしくなっちゃったのか?」
「待て。状況がわからない。落ち着いて話をさせてくれ」
いまにも掴みかからんとする益田を前に、俺はひとまず尻尾をしまった。高山が残していった缶コーヒーを開けて、一口飲む。
「尻尾が生えたってことなんだけど」
益田は怪訝そうな顔で言った。
「生えた、って、どういう意味だ?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる