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第01章 テロメア・コントロール

第08話 【10】もゆるひくすり 04

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「ごめんなさい、動揺してるでしょ」

 裸になった僕を押し倒して、下腹部に舌を這わせながら彼女は言った。

「頭のおかしな女だと思ってるでしょ?」
「いや……それは」
「いいの。仕方のないことだから」

 セックスはとことん僕が受け身となった。彼女は慣れた手つきで僕を愛撫し、やがて秘部へと僕を招いた。

「手順が雑で申し訳ないけど、とにかくお腹が空いていたの」
「なら先にご飯を食べればよかったんじゃ」
「……違うの。そういうことじゃなくて……」

 それは僕の人生でもっとも最高の時間だったかもしれない。自分が見てきた中で最も美しいほどの異性が、積極的に僕を求め、僕に委ね、僕を味わったのだ。ひとしきり交わって、僕は果てた。もったいなくて、相当に我慢した。彼女はまるで優雅な朝食を終えたあとのようなさわやかさで、行為の後始末をした。そして、一緒にシャワーを浴びて、僕はこの際もう2・3発ヤリたかったがーー服を着て、テレビの前にあるソファに並んで腰掛けた。目の前にはテーブルが置いてあり、脱衣のときに取り出した2台のスマートフォンがある。そこに彼女が取り出した例のスマートフォンが置かれ、計3台、並んだ。

「質問攻めにする前に、私から話すね」

 彼女は敬語ではなくなり、どことなく打ち解けた感が僕には嬉しかった。空腹を感じたが、食事の話題をすると彼女がまたおかしくなりそうで、思い止めておく。

「どこまで探ったかわからないけど、何も知らないことを前提に話すから。まず、君が手に入れたスマートフォン、それはこの世のものではないの」
「あまりにもふざけた力を持ってますし……なんとなくそれはわかります」
「どこから来たのかもわからないし、どういう仕組みなのかもわからない。ただ、この世界には、昔から【テロメア・コントロール】にアクセスできるデバイスが存在する。それは時代によって形を変え、既存のデバイスも、新たな改変が行われるごとにアップデートされていく」

 彼女は僕の理解が追いついているかを探るように、言葉を選んで話していく。

「人類の知覚を改変する強大な力。永きに渡り、世界を支配してきた強大な力。それが今、私たちの手元にある」
「世界を組み替える力、ではないんですか?」
「……ある程度は察しが付いているみたいね。でもそうじゃない」

「変わっているのは、あくまで人間。人間が世界をどう感じるか、どう観測するかという部分でーーいや、これは本質を問う話になるけど、真っ先に話すことではないか。……今あなたが置かれている状況について、まず、話さなければいけない」

 彼女は自身の端末の電源を入れた。既視感のある画面が表示された。

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