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第二章・アイゼンリウト騒乱編
第23話 おっさん、果たし合う・その一
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「よぉ今日も賑やかだな」
ある程度は予想していた。何か話をしたがっていたのは昨日の夜の内容からして解る。しかしこの楽しい雰囲気をぶち壊すとはよほど大切な話らしい。
「お主……余程懲りない性質らしいな?」
ファニーは嬉しそうに肉にがっついていた手を止め、傍にあった紙で口を拭くと、椅子から立ち上った。
「……この娘はどうしたんだ?」
「ああ、今日から俺たちの仲間になったリムンだ。それ以上でも以下でもない」
「……どうやら今日は日が悪いみたいだ。出直すとしよう」
昨夜しつこく食い下がったドラフト族の剛戦士ビッドは、顔色を悪くして足早に冒険者ギルドから出て行った。俺はファニーの背中を軽く押して、席に座らせる。何だったんだ一体。
「さぁ食べよう!」
俺は気になったものの、話を逸らして食事を始める。ファニーもリムンも気を取り直してまた食事を始めた。こうして初クエストは色々な問題はあったものの完了。
暫く食事を楽しみ御腹も心も満たされると眠気に襲われたので就寝する。寝るときはベッドが二つしかない為いざこざはあったものの、最終的には俺と一緒に寝るか女の子同士で寝るかとなってファニーとリムンは同じベッドで寝て朝を迎えた。揃って下へ降りると、ミレーユさんは神妙な面持ちで俺に一枚の紙を差し出して問う。
「どうする?」
「よく分からないけど逃げるのは無理そうだし」
「あのビッドっていう人は生憎うちのギルドの人間じゃないのよ。こちらが制止出来ないし、調停しようにも父は今出張中だし。相手のギルドを探して、っていう時間が無い。仮にギルドに所属していないなら、討伐っていう方法もあるけど確定していない状態でそれは出来ないし……。ごめんなさいね、お役に立てなくて」
「いや、ミレーユさんは悪くないよ。ここを根城にするならこれは避けられない」
「コウ、我も行くぞ」
「アタチも!」
「ダメ」
俺が一言で却下すると、二人は不満そうな顔をしていた。ファニーは眉間にしわを寄せているし、リムンは頬を膨らませている。でもこれは一対一の申し出だ。男としては女性と子供を連れてはいけない。
「一応依頼っていう形で紙と報酬を置いて逃げるように行っちゃったから、私も受けられないって言う暇も無くて。まさかこんな事になるなんてね」
「気にしないで。こっちも何で執拗に話を聞けって言ってきたのか、気にはなっていたから」
俺はそう言ってその話は終わりにしようと朝食を頼んで三人で食べた。夕餉と打って変わって黙々と食べているファニーとリムンは抗議のつもりだろう。俺は色々考えていた。言葉が通じて人と似ている者と戦う。恐らく果し合いと同じだ。となると斬らなければならない。斬るとなれば、俺は黒隕剣を抜かなければならない。
どんなものでも斬れる剣。俺は今日は起きてから予感がして帯剣していたが、その柄を触りどうするか考えた。結論は一つだ。
相手の武装を破壊する。あの絶世の美女は人族獣族なら捌けると言っていた。
それを信じて取っ組み合いに持ち込んで失神させる。ビッドは歴戦の勇者っぽいし、簡単には行かないだろう。しかし手加減や体の使い方を学ぶ前に訪れてしまったのだから、博打を打つような状況だが他に選択肢はない。
「じゃあ行ってくるよ。何度も言うけど、ダメなものはダメだから。でも必ず帰ってくるから、ミレーユさんに相談して暇ならクエストでもすると良いかもよ。お金は預けておくから、無駄遣いしないようにね」
「……」
「……」
二人とも頷きもせず黙って俺をにらんでいた。実に可愛らしい。
などと思うのは余裕なのか。何にしても死ぬわけにはいかない。
まだファニーに何もしてやれていない。
まだリムンにも何もしてやれていない。
だからまだ死神と会う訳にはいかないんだ。
「いってきます」
俺は笑顔で二人に告げて歩きだす。紙に書かれていた街の東門から出て、暫く進んだところにある草原へ。
「よぉ」
「待たせたみたいだな」
「いいや、俺が先に来るのは当然だ」
「そうか」
俺は身構える。相手からは殺気を感じる。改めて対峙すると、体の大きさと筋肉の凄さに恐怖心が出てくる。
「一つ訊ねたい」
「何だ?」
「あの娘をどうする気だ」
「リムンか?」
「名前はどうでもいい」
「良くないな。あの娘にはリムンて名前がある。名前があるのに呼ばれないのは悲しい。だから俺は否定する」
「……忌み子を抱えてこれから先どうするんだ」
「俺自身忌み嫌われていたんだ。そうでない者が二人も出来て十分だし、路銀を稼げなくなったら自給自足も考えている」
「そんな気軽なことなのか?」
「気軽ではないが、やらないよりやる偽善だ。二人も居れば良い知恵が出るだろう」
「他の者が許さんと言ったら?」
「他の者って誰だよ。この世に生まれたのだから意味があるんだろう。他の者なんて知らん。俺は俺と握手をしてくれる人間を大事にする。その他がどう考えようが、それは他人の思惑だ。他人の考えまで改めさせるほど、驕ってない」
「潔し」
「良くない。往生際が悪いだけだ」
「後は剣を交えるのみ!」
「ああ、忌み子と言った言葉を訂正してもらおう!」
ある程度は予想していた。何か話をしたがっていたのは昨日の夜の内容からして解る。しかしこの楽しい雰囲気をぶち壊すとはよほど大切な話らしい。
「お主……余程懲りない性質らしいな?」
ファニーは嬉しそうに肉にがっついていた手を止め、傍にあった紙で口を拭くと、椅子から立ち上った。
「……この娘はどうしたんだ?」
「ああ、今日から俺たちの仲間になったリムンだ。それ以上でも以下でもない」
「……どうやら今日は日が悪いみたいだ。出直すとしよう」
昨夜しつこく食い下がったドラフト族の剛戦士ビッドは、顔色を悪くして足早に冒険者ギルドから出て行った。俺はファニーの背中を軽く押して、席に座らせる。何だったんだ一体。
「さぁ食べよう!」
俺は気になったものの、話を逸らして食事を始める。ファニーもリムンも気を取り直してまた食事を始めた。こうして初クエストは色々な問題はあったものの完了。
暫く食事を楽しみ御腹も心も満たされると眠気に襲われたので就寝する。寝るときはベッドが二つしかない為いざこざはあったものの、最終的には俺と一緒に寝るか女の子同士で寝るかとなってファニーとリムンは同じベッドで寝て朝を迎えた。揃って下へ降りると、ミレーユさんは神妙な面持ちで俺に一枚の紙を差し出して問う。
「どうする?」
「よく分からないけど逃げるのは無理そうだし」
「あのビッドっていう人は生憎うちのギルドの人間じゃないのよ。こちらが制止出来ないし、調停しようにも父は今出張中だし。相手のギルドを探して、っていう時間が無い。仮にギルドに所属していないなら、討伐っていう方法もあるけど確定していない状態でそれは出来ないし……。ごめんなさいね、お役に立てなくて」
「いや、ミレーユさんは悪くないよ。ここを根城にするならこれは避けられない」
「コウ、我も行くぞ」
「アタチも!」
「ダメ」
俺が一言で却下すると、二人は不満そうな顔をしていた。ファニーは眉間にしわを寄せているし、リムンは頬を膨らませている。でもこれは一対一の申し出だ。男としては女性と子供を連れてはいけない。
「一応依頼っていう形で紙と報酬を置いて逃げるように行っちゃったから、私も受けられないって言う暇も無くて。まさかこんな事になるなんてね」
「気にしないで。こっちも何で執拗に話を聞けって言ってきたのか、気にはなっていたから」
俺はそう言ってその話は終わりにしようと朝食を頼んで三人で食べた。夕餉と打って変わって黙々と食べているファニーとリムンは抗議のつもりだろう。俺は色々考えていた。言葉が通じて人と似ている者と戦う。恐らく果し合いと同じだ。となると斬らなければならない。斬るとなれば、俺は黒隕剣を抜かなければならない。
どんなものでも斬れる剣。俺は今日は起きてから予感がして帯剣していたが、その柄を触りどうするか考えた。結論は一つだ。
相手の武装を破壊する。あの絶世の美女は人族獣族なら捌けると言っていた。
それを信じて取っ組み合いに持ち込んで失神させる。ビッドは歴戦の勇者っぽいし、簡単には行かないだろう。しかし手加減や体の使い方を学ぶ前に訪れてしまったのだから、博打を打つような状況だが他に選択肢はない。
「じゃあ行ってくるよ。何度も言うけど、ダメなものはダメだから。でも必ず帰ってくるから、ミレーユさんに相談して暇ならクエストでもすると良いかもよ。お金は預けておくから、無駄遣いしないようにね」
「……」
「……」
二人とも頷きもせず黙って俺をにらんでいた。実に可愛らしい。
などと思うのは余裕なのか。何にしても死ぬわけにはいかない。
まだファニーに何もしてやれていない。
まだリムンにも何もしてやれていない。
だからまだ死神と会う訳にはいかないんだ。
「いってきます」
俺は笑顔で二人に告げて歩きだす。紙に書かれていた街の東門から出て、暫く進んだところにある草原へ。
「よぉ」
「待たせたみたいだな」
「いいや、俺が先に来るのは当然だ」
「そうか」
俺は身構える。相手からは殺気を感じる。改めて対峙すると、体の大きさと筋肉の凄さに恐怖心が出てくる。
「一つ訊ねたい」
「何だ?」
「あの娘をどうする気だ」
「リムンか?」
「名前はどうでもいい」
「良くないな。あの娘にはリムンて名前がある。名前があるのに呼ばれないのは悲しい。だから俺は否定する」
「……忌み子を抱えてこれから先どうするんだ」
「俺自身忌み嫌われていたんだ。そうでない者が二人も出来て十分だし、路銀を稼げなくなったら自給自足も考えている」
「そんな気軽なことなのか?」
「気軽ではないが、やらないよりやる偽善だ。二人も居れば良い知恵が出るだろう」
「他の者が許さんと言ったら?」
「他の者って誰だよ。この世に生まれたのだから意味があるんだろう。他の者なんて知らん。俺は俺と握手をしてくれる人間を大事にする。その他がどう考えようが、それは他人の思惑だ。他人の考えまで改めさせるほど、驕ってない」
「潔し」
「良くない。往生際が悪いだけだ」
「後は剣を交えるのみ!」
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