無職のおっさんはRPG世界で生きて行けるか!?Refine

田島久護

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第二章・アイゼンリウト騒乱編

第29話 おっさん、解りにくい悪を見つける

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「ほほう、舞踏姫の武勇だけでは飽き足らず、国を治めようというのか?」
「私が治めなくとも構いません。ですが、今のままでは何れ国は崩れましょう。それを理解せぬ父上ではありますまい」

  王様は悪い顔しているが余裕で姫に問い、姫も引かず真正面から答えている。それにしても王様のこの余裕っぷりは何だ? 竜を崇めている国で居なくなったとなれば大慌てして喚いても可笑しくないのに。何かまだ手を持っている……いやそもそも竜を封じておいたのは国の安泰とは関係ないのかもしれない。

「ふふん、そんな事はない。現に今も国は安泰そのものだ。そなたが罪人を確保した事で、民も納得しよう。なぁアグニス宰相」
「ええ、ええ、陛下。我が国の至宝たる姫君が罪人を捕えて参ったのです。何も問題はありますまい。それよりも代わりの仕組みを整えませんと」

 俺を取るに足らない存在だから居ないものとして話を進めているのが分かる会話の内容だ。俺を生贄に差し出した村の人間が聞いたらどう思うか、なんてのは想像したくない。

「そちの良いようにせよ。そちの行いは全てわしの為であるからな」
「ええ、ええ、勿論ですとも陛下」

 ……何と言う解り易い悪役だ。アグニス宰相というのは六十を超えてそうな
青白い肌に薄気味悪い笑みを浮かべた細身の爺さんだ。王は傀儡に過ぎない、
この爺さんが裏で手を回したと言う風に聞こえるが果たして本当にそうだろうか。

権力を欲しいままにして私腹を肥やしているとしたら、テンプレな悪役過ぎてとても安易に思える。そこまで親切では無いだろうな流石に。

「父上、一旦下がらせて頂いても宜しいですか?」
「うむ。罪人を逃がさんようにな」

 そう言われて姫は俺と腕を組んで王の間を出て行く。本当にあの二人にとって俺は取るに足らないらしいな罪人なのに扱いが軽すぎる、てか姫にも興味なさそうだし何だあの王様は。

「どうだ?」

 小さく俺に耳打ちする姫。どうもこうもない。分かり易い不愉快な二人組で細かい感想すら述べたくない。と言うか腕を組んでいて姫が近いのがちょっと困る。ファニーが見たら確実に殴られるな、俺が。

結果的に言い訳が出来たとは言え、置いてけぼりにしたのは間違いないのでお仕置きは覚悟した方が良いが。考えるのも怖くなったので頭を振り姫に大臣の話を振ってみる。

「あの爺さんはどういう奴なんだ。解り易い悪い大臣て感じだけど」
「大臣より上だ。文字通りこの国を仕切っている人物になる。更に怖い事実を言うが、あの方は腕が立つ上に魔力もそれなりだ」

「なるほど。上手く王に取りいって成りあがった訳じゃないってことか」
「ああ、私が王に改革の意思を示したのも、その宰相の態度を見る為だ」

「何にも考えてなかったんじゃないのか?!」

 俺が驚いてそう言うと、にっこり微笑んで姫は腕を解く。そして瞬きをする暇もないくらいの速さで、姫の肘が鳩尾にめり込む。悶絶する俺を引き摺って姫は進む。ホント逞しくて涙が出そうだ。

「新しい仕組みとは何だろうな。まぁ恐らくは貴殿を処分し竜が居る事にして、生贄を洞窟に閉じ込め始末するという方法を取るのだろう」
「いたたたた。まぁその位が妥当だろうね。どうもドラスティックな改革をしそうにない人物のようだし」

「流石だ」

 俺と姫は王の間を出てからさっきの場所に戻りビッドたちと合流した後、右に行った先にある大きな階段を上る。踊り場に出た後で真っ直ぐ進み暫く歩いた所の扉を開けた。質素だが所々可愛らしいデザインの装飾が施された、女性の部屋だ。もっと無骨な部屋を想像したんだが。

「さ、掛けてくれ」

 姫はダメージの抜けない俺を丁寧に椅子にかけさせると、姫自身は俺と向かい合うように椅子に座った。部屋の前に居たお供と僕に同行して来たお供は姫の後ろへ控え、ビッドは俺の後ろに居る。

「で、今後どうするかだが」
「あの様子だと俺を大々的に処刑しようとするだろう」

「だろうな。私もそう思う」
「しかし俺は一つ忘れていた事を思い出した」

「何だ?」
「竜が消えた事は、周りのモンスターたちの方が気配で感じたんじゃないか? そして確証を得ればその動きは活発化する」

「村々が危ないな」
「討伐隊を編成していかなければならない、と言う事は」

「我々が赴いてそれらを各個撃破し、民に向けて声望を高める事が出来るか」
「そう言う事だ。しかしそうなると気に入らないな」

「何が?」
「あの宰相だ。腕も立ち魔術の方もそれなりと言う事は、冒険者か軍隊に所属して戦った経験があるんだろう? そんな人物が果たして俺程度が考え付く事を考えていないかな?」

「しかり」

 俺はその声に驚き振り返る。
そこには王の間に居たあの薄気味悪い宰相が一人で立っていた。

「まてビッド」

 俺は身構えたビッドの腕を掴み制止する。こんなところであの人に怪我をさせたりしたらその罪だけで死刑確定だろうし、この場で殺されても文句は言えない。

折角問題を解決する小さな糸があるんだ。今は大人しくしてその糸をしっかりと引いて手繰り寄せるまで我慢の時。

「宰相閣下は何かお話があるようだ」

 そう言って俺は宰相に向かって笑顔を見せた。すると、薄気味悪い笑みをするのかと思いきや、豪快な笑い声を上げた。

「いやなるほど、どうやら多少の思慮はあるようだな若いの」
「思慮と言うか、貴方が本気になれば俺を抹殺する位造作も無いでしょう。何せ音も立てずに女性の部屋に入れるんですからな」

 何かの魔術を使用して来たんだろうが、流石この国を仕切っていると言われているだけある。これなら王や国の方針に反対する者を闇に紛れて暗殺するのも容易い。

現に声を掛けられなければ気付かなかったし、面食らって動けなかったのは間違いない。

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