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第二章・アイゼンリウト騒乱編
第42話 暗く冷たい産声
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僕には偉大な父が居た。剣を取れば誰にも負けず、一軍を率いれば全戦全勝。手柄は臣下に与え、民の税を軽くし誰からも慕われていた。僕もそんな父になりたくて、そんな父に認められたくて一生懸命頑張った。
でも剣を取れば情けを掛けられ無様に生き残り、一軍を率いれば敗走を繰り返し、手柄は父に認められたくて自分のものにした。更に功績を立てようと国内の税改正に着手。国を栄えさせる為、贅沢をする余裕が無いように国民の生活に目を光らせ取り立てた結果、財政を潤し大幅に改善した。
国は栄えたのに何故か誰からも嫌われた。
それでも良かった。父が何時か王位を息子のお前に譲ると言ってくれればそれで良い。それで救われる。今はどんな手を使ってでも功績を上げなければ。
ある日城を抜け出し税を取れる部分は無いかと村を回っていた時に、見た目も普通、スタイルも普通で自分より劣っている貧しい女を見つけた。妃に迎えたいと言うと、親族に反対されるも無視して迎えた。
遠征に出て戻った父は
「そうか」
の一言で終わりだった。心の何処かで何があったのかと聞いてくれたり、お前にはもっと相応しい者が居ると言ってくれると思っていた。だがそれでも自分の好きにさせてくれたのだと自分を納得させる。
父も認めてくれた妻と居ると、父の存在も弱い自分も忘れられた。誰かの笑顔がこんなにも心を満たしてくれるとは思わなかった。
僕は遊興をやめた。
剣を取るのもやめた。
一軍を率いるのもやめた。
父に勝とうとは、近付こうとは思わなくなった。
父が認めてくれた妻が居るだけで十分だと確信ているから。
優れた家臣が居れば任せ、税の軽減の案も了承した。
子が生まれた。
その子が感覚で自分と似た存在だと解るとホッとした。父は当然だと言う顔をして抱こうともしなかった。しかし時が過ぎ父も老いてきた時、双子が生まれた。
男の子と女の子の双子。
ジグムードとイリアと妻は名付けた。
優れた子になるようにと祈る妻を見て、何か救われた気がした。自分の母親もそう祈ってくれたのではないかと。だがそんな幸せな思いを打ち砕くように、老いた父が双子を抱いて言った。
「この子達は国を栄えさせる人物になるだろう」
と。
この時から家臣たちの間で、双子のどちらが王になるかそんな会話が聞かれるようになった。何れ王を継ぐのだから気にも留めなかった。
そして暫くすると、産後の肥立ちが悪く妻が何処かへ行ってしまったが、
残された双子はすくすくと成長する。父の寵愛を欲しい侭にしていた双子のうち、ジグムードは父が直々に育てていた。剣の腕や小さくもその姿勢やしぐさは父に似ていたまさに生き写しのような存在。心の片隅に恐怖心が再度芽生え始めたのを気付かずに居たかった。
ある時父に呼ばれた。いい加減引退したいという話だと思った。
だが違った。
「お前には民を統べ、導く事は出来ない。暗君の類だろう。いくらかの金銭と領地をやるから王位継承権を辞退せよ」
絶望した。
絶望した。
何もかも及ばないのは解っていたが、妻と一緒になって自分は変わったと思っていた。善政では無いかもしれないが、暴君ではないように務めたはずだ。それなのに何故……。
王になるのが当り前ではないのは解っている。尊敬の念を抱き敬ってきた父から暗君と呼ばれ、出て行けと言われた。これもその横に居る奴が悪いのか。澄まし顔で親を見るそいつの所為か。僕から妻も奪い父も奪い、国さえも奪うのか。
許せない。
許されない。
許せる訳が無い。
――なら殺してしまえばいいじゃない――
頭にその声が聞こえた後は、記憶にない。……いや嘘だな。悪魔に身を堕とした。そして生贄とし、二人の悪魔を呼んだのだ。
「王よ、貴方が望む全てを叶えるためには、生贄が多くいるわ」
「貴方の父も勝てぬ竜は、生贄を逃がしている。それを使えば誰も不審に思わず、貴方は父を超える力を手に入れる事が出来るでしょう」
「王よ、先祖から受け継いだその欲に身を委ねなさい。それが貴方の選択なのだから」
そして語られた真実。僕らの先祖は魔族であり、僕は混血。父が強かったのも悪魔のお陰。ジグムードがそうだったのも悪魔のお陰。
僕は笑った。
笑うしかない。
あの偉大だった父の強さは魔族故だったのだと。
尊敬し敬っていたのは悪魔だったのだ。
なら僕が悪魔でも仕方が無い。
それからは邪魔な親族たちを生贄とし、手駒を召喚した。宰相は二人の悪魔から教えられた力の使い方で、ギリギリまで精気を吸い取り、政務に支障が無い程度まで衰えさせた。昼間は気だるさが残るが、僕は力が溢れているのを感じていた。今はもう父さえ超えてしまった。
最初は妻を蘇らせようと思っていた。彼女こそが、彼女だけが僕を救ってくれた。だがもうそれもどうでもいいことだ。俺は救いを必要としない。寧ろ俺に救いを求めるが良い。今まで俺をないがしろにして来た全ての者よ。
我に許しを請え。
我を崇めよ。
お前達の強き王を。
「お食事は済んだのかしら?王よ」
誰も居ない月灯りが差し込んだ王座の間に現れた、俺が呼んだ悪魔。
「ああ、存分にな。今の我は全てを超えている。このようにな……」
王座からゆっくりと立ち上がり、俺としてはゆっくりと近付いたつもりだが
悪魔の抵抗は遅く、難なくの首を掴む事が出来た。
「な、何を……」
「何をだと?同じ悪魔なのだ、解らぬ訳はあるまい。まだ足りぬのだ。あの出来損ないの魂だけでは。もっと上等な悪魔の魂が」
「き、貴様……」
「愚かな奴だ。我が大人しくお前達の傀儡となるとでも思っていたのか?必要なものと知識が手に入れば用済みだ。お前達がそうしたようにな」
「ぐっ……」
最初はその威圧感に恐れ慄いた僕はここに居ない。そう、今ここに居るのは全てを生贄とし強大な力を手に入れた神のごとき俺が居るのみだ。
「我は覇王となる者。誰にも従わぬ。お前達の働きに感謝しよう。そして褒美として我の贄となるがいい」
「ぐぎ……」
声にならない声を上げた悪魔は、霧になって逃げた。
「存外芸が細かいのだな。まぁ良い。後この街一つ飲み干せば、それで事足りる」
俺は窓から月灯りを眺める。もうこの大地には俺に勝る者は居ない。歴代の先祖の誰よりも強い者となったのだ。地獄の釜で見ているか父よ。虚しさすら感じるこの強さを。お前の息子はお前を超えたのだ。
さぞ喜んでいる事だろう。お前が蔑んだ息子は覇王となるのだ
僕には偉大な父が居た。剣を取れば誰にも負けず、一軍を率いれば全戦全勝。手柄は臣下に与え、民の税を軽くし誰からも慕われていた。僕もそんな父になりたくて、そんな父に認められたくて一生懸命頑張った。
でも剣を取れば情けを掛けられ無様に生き残り、一軍を率いれば敗走を繰り返し、手柄は父に認められたくて自分のものにした。更に功績を立てようと国内の税改正に着手。国を栄えさせる為、贅沢をする余裕が無いように国民の生活に目を光らせ取り立てた結果、財政を潤し大幅に改善した。
国は栄えたのに何故か誰からも嫌われた。
それでも良かった。父が何時か王位を息子のお前に譲ると言ってくれればそれで良い。それで救われる。今はどんな手を使ってでも功績を上げなければ。
ある日城を抜け出し税を取れる部分は無いかと村を回っていた時に、見た目も普通、スタイルも普通で自分より劣っている貧しい女を見つけた。妃に迎えたいと言うと、親族に反対されるも無視して迎えた。
遠征に出て戻った父は
「そうか」
の一言で終わりだった。心の何処かで何があったのかと聞いてくれたり、お前にはもっと相応しい者が居ると言ってくれると思っていた。だがそれでも自分の好きにさせてくれたのだと自分を納得させる。
父も認めてくれた妻と居ると、父の存在も弱い自分も忘れられた。誰かの笑顔がこんなにも心を満たしてくれるとは思わなかった。
僕は遊興をやめた。
剣を取るのもやめた。
一軍を率いるのもやめた。
父に勝とうとは、近付こうとは思わなくなった。
父が認めてくれた妻が居るだけで十分だと確信ているから。
優れた家臣が居れば任せ、税の軽減の案も了承した。
子が生まれた。
その子が感覚で自分と似た存在だと解るとホッとした。父は当然だと言う顔をして抱こうともしなかった。しかし時が過ぎ父も老いてきた時、双子が生まれた。
男の子と女の子の双子。
ジグムードとイリアと妻は名付けた。
優れた子になるようにと祈る妻を見て、何か救われた気がした。自分の母親もそう祈ってくれたのではないかと。だがそんな幸せな思いを打ち砕くように、老いた父が双子を抱いて言った。
「この子達は国を栄えさせる人物になるだろう」
と。
この時から家臣たちの間で、双子のどちらが王になるかそんな会話が聞かれるようになった。何れ王を継ぐのだから気にも留めなかった。
そして暫くすると、産後の肥立ちが悪く妻が何処かへ行ってしまったが、
残された双子はすくすくと成長する。父の寵愛を欲しい侭にしていた双子のうち、ジグムードは父が直々に育てていた。剣の腕や小さくもその姿勢やしぐさは父に似ていたまさに生き写しのような存在。心の片隅に恐怖心が再度芽生え始めたのを気付かずに居たかった。
ある時父に呼ばれた。いい加減引退したいという話だと思った。
だが違った。
「お前には民を統べ、導く事は出来ない。暗君の類だろう。いくらかの金銭と領地をやるから王位継承権を辞退せよ」
絶望した。
絶望した。
何もかも及ばないのは解っていたが、妻と一緒になって自分は変わったと思っていた。善政では無いかもしれないが、暴君ではないように務めたはずだ。それなのに何故……。
王になるのが当り前ではないのは解っている。尊敬の念を抱き敬ってきた父から暗君と呼ばれ、出て行けと言われた。これもその横に居る奴が悪いのか。澄まし顔で親を見るそいつの所為か。僕から妻も奪い父も奪い、国さえも奪うのか。
許せない。
許されない。
許せる訳が無い。
――なら殺してしまえばいいじゃない――
頭にその声が聞こえた後は、記憶にない。……いや嘘だな。悪魔に身を堕とした。そして生贄とし、二人の悪魔を呼んだのだ。
「王よ、貴方が望む全てを叶えるためには、生贄が多くいるわ」
「貴方の父も勝てぬ竜は、生贄を逃がしている。それを使えば誰も不審に思わず、貴方は父を超える力を手に入れる事が出来るでしょう」
「王よ、先祖から受け継いだその欲に身を委ねなさい。それが貴方の選択なのだから」
そして語られた真実。僕らの先祖は魔族であり、僕は混血。父が強かったのも悪魔のお陰。ジグムードがそうだったのも悪魔のお陰。
僕は笑った。
笑うしかない。
あの偉大だった父の強さは魔族故だったのだと。
尊敬し敬っていたのは悪魔だったのだ。
なら僕が悪魔でも仕方が無い。
それからは邪魔な親族たちを生贄とし、手駒を召喚した。宰相は二人の悪魔から教えられた力の使い方で、ギリギリまで精気を吸い取り、政務に支障が無い程度まで衰えさせた。昼間は気だるさが残るが、僕は力が溢れているのを感じていた。今はもう父さえ超えてしまった。
最初は妻を蘇らせようと思っていた。彼女こそが、彼女だけが僕を救ってくれた。だがもうそれもどうでもいいことだ。俺は救いを必要としない。寧ろ俺に救いを求めるが良い。今まで俺をないがしろにして来た全ての者よ。
我に許しを請え。
我を崇めよ。
お前達の強き王を。
「お食事は済んだのかしら?王よ」
誰も居ない月灯りが差し込んだ王座の間に現れた、俺が呼んだ悪魔。
「ああ、存分にな。今の我は全てを超えている。このようにな……」
王座からゆっくりと立ち上がり、俺としてはゆっくりと近付いたつもりだが
悪魔の抵抗は遅く、難なくの首を掴む事が出来た。
「な、何を……」
「何をだと?同じ悪魔なのだ、解らぬ訳はあるまい。まだ足りぬのだ。あの出来損ないの魂だけでは。もっと上等な悪魔の魂が」
「き、貴様……」
「愚かな奴だ。我が大人しくお前達の傀儡となるとでも思っていたのか?必要なものと知識が手に入れば用済みだ。お前達がそうしたようにな」
「ぐっ……」
最初はその威圧感に恐れ慄いた僕はここに居ない。そう、今ここに居るのは全てを生贄とし強大な力を手に入れた神のごとき俺が居るのみだ。
「我は覇王となる者。誰にも従わぬ。お前達の働きに感謝しよう。そして褒美として我の贄となるがいい」
「ぐぎ……」
声にならない声を上げた悪魔は、霧になって逃げた。
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