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第二章・アイゼンリウト騒乱編
第63話 悲しき転生者
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私が生まれたのは長閑な農村だった。朝から晩まで作物の世話に追われ、夢見る暇も、将来を考える余裕も無かった。
農作物の刈りいれが終わって街に売りに出た時、一冊の小説を手に入れた。それは一人の少女が夢の世界に入り込む話だった。不思議な王国で繰り広げられるその話に、私は引き込まれた。
どうやったらこんな話を考え付くのか。そして私に夢が生まれた。いつかこんな素晴らしい小説を書き上げたいと。
農作業が終わり家に帰ると、その後購入した紙とペンで物語を書き始める。竜と王様の話だ。私を映した主人公を登場させ、活躍させる。
物語を一日一日書き続けて行く事に熱中し、一年かけて仕上げた。書籍を扱っているところへ持っていくと
「ありきたりだね」
と言う一言で片づけられ、突き返された。私は絶望する。夢も希望も無かった日々に生まれた夢。それが生まれて初めて絶望させた。何が足りないのか。あれも夢物語だったはずだ。ありきたり? 何度読み返しても、ありきたりだとは思えない。私だけの物語だ。
それから何度も付け加え、読み返しては修正し厚みを増してもう一度書籍を扱っている所へ持ち込む。
「今流行りじゃないね」
流行りとは何だ? 流行り廃りでは無く、面白いか面白くないかで決まるのではないのか? 私の目の前は真っ暗になる。せめて置いてもらえないかと交渉したが、売れない物を置く場所は無いと断られる。新聞を扱っている所へ持ち込もうとするも
「無理です」
と受け付けで断られ、誰にも見てもらえずに町を離れた。扱ってもらえないなら道端で売ろうと自分で売る為に、農作物を売り少しずつ貯めたお金で出版費用を貯めた。そんなある日、書店で身なりが自分よりも小ぎれいで髭も整えられていた、明らかに身分が上そうな男に話しかけられる。
「俺に金をくれれば伝手を使って出版の話をつけてやる」
今思えば愚かだった。普通に考えればそんな男が自分に話しかける筈も無いし上手い話なんて持って来る訳が無いと分かるのに、藁にもすがる思いで全ての金をその男に渡した。希望に満ちた日々だった。私の本が出版される。農作業の辛さにも、一人の寂しさも苦では無かった。
農作物を売りに街に出る度に、書店で男を待つ。何度か繰り返した時に書店の主から
「あんた……騙されたんだよ。気の毒だけど」
と申し訳なさそうに言われた。そんな気はした。でも信じたくは無かった。騙されたと信じれば、私の夢が終わってしまう。
「この不景気だからね。金融業界は景気が良い様だけど」
確かに街には失業者で溢れていた。どんな事をしてでも金を手に入れたいと言う状況に私は丁度良いカモだったのだ。
絶望した。
街を彷徨い、家に帰らずにいると、私を騙した男と出くわす。男は何か言い訳をしていたが、最後は
「騙されたお前さんが悪いのさ。あんな面白くも無い物を」
と吐き捨てるように言う。私は手に持っていたペンで男を襲っていた。
その後私は警官に追われ息を潜めて町を逃げ回ったが、あと一歩で町を出られるというところで背後から発砲音がし、それと同時に世界は揺らいだ。
次に目覚めた場所は見覚えのない場所だった。私は元の服装で道を歩いて行くと、街があった。広がっていたのは私の時代よりもっと昔の時代のように見える。万が一無我夢中で別の町まで逃げたのなら、警官に見つかると不味いと思い物陰に隠れてその様子を窺った。
見るとおとぎ話の登場人物ような見た目の人達までもが生活していた。どうやらここは元の世界では無いと確信し、心が躍り先ず何をしようかと考える。
取り合えず顔を洗って心機一転したくて水場を探すと、近くに水の入った樽があり駆け寄った。不意に映った自分を見ている筈なのに、角と尖った耳に青白い肌と見た事も無いコウモリの羽が生えていた。
何故こんなものが自分に? これじゃまるで悪魔じゃないか。恐らくこれは質の悪い冗談だろうし、この水はおとぎ話の世界なのだから何かの悪戯だろうと自分を落ち着かせてその場を離れる。
「魔族だ!」
人通りの多いところへ出た瞬間、全ての者たちの視線が集まり足が止まる。そして鎧を着た男が目を見開き震えながら槍を構え、切っ先を向けながらそう叫んだ。
逃げ惑う者たちを見ながら理解する。どうやら私は魔族になってこの世界に来たようだ、と。まだ殺される訳にはいかない。私は全力で逃げ出し森に紛れこんだ。
息を潜めながら森をさまよっていると、一人の魔族だと言う男と出会う。確かに普通には見えない凄い気を放っていたので納得したが、今になると違う気がしている。
真っ白な髪に立派な顎ひげを蓄え、樫の木の杖を持った緑色のローブを着た男。その男から同族のよしみで魔術を教えて貰い、人に化けるのも可能になった。
その後、師である男に勧められ人に化けて冒険者ギルドなる所へ出向き、魔術師として登録し日銭を稼ぐ。過ごす日々は私が書いていた小説のような日々だった。私は心が躍った。そして何と私が書いた小説のように、竜が居て国がそれに困っていると言うではないか。
私は討伐隊に参加を志願した。その頃には師を通じて上位魔族と会えるようになっていた。記憶喪失というふりをして、魔族の寿命などを訪ねた。思ったよりも長生き出来るようだ。人の精気を吸えば更に寿命は延びるらしい。私は魔族の中でも上位のようだ。
私はこの世界に魔族として転生した。ならば主人公としてこの世界の頂点を目指そう。そう心に決めて竜と相対する。しかし討伐隊は次々に逃げ出して行く。私はこの竜を使って何か出来ないかと考え、師に教えて貰っていた究極の封印術によって竜の封じ込めに成功した。
一人国に帰ると国を挙げて勇者として迎えられ、その国の姫と結婚し国を継ぐ。王になった私は、生贄を捧げれば国は安泰だとし、罪人を生贄にすることを法として定めた。竜が生贄を逃がしだした所を、私が捕まえ私は自らの寿命の為に糧とした。
手頃な死体を用意し、自分が死んだように見せかけ姿を変えて財政を司る人間として国の中に残る。生贄の儀式を続けさせているうちに、魔族と人間の混血から得られる魂、絶望などの要素が加わりそれを練成すれば、この世で最強の剣が作れると不意に訪れた師から教えられる。
混じり合い隔世遺伝をし魔族と人間のバランスが最高潮になった時、魔族へ身を落とせば準備が完了する、というものだった。
私はそれを目標に裏で国を操りながら姿を変えていく。それを繰り返してようやく相応しい最強の肉体を持った王が誕生した。だが魂も屈強で絶望が全く足りなかったので魔族に落ちる隙も無い。
全てに見放されたかと思ったところに王に息子が生まれる。その息子は魔族としての特性をしっかり受け継ぎ、足りないのは絶望だけだった。
私は一計を案じる。その息子にネガティブな情報を与え続けた絶望をしっかりと植え付け育てて行こう、と。王は貴方の結婚に興味が無い、王は生まれた双子のどちらかを王座に座らせたいと思っている、など機を見て逃さず栄養を与え続けた。
最初は信じなかったが、妻が体調を崩したのを機に刷り込みを強める。それは成功し、ほぼ傀儡となった。王の息子の妻は弱っていたが堕天使だと解り、私は狂喜した。しかも名はロリーナ。何と言う偶然。
私を導いた小説の作者から繋がるようなその名を知り、これは偶然ではなく私がこの世界を治めると決定した通知に違いない。
師から教わっていた魔術を行使すべく、王の息子の妻を魔法陣に放り込み練成する。その時に出来たのが堕天剣ロリーナだ。王の息子に妻が産後の肥立ちが悪く亡くなったと、嘘の情報を流す。
王の息子は絶望した。
更には王にも”貴方の息子は暗君の可能性があり、このままでは国も危ない。ジグムード王子が育つまで後見人に自分がなるので廃位させよう”と提案した。王は年を取っており、私を信頼していたのでトントン拍子で話は進む。
互いに疑心暗鬼に陥った結果、行動に移す段になって私が細工をして王をで遅らせた結果、王の息子は自分の父を手に掛けるのに成功。調子に乗った王の息子は呼びだした魔族から得た方法で、私の精気を吸い取ろうとした。だがそれを利用し、王となった王の息子と魔力で繋がる。
これで世界は私のものだと思った時、妙な冒険者が現れた。だがこれは成功を確実にする為に使わされた者だと考え王の覚醒に使うべく手駒にする。
私は策をめぐらせて彼らを遠回りさせ、王が呼びだした魔族達にその間に準備をさせ自分は姿をくらまし機会を窺っていた。
望み通り王は息子と民衆を生贄にして魔族に身を落とし絶望に取り付かれ、冒険者は追い込んだ。全て計算通りだ。私の書いた物語の結末を忘れるほどに。
しかしそれはもう必要ない。私が生きる道が結末となるのだ。
もう少しで邪魔ものが居なくなる。思い描いた結末を手に入れるんだ今度こそ……!
私が生まれたのは長閑な農村だった。朝から晩まで作物の世話に追われ、夢見る暇も、将来を考える余裕も無かった。
農作物の刈りいれが終わって街に売りに出た時、一冊の小説を手に入れた。それは一人の少女が夢の世界に入り込む話だった。不思議な王国で繰り広げられるその話に、私は引き込まれた。
どうやったらこんな話を考え付くのか。そして私に夢が生まれた。いつかこんな素晴らしい小説を書き上げたいと。
農作業が終わり家に帰ると、その後購入した紙とペンで物語を書き始める。竜と王様の話だ。私を映した主人公を登場させ、活躍させる。
物語を一日一日書き続けて行く事に熱中し、一年かけて仕上げた。書籍を扱っているところへ持っていくと
「ありきたりだね」
と言う一言で片づけられ、突き返された。私は絶望する。夢も希望も無かった日々に生まれた夢。それが生まれて初めて絶望させた。何が足りないのか。あれも夢物語だったはずだ。ありきたり? 何度読み返しても、ありきたりだとは思えない。私だけの物語だ。
それから何度も付け加え、読み返しては修正し厚みを増してもう一度書籍を扱っている所へ持ち込む。
「今流行りじゃないね」
流行りとは何だ? 流行り廃りでは無く、面白いか面白くないかで決まるのではないのか? 私の目の前は真っ暗になる。せめて置いてもらえないかと交渉したが、売れない物を置く場所は無いと断られる。新聞を扱っている所へ持ち込もうとするも
「無理です」
と受け付けで断られ、誰にも見てもらえずに町を離れた。扱ってもらえないなら道端で売ろうと自分で売る為に、農作物を売り少しずつ貯めたお金で出版費用を貯めた。そんなある日、書店で身なりが自分よりも小ぎれいで髭も整えられていた、明らかに身分が上そうな男に話しかけられる。
「俺に金をくれれば伝手を使って出版の話をつけてやる」
今思えば愚かだった。普通に考えればそんな男が自分に話しかける筈も無いし上手い話なんて持って来る訳が無いと分かるのに、藁にもすがる思いで全ての金をその男に渡した。希望に満ちた日々だった。私の本が出版される。農作業の辛さにも、一人の寂しさも苦では無かった。
農作物を売りに街に出る度に、書店で男を待つ。何度か繰り返した時に書店の主から
「あんた……騙されたんだよ。気の毒だけど」
と申し訳なさそうに言われた。そんな気はした。でも信じたくは無かった。騙されたと信じれば、私の夢が終わってしまう。
「この不景気だからね。金融業界は景気が良い様だけど」
確かに街には失業者で溢れていた。どんな事をしてでも金を手に入れたいと言う状況に私は丁度良いカモだったのだ。
絶望した。
街を彷徨い、家に帰らずにいると、私を騙した男と出くわす。男は何か言い訳をしていたが、最後は
「騙されたお前さんが悪いのさ。あんな面白くも無い物を」
と吐き捨てるように言う。私は手に持っていたペンで男を襲っていた。
その後私は警官に追われ息を潜めて町を逃げ回ったが、あと一歩で町を出られるというところで背後から発砲音がし、それと同時に世界は揺らいだ。
次に目覚めた場所は見覚えのない場所だった。私は元の服装で道を歩いて行くと、街があった。広がっていたのは私の時代よりもっと昔の時代のように見える。万が一無我夢中で別の町まで逃げたのなら、警官に見つかると不味いと思い物陰に隠れてその様子を窺った。
見るとおとぎ話の登場人物ような見た目の人達までもが生活していた。どうやらここは元の世界では無いと確信し、心が躍り先ず何をしようかと考える。
取り合えず顔を洗って心機一転したくて水場を探すと、近くに水の入った樽があり駆け寄った。不意に映った自分を見ている筈なのに、角と尖った耳に青白い肌と見た事も無いコウモリの羽が生えていた。
何故こんなものが自分に? これじゃまるで悪魔じゃないか。恐らくこれは質の悪い冗談だろうし、この水はおとぎ話の世界なのだから何かの悪戯だろうと自分を落ち着かせてその場を離れる。
「魔族だ!」
人通りの多いところへ出た瞬間、全ての者たちの視線が集まり足が止まる。そして鎧を着た男が目を見開き震えながら槍を構え、切っ先を向けながらそう叫んだ。
逃げ惑う者たちを見ながら理解する。どうやら私は魔族になってこの世界に来たようだ、と。まだ殺される訳にはいかない。私は全力で逃げ出し森に紛れこんだ。
息を潜めながら森をさまよっていると、一人の魔族だと言う男と出会う。確かに普通には見えない凄い気を放っていたので納得したが、今になると違う気がしている。
真っ白な髪に立派な顎ひげを蓄え、樫の木の杖を持った緑色のローブを着た男。その男から同族のよしみで魔術を教えて貰い、人に化けるのも可能になった。
その後、師である男に勧められ人に化けて冒険者ギルドなる所へ出向き、魔術師として登録し日銭を稼ぐ。過ごす日々は私が書いていた小説のような日々だった。私は心が躍った。そして何と私が書いた小説のように、竜が居て国がそれに困っていると言うではないか。
私は討伐隊に参加を志願した。その頃には師を通じて上位魔族と会えるようになっていた。記憶喪失というふりをして、魔族の寿命などを訪ねた。思ったよりも長生き出来るようだ。人の精気を吸えば更に寿命は延びるらしい。私は魔族の中でも上位のようだ。
私はこの世界に魔族として転生した。ならば主人公としてこの世界の頂点を目指そう。そう心に決めて竜と相対する。しかし討伐隊は次々に逃げ出して行く。私はこの竜を使って何か出来ないかと考え、師に教えて貰っていた究極の封印術によって竜の封じ込めに成功した。
一人国に帰ると国を挙げて勇者として迎えられ、その国の姫と結婚し国を継ぐ。王になった私は、生贄を捧げれば国は安泰だとし、罪人を生贄にすることを法として定めた。竜が生贄を逃がしだした所を、私が捕まえ私は自らの寿命の為に糧とした。
手頃な死体を用意し、自分が死んだように見せかけ姿を変えて財政を司る人間として国の中に残る。生贄の儀式を続けさせているうちに、魔族と人間の混血から得られる魂、絶望などの要素が加わりそれを練成すれば、この世で最強の剣が作れると不意に訪れた師から教えられる。
混じり合い隔世遺伝をし魔族と人間のバランスが最高潮になった時、魔族へ身を落とせば準備が完了する、というものだった。
私はそれを目標に裏で国を操りながら姿を変えていく。それを繰り返してようやく相応しい最強の肉体を持った王が誕生した。だが魂も屈強で絶望が全く足りなかったので魔族に落ちる隙も無い。
全てに見放されたかと思ったところに王に息子が生まれる。その息子は魔族としての特性をしっかり受け継ぎ、足りないのは絶望だけだった。
私は一計を案じる。その息子にネガティブな情報を与え続けた絶望をしっかりと植え付け育てて行こう、と。王は貴方の結婚に興味が無い、王は生まれた双子のどちらかを王座に座らせたいと思っている、など機を見て逃さず栄養を与え続けた。
最初は信じなかったが、妻が体調を崩したのを機に刷り込みを強める。それは成功し、ほぼ傀儡となった。王の息子の妻は弱っていたが堕天使だと解り、私は狂喜した。しかも名はロリーナ。何と言う偶然。
私を導いた小説の作者から繋がるようなその名を知り、これは偶然ではなく私がこの世界を治めると決定した通知に違いない。
師から教わっていた魔術を行使すべく、王の息子の妻を魔法陣に放り込み練成する。その時に出来たのが堕天剣ロリーナだ。王の息子に妻が産後の肥立ちが悪く亡くなったと、嘘の情報を流す。
王の息子は絶望した。
更には王にも”貴方の息子は暗君の可能性があり、このままでは国も危ない。ジグムード王子が育つまで後見人に自分がなるので廃位させよう”と提案した。王は年を取っており、私を信頼していたのでトントン拍子で話は進む。
互いに疑心暗鬼に陥った結果、行動に移す段になって私が細工をして王をで遅らせた結果、王の息子は自分の父を手に掛けるのに成功。調子に乗った王の息子は呼びだした魔族から得た方法で、私の精気を吸い取ろうとした。だがそれを利用し、王となった王の息子と魔力で繋がる。
これで世界は私のものだと思った時、妙な冒険者が現れた。だがこれは成功を確実にする為に使わされた者だと考え王の覚醒に使うべく手駒にする。
私は策をめぐらせて彼らを遠回りさせ、王が呼びだした魔族達にその間に準備をさせ自分は姿をくらまし機会を窺っていた。
望み通り王は息子と民衆を生贄にして魔族に身を落とし絶望に取り付かれ、冒険者は追い込んだ。全て計算通りだ。私の書いた物語の結末を忘れるほどに。
しかしそれはもう必要ない。私が生きる道が結末となるのだ。
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