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荒行 美緒

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6話

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「じゃぁ、私はこちらで待っているわ」
ヴィレインが茶桜と一夏を伴い隣部屋へ入るのを見送り、アルバは手を振った。
「さて」
くるりと振り返ったアルバは三人を見据え、掛けて、と椅子を勧めると、自身も腰掛ける。
テーブルの上に音もなくカップが置かれ、先ほどの黒ドレスの女性――オーヴィラが軽食を中央に置くと、来た時同様に影の中へと消えた。
「まずは、ウェスタ。三人目の召喚については察しが着いているとは思うけれど、召喚失敗の影響で漂っていたのをまた、レアリーア様がこちらに連れて来たと確認が取れたわ。彼女が同意したなら、貴方の下に付けようと思うの」
いいかな、との問いかけに応と返せば、決まりだね、と軽食へと手を伸ばす。
まだ湯気の上がるマドレーヌとサンドイッチが綺麗に並ぶその中から一つ、サンドイッチを選び取ったアルバは両手で口へと運んだ。
「後は、シュリに付いてだけど、これはやっぱりお手上げね。今回の儀式試合も前回同様、シュリの所へ行く移動魔方陣の展開条件として組み込まれているから、正式手順を踏まないと別の所に転送されちゃうわ」
皆も食べていいよ、と皿を少し押せば、では、とウェルメリオがまず手を伸ばした。
「天界跡の解体は、八割程度完了って。残っているのはセルバルト上空だから、そこにシュリの体があるで間違いはないだろうって」
おしぼりで手に付いたパンくずを拭きとり、カップを手に取る。
良い香り、とご満悦な様子で頬を染める様は可愛らしい少女で、他国にその名を轟かせる大国の王には見えない。
この外見故に他国では横に並ぶ事が多い護衛が王と間違われる事もしばしばあった。
「セリさんが天界を監視してくれてるから、まか――地上へとシュリが降りて来る事はほぼないと思うの。主使が何体か降りようとしたそうだけど、全部破壊したと連絡がありました」
よかったです、と微笑む様にそうですね、と微笑んだのはウェルメリオただ一人であり、主使に手を焼いた過去があるウェスタ、テュールは苦笑った。
「所で陛下、テュールから報告が上がっていたと思いますが、ウェスタ達の次の試合はアシュです。つきましては、アシュへ飛行艇を一隻出して頂きたいのです」
「構わないわ。アシュに着くのは明日中までに、でしたか?」
えっと、と視線を彷徨わせればこちらに、とオーヴィラがするりと影から出、アルバの横へと立った。
空路の調整をしているらしく、オーヴィラがこの便なら問題ないかと、と書類を覗き込む。
そうね、と顎に手を当て考え込む姿はまだ十になったかどうかの子供の姿であり、言動もまだ幼い。
「そうね……うん、日が沈む前には出た方がいいでしょう。調整をお願いね、オーヴィラ。後、アシュの空は盗賊も多いから、護衛も兼ねて、私も行きますね!」
にこぉと笑顔で告げた言葉に、では親衛隊から抜粋してまいります、とウェルメリオが席を立ち退出する。
その軽さに一国の王が護衛とは、と思いながらも返す言葉が見つからずに沈黙する二人を尻目に、荷造りを致します、とオーヴィラも止める気はないらしい。
「滞在期間はどうされますか? アシュ国王への連絡が必要でしたら一報お入れいたします」
誰か、と呼べば揃いの制服を着た女性達が床から現れた。
陛下の旅支度をと、これを、と命じる。
「連絡はいいわ。ただ――そうね、シュリの件もあるし、アシュでの儀式が終わるまでは滞在したいけど……」
「それは難しいかもしれません。他国との会談もございますので、可能な限りで調整させて頂いても宜しいですか?」
任せるわ、と微笑んだアルバに、ではその様に、と残りのメイド達に指示を飛ばしながら退室し、部屋に残された三人はカップへと手を伸ばし、お茶を飲む。
そう言えば、と試合内容や他国の様子を問うアルバに応えていれば、そう時間も立たずに戸が開き、一夏と茶桜が戻って来た。
その後ろ、ヴィレインがお待たせ、とアルバの肩を抱く。
「漏れ聞こえて来たけど、アルバもアシュへ行くのかい?」
よいしょ、とアルバの隣の椅子へと座り、立っている二人へと席を勧める。
「君が行くのなら、僕も行こうかな。久しぶりに夫婦旅行もいいよね」
ほわ、とヴィレインが花でも飛ばしそうに緩んだ顔で笑うと、アルバは頬を赤く染め、久しぶりにデートが出来るかな、と問う。
夫婦? デート? と茶桜、一夏が目を回しそうな顔をしているが、テュールもウェスタもお互いの顔を見ながら、アイコンタクトでお前が説明しろと押し付け合っている様で、説明はなされない。
「婆!」
バン、と大きな音を立てて開いた戸、赤い髪を後ろへ流し、軍服を着込んだ青年が視線だけで殺せそうな程目を鋭くし、一目散にアルバへと詰め寄った。
「てんめぇこの婆! アシュへ行くたぁどういう了見だ!」
黒い軍服、飾られた赤い宝石を揺らしながら声を張る青年は、アルバを見降ろす青年は、随分と背が高い。
「アーガレス将軍、お茶は飲むかい?」
「おう!」
ヴィレインがほわ、と変わらず優しい口調でポットから新しいカップへとお茶を注ぎ入れる。
アルバはアルバで、どうもこうも、と可愛らしく首を傾げた。
「息子の為に決まっているわ」
すっぱりと言い切ったアルバの横から、熱いから気を付けるんだよ、とアーガレスの前にカップを置いたヴィレインにきちんと礼を述べ、じゃぁ、と椅子へドカリと座り、アルバを睨む。
「シュリの目的は判っているでしょう? シュリが籠っている結界の中へ行く方法は、今の所儀式試合しかない。なら、実際にこの目で見るのが一番だと思うの」
隙あれば打って出るわ、と言い切ったアルバの声に怯えてか、雰囲気にか、茶桜の体が震えた。
「なら、俺も!」
「落ち着いて、アーガレス・ルーフス将軍」
カップが割れてしまうよ、とアーガレスに声を掻けたヴィレインだけが穏やかに、少しも変わらずに笑みを浮かべていた。
「子供の様に我儘を言わないで頂戴、アーガレス。アシュへ行くなど、次の儀式試合の場所はアシュではないでしょう?」
カチャ、とカップが置かれ僅かに強い口調でアーガレスを見上げるアルバの言葉にだが、と反論しかけ、ぐっと呑み込んだアーガレスの手を握り、大丈夫だよ、と優しい声色のままヴィレインはアーガレスに微笑み、君は君の役目を全うしてくれるかな、とアルバと同じ様に首を傾げた。
策は万全に、より多くだよ、とそうして笑ったヴィレインに、底知れなさを茶桜は感じた。
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