ホーボー・ホーボー魔導具を巡る冒険

アトアン・グリューゼン

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ルーネ

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「……気づかれた?」

 レダが小声で呟く。

「……」

 アンリは息を岩陰で殺し、口をつぐんでいる。
 ……バフォメットは周囲を警戒しつつ、ゆっくりとアンリ達に接近してくる。

「私、出るよ、さっさと片付ける」

 そう言うとオクタヴィアは勢いよく岩影から飛び出した。

「おい……ちょっと待てよ」

「やるみたいね」

「おい、こっちをみろ!!」

 オクタヴィアがハルバードを構え、大きく声を張る。
 バフォメットは彼女の姿を確認し向き直ると、体勢を低く構え彼女へ角を向け、突撃する。
 オクタヴィアは体を躱し、すれ違いざまにハルバードの一撃を喰らわせた。魔獣の黒い体毛が赤く染まる。
 魔獣は咆哮を上げ、腕を振り下ろす。バフォメットの爪とオクタヴィアのハルバードが何度も激しく打ち合う……魔獣は一旦距離を取ると、角を向け、彼女へ再度突撃する。オクタヴィアは攻撃を側面に跳び回避するが体勢を崩してしまう。

「くっ、しまった」

 アンリは背負った麻袋を岩陰に下ろすと、減速術式で氷弾を形成し投擲する。氷弾は魔獣の身体に直撃炸裂し、魔獣の背中に氷の刃が突き刺さる。そして、アンリは間合いを詰め、魔獣の背後から蹴りかかる。
 魔獣は振りかえり、攻撃を両腕で受け、アンリへ爪を降り下ろす。アンリは後退し魔獣の攻撃をかわす。
 レダが腕から伸ばした蔓がバフォメットの片足に絡みつき、魔獣の身動きを封じ、体勢を立て直したオクタヴィアは大型拳銃を抜き、魔獣の体へ銃撃を放つ。
 バフォメットは悲鳴をあげ、魔獣の赤い血が地面を濡らした。
 薄暗い森にレダの白い刀身が僅かな陽光を受け輝く。レダは魔獣の足に白花の剣を突き立てる。
 レダの携えた盾から放たれた種子の弾丸が動きの鈍ったバフォメットの身体に突き刺さった。魔獣の身体に植え付けられた種子が芽吹き、血を養分に紫の花が咲かせる。魔獣の体中から血が吹き出し、体を赤く染め流れ落ちていく。

「くらえ!」

 怯んだ魔獣の脳天にオクタヴィアがハルバードの強烈な一撃を喰らわせる。バフォメットが膝をつき、巨体が地面に崩れ落ちた。

「やったか!?……倒したか、なんとかなるもんだ」

 アンリは減速術式で形成した氷の短刀で倒れたバフォメットの身体から心臓を抜き取ると、減速術式で凍らせる。

「悪いがオクタヴィア、これ持っててくれ」

「良いけど……何に使うの?」

 アンリは凍らせたバフォメットの心臓を布に包んでオクタヴィアに手渡した。

「色々と使い途があるんだ、魔術師にはさ」

「ふーん」

「血の臭いを魔獣が嗅ぎ付けない内に離れようぜ」


・・・・・・・・・

  アンリ達は無事に山を下り、ルーベルカイムの北門でたどり着いた。

「無事に帰って来れたな……あとはハイディに届けるだけだな」

「アンリよく会うわね」

 ルーベルカイムの北門で栗毛の暗黒騎士の女ルーネがアンリに声をかけてきた。

「よう、ルーネか、良いものが手に入ったぜ」

「へえ……なに?」

「バフォメットの心臓だ」

「北の山でとって来たの?」

「ああそうだ、状態はかなりいい」

 そう言うとアンリはルーネにバフォメットの心臓を手渡した。
 ルーネは手渡された魔獣の心臓を見つめると、そのまま、渡された魔獣の心臓にかじりつき、飲み込んだ。彼女の口元が魔獣の血で赤く染まった。

「これ、お礼よ、取っといて」

 ルーネは銀貨の入った袋をアンリに手渡した。

「ああ、どうもな」

「最近、体の調子がいいの、身体が成長したがってるみたい」

 ルーネの身体が震え、呼吸が荒くなっていく……兜の下から虚ろな目を覗かせ、震える手でポールアックスを杖がわりにする。

「体が……熱い……」

 彼女の瞳が兜の奥で銀色に輝く。

「いいわ、魔力が湧いてくる……体がはじけそう」

 ルーネは息を切らし顔を紅潮させている、彼女の首筋に汗が光っている。
 ……多くの淵術士は淵術資質を高めるために淵術刻印を身体に刻んでいる。この刻印により術師は人間の体にとって毒である瘴気を魔力に変換することができる。

「ああ……はあはあ……苦しい、でも気持ちいい、最高の気分……身体が喜んでる」

 彼女の内腿と背中に刻まれた淵術刻印が熱をもって疼く、汗が鎧の下に身に着けた魔力増幅術式が刻まれた下着を濡らし、太ももを流れ落ちる。

「う、く、はあ、心臓が……胸が痛い、今日はいつもより反応が強くて……」

「おい、大丈夫か?」

「問題ないわ……うっ、あっ……」

 ルーネはふらつき、オクタヴィアの肩に寄りかかる。

「大丈夫?ルーネ?」

 オクタヴィアはルーネの体を支える。オクタヴィアの肩に乗せたルーネの手が震えている。

「うっ、はあぅくっ、はあはあ、大丈夫よ、何とか問題ないわ……」

「アンリ、私はルーネを送ってくよ」

「気をつけてな」

「肩貸そうか?」

「……ありがとう……オクタヴィアさん……でも大丈夫、歩けるわ」

 ルーネは少し微笑むと、アンリとレダを残して、オクタヴィアとルーベルカイムの街の奥へと消えていく。

・・・・・・・・・

 ルーネとオクタヴィアが去った後、レダはアンリに問いかける。

「ねえルーネさんってどんな人なの?どんな関係?」

「ルーネ?オレの姉貴の友達なんだ、実家は結構、お金持ちみたいだな、あと、年の離れた兄貴がいるらしいぜ、オレは会ったことないけど」
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