異世界に温泉街を作ろう!温泉好きのフリーターと6人の現地妻とはじめる湯けむり生活

彩のタマオ

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湯けむりと異世界と

14話 二等陸尉と初めてのお仕事依頼

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「昨日、不審者が現れてね。
それで警備も兼ねて、こうして隠れてサラちゃんを見守っていたわけなの。」

着用していたギリースーツには草を絡ませて、おまけに所々に土まで被らせて、中原さんは特にそんな汚れすら気にせず、説明口調でそう淡々と話した。

「不審者ですか?」

俺がその言葉に対して、あなたこそ不審者では無いのですか、とうっかりそんな思いが浮かびこんできたのだが、兎角それは心に留めておいて、そんな疑いを掛けられるている、と悟られないように俺はきょとんと不思議な表情をでっち上げてたずねた。

すると、そんな俺を横でちらっと覗いたサラさんが何か話そうとしていたのだが、然し、その内容は俺には全く分からなかった。

「∀⊆∵∈Фж……」

単語すら聞きとることも出来ない、不自然で、謎めいた言葉を彼女は繰り返すだけだった。

今度は本当に俺は頭を傾げて、ただ呆然とサラさんを眺める以外に出来ることは無かったのだが……

するとそんな俺に彼女はハッとさせられた様子で、次いで周囲を鷲のようにキョロキョロと見回し始めた。

そうして、終始何処か落ち着かない様子のサラさんは俺の影で隠れてしまっていたつるカゴを見つけると、「アッ!」と口を大きく開けて、イタチの如く素早い動きで、それをしゅっと拾い上げた。

すると、サラさんはそのカゴの中身を漁り始めて、結局やっとの事でそこから見つけたものは例の金色のペンダントだった。

カゴから現れたペンダントは2つあって、一つは彼女の首に、もう一つは無言で俺の手にしっかりと預けたので、俺は言わずもがな、彼女がしようとしている事は理解出来たので、それを受け取るとすぐに自分の首にかけた。

すると、彼女の声が聞こえてきて……

「すみません。湖のオリハルコンの効果が消えていることに今気づきました。」

とはいえ、中原さんに遭遇するまではサラさんの言葉は間違いなく理解できていたので、俺がその矛盾を尋ねれば、彼女は「副作用といいますか、あの湯に浸かった後はほんの少しの間だけ、首飾りが無くとも、話せるようだ、と以前に其方の研究員の方が仰っておりました。ですから、恐らく四月一日さんが私の言葉を理解出来たのもそのせいかと……」

なるほど

あの温泉にはそんな効果があったのか……

それで少しは納得出来たのだが、とりわけサラさんはその効果時間は短いと説明していたので、これからを見据えればあまり役に立たないものだ、と思い、取り敢えず俺はその情報は頭の片隅に置くことにした。

疑問も解消されて、心の中は晴れやかになった俺は、すっかりその存在を忘れていた中原さん(着ずとも、既にギリースーツを着ている女)に先程の所謂「不審者」の事を尋ねた。

「それが……
うちの三村が昨夜、ベース内で怪しい人影を何度も見たって言うのよね。
でも、奇妙な事に三村以外の隊員は一応に見てない、って否定するから、それでも、部下の言葉を無視するわけにも行かないし、だから一応こうして不審者がいないか見張っていたってわけ。
正にできる上司でしょ?」

「で、でも中原さん。
それでは、私達ではなくて、目撃情報のあったキャンプ地を見張りにいく筈ではないのですか?」

鼻を高々と伸ばしながら自慢げにそう語る中原さんにサラさんは、ややぎこちない口調で、申し訳なそうに下から的確な意見を述べていた。

「そ、それはあれよ。
相手を油断させるためよ。
敢えて、私がここに来ることで、ベースの警戒を手薄にさせ、のこのこと現れた所を捕まえるっていう作戦なの。
分かった?」

「そうでしたか……
てっきり、中原さんの事だから、また私の裸を覗きに来たのかと思いました。」

「そ、そんなわけないじゃない!
わざわざギリースーツまで着て、そんなことしないわよ。」

滔々と巧妙に事の次第を説明した中原さんであったが、サラさんにはどうやら立派な眼識があるようで、彼女の言葉の内に疚しさがあるのを見過ごさなかった。

とりわけ、中原さんは嘘を平然と隠し通せるようなタイプではないらしく、サラさんの冴え冴えとした双眸で見つめられ度に、自身の身体を不自然にビクつかせて、その回数が彼女の疚しさの量をありありと表していた。

「ままぁ、そんなことはいまはどうでもいいじゃない。
だいたい私達、女同士なんだから別に気にする事は無いでしょ?」

彼女の中で疚しさが大幅に増加してきたせいか、(それがハイドを生み出しのかは彼女のみぞ知るだが……)悪びれもしなければ返って開き直って、中原さんは堂々たる口ぶりでそう言い切った。

「そ、そうですが、中原さんは私の下着を盗んだこともありますし……」

「盗んだなんて人聞きが悪いわね。
あれは盗んだのではなくて、サラちゃんの下着は少し地味だったから、もっとお洒落な物に交換しただけのことよ。」

「そ、それがダメんなんです!
あんな、あんな……スケスケの破廉恥な下着なんて履けるわけないじゃないですか!!」

羞恥心も何もかもかなぐり捨てて、堰を切ったように飛ばしたその魅惑的、ではなくて大変けしからん発言に俺はこほん、と咳払いをして、それで一気に静寂を取り戻した空気を悟って、サラさんは身体までかあっと燃え上がらせて突然、黙り込んでしまった。

忙しい人だった。

「それはそうと、四月一日君。
西田会長があなたを呼んでいたわよ。」

「えっ、今ですか?」

「何でも、今日はここの領主の公爵様が王都からこっちに戻ってくるらしいから、挨拶も兼ねて四月一日君には直接会ってもらいたいんだって、そう言っていたわよ。」


今日は一日中、ゆっくりしていいと西田さん本人から言わたのだが……

でも、公爵様と面会があると言わない西田さんも人が悪い。

すっかり、休日気分だったので、今は去ってしまった安らぎが俄然恋しく思える。

「分かりました。
それでは、私は向こうに今すぐ戻ることにします。」

そう言い残して、俺は退散しようとすれば、中原さんが前方へと向いていた俺の足を急に引き止めて、微笑しながら言った。

「待って、私と一緒に行きましょう。
次いでに公爵様の所まで送ってあげるから。」

「えっ?」俺は素っ頓狂な顔でそう申し出る彼女を見つめれば、呼び出された俺よりも先に歩を進めようとしていたのだが、彼女はそうして去る最後に、未だ恥ずかしさで見悶えていたサラさんへと言葉を残した。

「私達は外れるから、ゆっくり着替えるといいわ」


その言葉が後に波乱を巻き起こすとは、俺もサラさんも考えもしなかったのだが……

やがて、俺は異世界に来て初めての仕事、この国の公爵との面会を果たすことになるのであった。

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