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第4章 モンスター襲来
第26話「ベルンハルトと死の魔法」
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「お、無事に可愛がってもらえたようじゃの」
『あの部屋』が消滅して開口一番。
一人くつろいでいた様子のスピカが笑いかけてきた。
「てめぇ……デリカシー!!」
「ベル、やっぱり追い出しましょう」
「いやいい……で、スピカ」
勝手にソファーの真ん中で寝転んでいたスピカを隅に追いやって座る。……グレンは隣に座って、膝を叩いてなんかアピってきてるけど無視した。
「ん?」
「この……頻度って、どれぐらい必要なの?」
そう。本当はオレだってこいつを追い出してしまいたいところだが、これだけは聞いておかないと。
ぼかした言い方になったが伝わったらしい。彼女は伸びをしながら、カーテンの隙間から差し込む木漏れ日の中で丸くなった。
「そうじゃのう……陛下はお強いからあまり不調を自覚されないじゃろうて……おぬしが定期的に誘うのがよいのではないか?」
その愛らしい猫ちゃん仕草と言ってることのギャップがすごくて脳がバグる。
……え?
要するに、“お、前回から結構経ったな。よしグレン。セックスしようぜ!!“って……オレが誘えってこと?
――むり。
「…………もうちょっと明瞭な基準をくれ」
「え~じゃあ、どちらかがムラっとしたとき?」
……こいつ本当にスキル持ってんのか!? 適当ぬかしてんじゃねぇだろうな!!??
膝の上で握った拳に力がこもった。
「ベル。困ったことになりましたね……」
隣のグレンも、深刻な顔で悩んでいる。
そうだよな……お前だって、定期的にオレとあんなことすんのめんどいよね……!!??
「俺、貴方の姿を見ていて欲情しないことなんかないんです」
違ったわ。
「いや……あー……うん。いったんこの話やめるか」
はい。この問題は後回しにします。
わからない問題に固執してたら次の問題が解けないんでね!!!
問一は難しいな~先に問二を見るか~……。
「で、グレン。どうだった?」
そんなわけで問二です。
「可愛かったです」
「やめるって、言ったよな? 真面目に話さないと嫌いになるぞ」
「冗談ですよ。ちゃんと調べてきました」
グレンはポケットから小さな結晶のようなものを取り出した。
嫌な色に光るそれは、川でオレたちを襲ってきたモンスターと似た魔力を帯びている。
「これは、魔法が付与された石です」
「魔法……」
「はい。付与されているのは――死の魔法」
死……なんか安直な……。いや、単純なほど怖いか。
「俺も見たことがない魔法です」
「ほう……わしも知らん魔法じゃ。興味深いの……死の魔法か」
皇帝と、魔王の眷属が知らない死の魔法。
……嫌な感じだ。
「それと、オレの頼んだおつかいにはどんな関係が?」
込み上げる不快感を堪えて尋ねる。
オレがグレンに頼んだのは、ミルザム伯領に異変がないか――具体的には、“モンスターの襲撃の予兆がないか調べろ“だ。
それと死の魔石(仮にそう名付けよう)がどう関係するのか。
「ああ。そうでしたね……ベル。この石は、ミルザム伯領を取り囲むように置かれていました。全部で五つ」
「……包囲網、ってことか?」
「そうです。さすが、話が早い」
オタクなんでね。
――ミルザム伯領は五つの水源を頂点として結んだ中にちょうど収まるような立地をしている。
その五つに魔石を置けば、包囲網の完成だ。
「俺たちが途中で立ち寄った……魚がモンスター化していたあの場所にも、この石はありました」
……あの場所も、伯領を囲む水源の一つか。
「その石と、魚のモンスター化に関係が?」
「はい。この石は近くにあるものを無条件に死に至らしめる、と言うものではありません。“死の魔法“は――生物の魔力を奪い、空になった器へ別の魔力を強制的に送り込む魔法です」
◇
難しいけど、なんとなく理解した。
魔力――この世界生きとし生けるもの全てに宿る、生命の源。
魔力はそれぞれの生命に固有のもの。
グレン曰く、それを抜き取られ、別の魔力を流し込まれるとその生物は絶命、弱体――或いは暴走して、モンスターへと変貌する。
要するに、貧血だからって別の血液型の血を入れたら拒絶反応が出る……みたいな感じでいいのかな?
ちょっと違うかもだけど、多分そんな感じだ。
「この石が置かれていた場所――あの川以外でも、生物のモンスター化は発生していました。死亡例もあったのでしょうが……モンスターに食べられてしまったのか、石が原因だとわかる痕跡はありませんでした」
「そうか……」
なんか、思ってたよりめんどくさい。
単にドラゴンが襲ってくる、とかだったらグレンが魔法とスキルでちゃちゃっと片付けてくれるのに……。
「で、石とモンスターはどうしたんだ?」
「ああ――無効化しておきました。モンスターも貴方の【予言】をお借りして元の姿に戻せるものは戻して、無理なものは殺しました」
ん……?
「無効化って……そんなのできんの?」
「そういうスキルがあるので。……え、ダメでしたか? 解析用サンプルはこれ一つでいいかなと思って」
「いや、だめとかじゃないけど……てか、それって素手で触っていいやつ??」
「俺は大丈夫です。あ、ベルは一応触らないでくださいね。俺がバリアを張ってあるので影響はないと思うんですが……」
おっと……混乱してきた……。
「え~……じゃあ、これからオレたちがやるべきことは?」
「そうですね。この石の作成者が、そのうち魔法の無効化に気付いて襲撃……もしくは新しく石の設置をすると思うので、そうなったら作成者を特定し殺すこと……でしょうか?」
――いや、話早いな!!!
だって、魔法の正体もわかってて??
無効化も終わってて??
何だったら解析用サンプル(その呼び方でいいの? なんか軽くない……?)もあって。
いややっぱ……チートってすごいわ。
多分、グレンならオレがいなくても――死の魔法が蔓延した後でもどうにかできたんだろうね。
「貴方の慧眼があってこそです。ベルの指示がなければ、俺はこの調査をしようと思いませんでしたから。それに、貴方を守る為じゃないと無効化も【予言】も使えませんでした」
そんなオレの思いを感じ取ったのか、グレンはオレの手を取って甲にキスをした。
「やっぱり、貴方は素晴らしいお方です。これが置かれたのは最近のようで被害はほとんどありませんでした。全部、ベルのおかげですよ」
いや、全部お前のおかげですよ。
よし……やることなくなった。
死の魔法とやらの制作者には気の毒だが、グレンくんがいる限りこっちに負けはない。
オレがするべきことは、ただグレンを生かすことだけだ。
「グレン」
「なんですか、ベル」
「……休んでいい?」
わかったように言ってみたけど脳みそ(ついでに身体も)キャパオーバーです。
『あの部屋』が消滅して開口一番。
一人くつろいでいた様子のスピカが笑いかけてきた。
「てめぇ……デリカシー!!」
「ベル、やっぱり追い出しましょう」
「いやいい……で、スピカ」
勝手にソファーの真ん中で寝転んでいたスピカを隅に追いやって座る。……グレンは隣に座って、膝を叩いてなんかアピってきてるけど無視した。
「ん?」
「この……頻度って、どれぐらい必要なの?」
そう。本当はオレだってこいつを追い出してしまいたいところだが、これだけは聞いておかないと。
ぼかした言い方になったが伝わったらしい。彼女は伸びをしながら、カーテンの隙間から差し込む木漏れ日の中で丸くなった。
「そうじゃのう……陛下はお強いからあまり不調を自覚されないじゃろうて……おぬしが定期的に誘うのがよいのではないか?」
その愛らしい猫ちゃん仕草と言ってることのギャップがすごくて脳がバグる。
……え?
要するに、“お、前回から結構経ったな。よしグレン。セックスしようぜ!!“って……オレが誘えってこと?
――むり。
「…………もうちょっと明瞭な基準をくれ」
「え~じゃあ、どちらかがムラっとしたとき?」
……こいつ本当にスキル持ってんのか!? 適当ぬかしてんじゃねぇだろうな!!??
膝の上で握った拳に力がこもった。
「ベル。困ったことになりましたね……」
隣のグレンも、深刻な顔で悩んでいる。
そうだよな……お前だって、定期的にオレとあんなことすんのめんどいよね……!!??
「俺、貴方の姿を見ていて欲情しないことなんかないんです」
違ったわ。
「いや……あー……うん。いったんこの話やめるか」
はい。この問題は後回しにします。
わからない問題に固執してたら次の問題が解けないんでね!!!
問一は難しいな~先に問二を見るか~……。
「で、グレン。どうだった?」
そんなわけで問二です。
「可愛かったです」
「やめるって、言ったよな? 真面目に話さないと嫌いになるぞ」
「冗談ですよ。ちゃんと調べてきました」
グレンはポケットから小さな結晶のようなものを取り出した。
嫌な色に光るそれは、川でオレたちを襲ってきたモンスターと似た魔力を帯びている。
「これは、魔法が付与された石です」
「魔法……」
「はい。付与されているのは――死の魔法」
死……なんか安直な……。いや、単純なほど怖いか。
「俺も見たことがない魔法です」
「ほう……わしも知らん魔法じゃ。興味深いの……死の魔法か」
皇帝と、魔王の眷属が知らない死の魔法。
……嫌な感じだ。
「それと、オレの頼んだおつかいにはどんな関係が?」
込み上げる不快感を堪えて尋ねる。
オレがグレンに頼んだのは、ミルザム伯領に異変がないか――具体的には、“モンスターの襲撃の予兆がないか調べろ“だ。
それと死の魔石(仮にそう名付けよう)がどう関係するのか。
「ああ。そうでしたね……ベル。この石は、ミルザム伯領を取り囲むように置かれていました。全部で五つ」
「……包囲網、ってことか?」
「そうです。さすが、話が早い」
オタクなんでね。
――ミルザム伯領は五つの水源を頂点として結んだ中にちょうど収まるような立地をしている。
その五つに魔石を置けば、包囲網の完成だ。
「俺たちが途中で立ち寄った……魚がモンスター化していたあの場所にも、この石はありました」
……あの場所も、伯領を囲む水源の一つか。
「その石と、魚のモンスター化に関係が?」
「はい。この石は近くにあるものを無条件に死に至らしめる、と言うものではありません。“死の魔法“は――生物の魔力を奪い、空になった器へ別の魔力を強制的に送り込む魔法です」
◇
難しいけど、なんとなく理解した。
魔力――この世界生きとし生けるもの全てに宿る、生命の源。
魔力はそれぞれの生命に固有のもの。
グレン曰く、それを抜き取られ、別の魔力を流し込まれるとその生物は絶命、弱体――或いは暴走して、モンスターへと変貌する。
要するに、貧血だからって別の血液型の血を入れたら拒絶反応が出る……みたいな感じでいいのかな?
ちょっと違うかもだけど、多分そんな感じだ。
「この石が置かれていた場所――あの川以外でも、生物のモンスター化は発生していました。死亡例もあったのでしょうが……モンスターに食べられてしまったのか、石が原因だとわかる痕跡はありませんでした」
「そうか……」
なんか、思ってたよりめんどくさい。
単にドラゴンが襲ってくる、とかだったらグレンが魔法とスキルでちゃちゃっと片付けてくれるのに……。
「で、石とモンスターはどうしたんだ?」
「ああ――無効化しておきました。モンスターも貴方の【予言】をお借りして元の姿に戻せるものは戻して、無理なものは殺しました」
ん……?
「無効化って……そんなのできんの?」
「そういうスキルがあるので。……え、ダメでしたか? 解析用サンプルはこれ一つでいいかなと思って」
「いや、だめとかじゃないけど……てか、それって素手で触っていいやつ??」
「俺は大丈夫です。あ、ベルは一応触らないでくださいね。俺がバリアを張ってあるので影響はないと思うんですが……」
おっと……混乱してきた……。
「え~……じゃあ、これからオレたちがやるべきことは?」
「そうですね。この石の作成者が、そのうち魔法の無効化に気付いて襲撃……もしくは新しく石の設置をすると思うので、そうなったら作成者を特定し殺すこと……でしょうか?」
――いや、話早いな!!!
だって、魔法の正体もわかってて??
無効化も終わってて??
何だったら解析用サンプル(その呼び方でいいの? なんか軽くない……?)もあって。
いややっぱ……チートってすごいわ。
多分、グレンならオレがいなくても――死の魔法が蔓延した後でもどうにかできたんだろうね。
「貴方の慧眼があってこそです。ベルの指示がなければ、俺はこの調査をしようと思いませんでしたから。それに、貴方を守る為じゃないと無効化も【予言】も使えませんでした」
そんなオレの思いを感じ取ったのか、グレンはオレの手を取って甲にキスをした。
「やっぱり、貴方は素晴らしいお方です。これが置かれたのは最近のようで被害はほとんどありませんでした。全部、ベルのおかげですよ」
いや、全部お前のおかげですよ。
よし……やることなくなった。
死の魔法とやらの制作者には気の毒だが、グレンくんがいる限りこっちに負けはない。
オレがするべきことは、ただグレンを生かすことだけだ。
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