「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

文字の大きさ
28 / 93
第4章 モンスター襲来

第28話「ベルンハルトと英雄」

しおりを挟む
 勇者は決意した。
 よし、故郷見捨てて逃げよう――。


「グレン。度々予定変更で悪いが、今すぐ王都に行こう。勇者辞めてくる」

「わかりました」

 止めてくる奴もいない。
 
 はっ……あのクソ親父とか、腹黒鬼畜義弟とか、エセヒロインとかがちょっとでもオレに優しくすりゃあ助けてやったのになぁーー!!!

 まあせいぜい、お前らのヒーロー英雄が現れなかったことを恨みながら死んでいけ。
 残念ながら、このヒーロー主人公はオレだけの物なんでね。

「グレン、移動手段はどうする? 飛ぶのはもう怖いから嫌なんだけど」

「ベル。その前に」

 そうと決まれば善は急げだ。
 早速、と起き上がったオレを制止するようにグレンは隣に座り、手を握ってくる。

「ここが――ミルザム伯領が壊滅する“デメリット“についても、念のため確認しておきたいんですが……お話ししてもよろしいですか?」

 “デメリット“……そうか。
 そりゃ、あるよね……。だっていっぱい死んだり壊れたりするんだし。

「いいけど。……伯爵が、親が死ぬとか……従兄弟がとか……そういうのは無しな。どうでもいいし」

「それは勿論。さっき俺が言った“皆殺し“には彼らも当然含まれています……俺の父も。なので、今から俺が話すのは、そんな心理的な問題ではありません」

 ……含まれてるんだ。

「まず……ロニー・ミルザム。貴方の義弟がミルザム伯爵家の後継及び領主になるというのは、あの男伯爵が勝手に宣っているだけであり、決定事項ではありません」

 そうだね。
 
「扱いとしては廃嫡同然でもな」

 形式的にはまだ、嫡子はオレだ。

「まあ……直系がいるのに養子を後継者にするっていうのは中々大変みたいだし」

 それを薄々察してたからこそ、オレもあのゴミ伯爵とああいう取引ができたわけだけど。……なんかムカつくな。

「ああ、悪い。続けてくれ」

「ええ……ここからが肝心なんですが、この状況で伯爵かロニー、あるいはその両方が死んだ場合、どうなるかわかりますか?」

「どうなるって……そりゃ……」

 尋ねられて、気づく。

「オレが、伯爵……と、領主になる?」

「はい。順当に行けば、と言っていいのかはわかりませんが……まず間違いなく」

 うわ~~あ~~……。

 思わずグレンに抱きついた。というか力が抜けて自然とそうなった。

「ベル……大丈夫です」

 なにがどう大丈夫なんだよ……。あれかな? 「伯爵領を更地にして、領民も全員殺せば貴方が治める土地もないから問題ありませんよね」って意味の大丈夫だったりする??

 ……あり得そうで怖いから訊かないでおこう。

「なぁ……グレン」
 
「はい」

「嫌な可能性、思いついたんだけど……これ、犯人オレにされない?」

 
 そう――もしこのままオレたちが逃げて、その後に伯爵領が襲われたら……あまりにも、あまりにもなタイミングだ。
 
 だってオレが帰郷して、すぐに出て行ったタイミングで……って、ねぇ? 
 しかもオレは勇者辞めに行くんだぜ??? 完全に伯爵and領主になる準備じゃねぇか!!!

 普通はオレが首謀者だと疑うだろう。
 
 廃嫡寸前の長子が、伯爵家と領地を我が物とせんが為に犯した大罪――筋書きとして完璧だ。
 いや、あやしすぎて漫画だったら絶対に犯人じゃないけど、ここは現実。

 疑うさ!!!
 誰だってそーする。おれもそーする……!!


「やはり貴方は聡明です。そして、当然すでにお気づきの通り……生き残った貴方を、ほとぼりが冷めた後、真犯人が殺しにきます」

 ……お気づきじゃないです。
 真犯人ってなに……。もうちょっとゆっくり説明して、ほんと……。

「オレを……殺そうと」

「ええ。死の魔法の術者、この事件の首謀者――シャウラ子爵家が、貴方を害そうとするでしょう」

 あ、そうなんだ。

 シャウラ子爵家って……ロニーとエステルの家、だよな???

「状況証拠に過ぎませんが……貴方が伯爵領を訪れたタイミングで死の魔法が発動するのは、彼らにとってあまりにも都合が良すぎるんです」

 なるほどわからん。

「……続けろ」

「まず、ロニーが後継者となっても、仮に貴方に息子が生まれれば爵位は再び直系である貴方の息子に戻りますよね」

 存在しない息子の話が出てきた……。そうなんだ。

「それは、シャウラ子爵家としてはおもしろくない。彼らはミルザム伯爵家の乗っ取りを目論んでいるのですから。――ベルもお考えの通りです」

 そうなんだ……。オレそんなん考えてるんだ。

「なので、彼らは貴方を亡き者とするだけでなく、貴方に罪を押し付けたいのです。だから、このタイミングで死の魔法を発動させる――と、そう考えれば辻褄が合います」

 合う……のかな?
 途中からあんまり理解できてない。

「思えば、川での魚のモンスター化……あれもタイミングが良すぎました。あらかじめ石に貴方の魔力を覚えさせ、貴方が近づいたら死の魔法が発動するような仕組みになっていたのでしょう」

 へぇ~……BLとラブコメ定番の、“いい雰囲気になったらお邪魔虫入りがち“かと思ってた。

 
「でも、誤算でしたね。貴方の傍には――俺がいます」

 グレンはオレを抱きしめると、優しく、甘く囁く。

「俺は貴方の盾。貴方を守るために生まれた、貴方だけの盾です……ベル、安心して。どんなことがあっても……たとえ世界が滅びたって、貴方だけは俺が守り抜きますから」

 なんかどっちかと言うとお前が世界滅ぼしそうだけど……まあいいか。

 
「要するに……今逃げるのは得策ではないってことだな」

「貴方が望むなら、“デメリット“も俺が消しますが……そうですね。ここに留まって領地の壊滅を防いで、首謀者……仮ですが、シャウラ子爵家をどうにかする方が手取り早いです」


 そうか。わかんないけどグレンくんがそう言うならそうなんだろうね!!!


「どうしますか?」

「――グレン、予定変更だ」


 ……やっぱり故郷は大事だよな!!! 
 守ろう……オレたちの手で。

 ほら、オレ勇者だし!!!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

処理中です...