かりそめの侯爵夫妻の恋愛事情

きのと

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第4話 カルヴィンの恋 -3-

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 やがて少女は大人の女性となり、カルヴィンのかつての婚約者は兄の花嫁となった。

 領地で最も歴史ある教会で行われた結婚式では、贅を尽くした花嫁衣裳を身に纏うミーシャをただぼんやりと眺めていた。

 世界中の幸せを独占したかのように微笑む新婦は咲き誇る花のようにとても美しかった。

 ずっと彼女が好きだった。

 いや、過去形ではない、今でも変わらず愛している。諦めなければと思うたびに息ができなくなりそうなほどの胸の痛みに襲われる。

 もう、他の恋などできる気はしない。それならずっと一生涯ミーシャを愛し続けよう。カルヴィンは心に決めた。

 アンディとミーシャの結婚と同時に父親が引退し、王国内有数の広大な領地の東側を兄のアンディが、西側をカルヴィンが相続した。

 正式に爵位を引き継ぐと、カルヴィンはすぐに西の領主館へ移った。

 しかし、ミーシャの顔見たさに理由をつけては本邸に足を運んだ。そして兄夫婦の仲睦まじさを見せつけられ、嫉妬にさいなまれる。これの繰り返し。

 婚約が白紙になって以降、カルヴィンへの結婚の申し込みは山ほどあったが、すべて断ってきた。あまりに女性を寄せ付けないので、社交界では女嫌いの変わり者だと噂されるようになっていた。

 そんな折、懇意にしている公爵家から縁談が持ち込まれた。前公爵夫人の遠縁の娘だそうで、気がすすまなければ断ってもいいから会うだけ会って欲しいということだった。立場上、受けないという選択肢はなく、渋々ながら約束を取り付けた。

 結婚などする気はさらさらなかった。

「私には生涯愛すると決めた人がいる」

 たとえ愛情のない貴族同士の政略結婚でも、他の女を心に住まわせている男などお断りだろう。だから、そういえば女性の方から破談にしてくれると思った。

 しかし、お見合い相手は顔色一つ変えなかった。

 カルヴィンの決意を聞いて、むしろ嬉しそうに微笑んでいた。それどころか、その意中の女性をずっと愛し続ければいいと言った。

 エリーゼとの結婚式、カルヴィンは自分自身の晴れの舞台でも、己のことよりミーシャが気になって仕方なかった。兄のとなりにいる彼女が視界に入るたびに胸が苦しくなる。

 本邸で行われたお披露目のパーティでは、ミーシャは心なしか不機嫌そうだった。目を伏せ、ふてくされたような顔をしている。

――――もしかして嫉妬してくれている?

 そんな妄想をして嬉しくなったが、都合のいい勘違いに決まっているとすぐに思い直した。


□□□


 こうして、世間体のためだけの結婚をした夫婦の新婚生活が始まった。

 新生活の初日にエリーゼから提案があった。

「いくら形だけの夫婦とはいえ、ギスギスした関係にはなりたくないのです。私たち、仲の良い兄妹という感じで暮しませんか」

 カルヴィンも同意見だった。王宮での舞踏会や貴族主催の夜会など夫人同伴で出席しなければならない行事はたくさんある。そういった場で睦まじい夫婦を演じるには、日頃からある程度の意思疎通をしておくことが必要だろう。

 男女の恋愛感情をもっていないだけであって、決して彼女のことを嫌いなわけではないのだから、家族としてうまくやっていけるのであればそれが一番望ましい。

 ふたりでいくつか約束を取り決めた。なるべく食事は一緒に摂る。それ以外は干渉せずに自由に過ごす。恋愛はお互いにする気がないので特に考える必要は感じなかったが、もし恋人が欲しくなったら好きに作ればいい。

 とりあえず今まで通りに過ごせたら十分、カルヴィンはその程度にしか考えていなかった。

 しかし、期せずしてできた同居人は、意外にも味気なかったカルヴィンの日常に明かりを灯してくれた。

 エリーゼは第一印象通り、朗らかで、さっぱりとした性格の女性だった。話題も豊富で話が面白い。それでいて聞き上手で、口下手なカルヴィンをうまくフォローしてくれるので、会話も弾む。馬が合うのかとにかく一緒にいて楽しい。以前に比べて笑うことが多くなったとカルヴィンも感じていた。



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