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第23話 招かれざる客-2-
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乱れた髪はケイトが結いなおしてくれた。アダムが残していった首筋の赤い痕が隠れるように、髪を多めに下ろす。
「マリアナさん、その、大丈夫ですか? もし、男の私に話しにくいのであればケイトにでも相談してくだされば」
今度は身体の痛みではなく、不本意ながらアダムに触れられたことで心が傷ついていないか心配してくれているんだろう。
「本当に何ともないですから。この程度のことでショックを受けたりしません。でも、すごく腹が立っているので甘いものをやけ食いをしたい気分ではあります」
つんと口を尖らせるマリアナを見て、ウォルターはようやく頬を緩めた。
「それでは、お茶請けの焼き菓子をたくさん用意するようにクラークに言っておきましょう。そうですね、チョコレートムースも追加で作ってもらいましょうか」
いちばんの好物に「やった!」とマリアナが小さく歓声を上げる。
「ったく、もっと強くひねり上げてやればよかった……」
ウォルターの独り言に、マリアナは思わずふふっと笑みを漏らしてしまう。自分の代わりに怒ってくれる仲間に心が癒される。
いいタイミングかと思い、前から気になっていたことを聞いてみることにした。乳兄弟のウォルターと古参の侍女のケイトなら、昔のことを知っているだろう。
「イーサン様とアダム様って、いつごろ仲違いしてしまったんですか?」
ウォルターとケイトが顔を見合わせる。
「私どもが知っている限り、仲が良かったことはありません」
「え?」
「幼いころから性格は真逆でしたからね。常に反発し合っていました。王宮での公式行事や公爵家の家族旅行などでは一緒に過ごしていましたが、それ以外では二人で遊ぶところなど見たことはありません」
ケイトも懐かしそうに語る。
「坊ちゃまたちはあの通り、昔から可愛らしいお顔立ちでしたから、兄弟で並ぶとそれはそれは絵になりました。ですから周りの大人たちは揃いの服を着せたがったりしましてね、二人で一つみたいな扱われ方も嫌だったのかもしれませんわ」
「成長されてからは、イーサン様は王立アカデミーでは経済学を学び、アダム様は文学を専攻されました。私もお目付け役で同じ学校に進学しましたが、お二人は校舎でも寄宿舎でもほとんど顔を合わせることはありませんでしたね。卒業して領地に戻っても、お互いに避けていました。はっきりとは仰いませんがイーサン様が北館に居を構えるのもアダム様が原因でしょう」
「……なるほど」
想像していたよりもずっと根深いらしい。
「そんな坊ちゃまたちが一人の女性を奪い合っているというのも感慨深いものですね。不仲でも、ご兄弟だけあって女性の好みは似るものなんでしょうか」
しみじみとケイトは語りながら、マリアナに生暖かいまなざしを向ける。
「いえいえ、ちっとも奪い合われていませんから!」
恥ずかしい方向に話が進みそうなので、軌道修正をする。
「アダム様は何がしたかったんでしょう。愛人だの秘書だの、そんなのシンディ奥様が許さないでしょうに」
「とにかくマリアナさんをイーサン様から引き離して、かつご自身のそばに置きたいのでしょうね。イーサン様の活躍が目ざましいですから、アダム様は焦っていらっしゃっるのですよ。本館での会議のたびにアダム様がそれはそれは悔しそうにしていますし」
「まあ! そうなんですか?」
それはいいことを聞いたとばかりに、マリアナは目を輝かせる。
「ええ。タウンゼント家の臣下たちの間では、アダム様よりイーサン様を後継者に推す声が日増しに高まっていますよ。お二人の成果を比べたら当然ですけどね」
「ふふ、ざまあみろって思うのは性格悪いでしょうかね?」
「いいえ、全然。私もまったく同じことを考えていましたから」
ふたりでくすくす笑い合う。ケイトは少し呆れた顔をしていたが、ふぅと小さくため息をついただけだった。
「さて、そろそろ我らが主君のお戻りです。仕事を始めましょうか」
「ええ、わたしたちのイーサン様のために今日も頑張りましょう」
「マリアナさん、その、大丈夫ですか? もし、男の私に話しにくいのであればケイトにでも相談してくだされば」
今度は身体の痛みではなく、不本意ながらアダムに触れられたことで心が傷ついていないか心配してくれているんだろう。
「本当に何ともないですから。この程度のことでショックを受けたりしません。でも、すごく腹が立っているので甘いものをやけ食いをしたい気分ではあります」
つんと口を尖らせるマリアナを見て、ウォルターはようやく頬を緩めた。
「それでは、お茶請けの焼き菓子をたくさん用意するようにクラークに言っておきましょう。そうですね、チョコレートムースも追加で作ってもらいましょうか」
いちばんの好物に「やった!」とマリアナが小さく歓声を上げる。
「ったく、もっと強くひねり上げてやればよかった……」
ウォルターの独り言に、マリアナは思わずふふっと笑みを漏らしてしまう。自分の代わりに怒ってくれる仲間に心が癒される。
いいタイミングかと思い、前から気になっていたことを聞いてみることにした。乳兄弟のウォルターと古参の侍女のケイトなら、昔のことを知っているだろう。
「イーサン様とアダム様って、いつごろ仲違いしてしまったんですか?」
ウォルターとケイトが顔を見合わせる。
「私どもが知っている限り、仲が良かったことはありません」
「え?」
「幼いころから性格は真逆でしたからね。常に反発し合っていました。王宮での公式行事や公爵家の家族旅行などでは一緒に過ごしていましたが、それ以外では二人で遊ぶところなど見たことはありません」
ケイトも懐かしそうに語る。
「坊ちゃまたちはあの通り、昔から可愛らしいお顔立ちでしたから、兄弟で並ぶとそれはそれは絵になりました。ですから周りの大人たちは揃いの服を着せたがったりしましてね、二人で一つみたいな扱われ方も嫌だったのかもしれませんわ」
「成長されてからは、イーサン様は王立アカデミーでは経済学を学び、アダム様は文学を専攻されました。私もお目付け役で同じ学校に進学しましたが、お二人は校舎でも寄宿舎でもほとんど顔を合わせることはありませんでしたね。卒業して領地に戻っても、お互いに避けていました。はっきりとは仰いませんがイーサン様が北館に居を構えるのもアダム様が原因でしょう」
「……なるほど」
想像していたよりもずっと根深いらしい。
「そんな坊ちゃまたちが一人の女性を奪い合っているというのも感慨深いものですね。不仲でも、ご兄弟だけあって女性の好みは似るものなんでしょうか」
しみじみとケイトは語りながら、マリアナに生暖かいまなざしを向ける。
「いえいえ、ちっとも奪い合われていませんから!」
恥ずかしい方向に話が進みそうなので、軌道修正をする。
「アダム様は何がしたかったんでしょう。愛人だの秘書だの、そんなのシンディ奥様が許さないでしょうに」
「とにかくマリアナさんをイーサン様から引き離して、かつご自身のそばに置きたいのでしょうね。イーサン様の活躍が目ざましいですから、アダム様は焦っていらっしゃっるのですよ。本館での会議のたびにアダム様がそれはそれは悔しそうにしていますし」
「まあ! そうなんですか?」
それはいいことを聞いたとばかりに、マリアナは目を輝かせる。
「ええ。タウンゼント家の臣下たちの間では、アダム様よりイーサン様を後継者に推す声が日増しに高まっていますよ。お二人の成果を比べたら当然ですけどね」
「ふふ、ざまあみろって思うのは性格悪いでしょうかね?」
「いいえ、全然。私もまったく同じことを考えていましたから」
ふたりでくすくす笑い合う。ケイトは少し呆れた顔をしていたが、ふぅと小さくため息をついただけだった。
「さて、そろそろ我らが主君のお戻りです。仕事を始めましょうか」
「ええ、わたしたちのイーサン様のために今日も頑張りましょう」
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