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第5話 魔法学校の日々(1)
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王立魔法学校第247回入学式は王宮のホールで行われた。
祝辞の後、学校長から新入生へ一人ずつ錫杖が贈られる。
錫杖にはそれぞれの生徒への期待を込めた宝石がはめ込まれている。
コーラルは珊瑚、石言葉は「成長」だ。
その後のガイダンスで男の子たちと初めて顔を合わせた
ルッカの兄のイーライ。長身で浅黒い肌をした精悍な少年だ。
イーライとルッカは魔法学校始まって以来の天才兄妹としておおいに期待されているらしい。
そして魔法医師を目指すケリーと考古学が得意なマタン。
男子3人女子4人、計7名のクラスで2年間を過ごすことになった。
魔法学校のスケジュールはハードだ。
午前中は魔法の実践の授業。
生徒はそれぞれの属性に応じて、専門の講師によるマンツーマンの指導を受ける。
午後は全員が教室に集まり座学となる。
魔導士は健康な肉体と明晰な頭脳を兼ね備えるべしという学校の方針により、講義は魔法学だけでなく、文学、歴史、数学、天文学、生物学、薬学と多岐にわたっている。
初授業は、魔法修練校舎で行われた。
「初めまして、コーラル。私が担当教師のダイアンです」
「よろしくお願いいたします」
「事情は女王陛下より伺っています。大変な任務になると思いますが、あなたに与えられた時間はとても短いのです。まずは身を守るための呪文から練習していきましょう」
「あの……私が魔法なんて本当に使えるようになるのでしょうか」
「そうね、不安な気持ちはわかるわ」
ダイアンはにっこり微笑んだ。
「この世界は精霊と自然と生命が一体になり作られているの。精霊と自然の恵を形に変えることができるのが魔導士です」
コーラルに手を前に出すように促す。
「風の魔法とは、大気を我が手足のようにコントロールすること」
「はい」
「雑念を払い、心を研ぎ澄ませて、空気と一体になるようイメージして」
コーラルは素直に従った。
クリムゾンヘブンでは風に身を任せ、流されるまま飛ぶこともあった。
そのときは自分が空気に溶け込んだような感じがした。
その気持ちを思い出す。
「われらが精霊よ、汝の大いなる加護をここに与え賜え」
コーラルの手からちいさな竜巻が生まれた。
それはあっという間に消えてしまったけれど、風の魔法使いへの大きな一歩だった。
戸惑うことも多かった地上生活だが、半年も経つとだいぶ慣れてきた。
今日は講義はないけれど、コーラルは勉強のために学校のカフェテリアに来ていた。
ここは、食事するだけじゃなく、自習したりグループ学習したりと好きに使うことができる。
開放感ある広々した空間で、生徒に人気の施設だ。
カウンターで注文したサンドイッチとカフェラテを受け取りトレイに乗せ、空いている席を探す。
「コーラル」
名前を呼ばれ、声のする方をみると、テラス席に小さく手を挙げるケリーと頭を抱えるイーライがいた。
「相席してもいい?」
「もちろん。君はレポート?」
「ううん、数学。恥ずかしいんだけど、このまえの抜きうちテストが赤点だったから課題出されちゃって」
あははと自虐的に笑ってみせる。
「じゃあ、ちょっと教えようか?」
「いいの?」
「どうせイーライの面倒もみなきゃいけないし、ひとりもふたりも一緒だから」
「ありがとう!助かる」
席に着いて、ノートを広げた。
1年生の座学は、ケリーがすべての教科でトップだ。
課題である関数の解き方を教えてもらう。
いつもながら丁寧で分かりやすい。
一通り説明してもらい、そのあと自力で何問か解いてみる。
ちらっとイーライを見たら、すっかりペンが止まっていた。
テーブルに積み重ねられた本の一冊に医学書があった。
ケリーは光の魔法の使い手で、医者になるのが目標だと言っていたっけ。
「ケリーはどうして医者になろうと思ったの?」
「ありがちな話だよ。子供のころ大怪我したけど、運よく魔法医師に治療してもらえたんだ」
治癒を得意とする光魔法だが、その数はとても少ない。
マケドニアの魔法人口のうち、光属性はほんの2パーセントほどだ。
魔法医師は高度な医学の知識と技術、魔法の治癒の力を組み合わせて、通常の外科手術では手に負えないような症状でも治すことができる。
10年前、幼かったケリーは学校の課外活動中に集団からはぐれてしまった。
迷い込んだ山の中で狼に襲われ深手を負った。
地元の猟師によって発見され病院に運び込まれた時には瀕死の状態だった。
しかし、たまたま巡回診察に来ていた王宮魔導士の医師の治療を受けることができ、一命をとりとめたばかりが、筋肉をえぐるほどの大きな傷も跡がわからないくらいきれいに治してもらった。
「そうだったんだ。立ち入ったこと聞いてごめんね」
「いや、隠しているわけじゃないし構わないよ」
「ケリーはちゃんと目標があってすごいね」
ううん、ケリーだけじゃない、クラスのみんな将来の夢に向かって頑張っている。
「コーラルにも使命があるだろ」
イーライが口を開いた。
(あ、起きていたのか)
ケリーも頷く。
クラスのみんなには宝玉に関して大まかな事情は話してあった。
「イーライは女王陛下直属の魔法戦士になるんだよね」
イーライとルッカの兄妹は軍人の家系だ。
彼らの曾祖父はマケドニア軍の元帥を務めた国の英雄で、父親も近衛隊に所属している。
二人とも幼いころから軍人としての英才教育を受けてきた。
魔法だけでなく、体術や武術、武器の使い方にも精通している。
「この国を守る仕事に就くことに異存はないし、天命だと思っている。ただ……」
「ただ?」
「もっと広い世界を見てみたい」
イーライは天井を見上げた。
「俺はマケドニアから出たことがほとんどない。ほかの国で自分の力がどこまで通用するのか試したい」
「冒険してみたい?」
「ああ。不謹慎な言い方かもしれないけど、コーラルがうらやましく感じる時がある」
「ルッカもそうかな?」
ルッカは女性初の近衛隊入りを目指すといっていた。
「たぶんね」
すべての問題を解き終えた後、ケリーにざっとチェックしてもらい、OKがでた。
「ケリー、ありがとう。ほんとに助かった」
「どういたしまして。そうだ、歴史のレポートは終わった?」
「お見通しだね、まだ手付かずだよ」
「ちょっと待って」
メモをちぎると、レポートに使いやすい歴史書のタイトルを数冊さらさらと書いて渡してくれた。
コーラルはその足で王宮の図書館に向かった。
クリムゾンヘブンの図書館とは広さも蔵書量も桁違いで、ジリアンが見たら喜ぶだろうなと来るたびに思う。
歴史書の書棚に近づくと、予想通り考古学マニアのマタンがいるのが見えた。
ケリーのメモを渡すと、
「これはE列の一番上、こっちはC列の真ん中あたり」
司書のように教えてくれた。
「コーラルはテーマは何にしたの?」
歴史の授業では月に一度、自らテーマを選びレポートを作成することになっている。
「今回もバルクムーン関連にするつもりだけど……」
宝玉を探しに行くまでに少しでも東側の砂漠についての知識を蓄えておきたくて、歴史のレポートは毎回、バルクムーンにかかわる内容にしている。
「ただ、5回目ともなるとさすがにネタきれで……」
「うーん」
しばし考えこむマタン。
「そうだ、こんなの興味ある?」
一冊の本を書棚から引っ張り出した。
タイトルは『帝国の宝物庫』
「バルクムーン帝国の宝物庫に収められた魔道具の目録なんだ」
「へえ」
「ここ見てよ」
真ん中あたりのページを開く。
「風使いの杖?」
これによると帝国にはシャフーザという超一流の風使いがいた。
強力な魔法使いというだけでなく、魔道具の制作においても天才的な才能を発揮していた。
数々の発明品の中でも、傑作と言われるのが風使いの杖。
風属性の魔導士の潜在能力を最大限に引き出し、さらに魔力を何倍にも高めることができたという。
挿絵も添えられていた。
樫の木を削りだしたゴツゴツした杖には、バルクムーン帝国の国章とシャフーザのサインが刻まれている。
他にも風の魔法を強化するアイテムがたくさん紹介されていた。
歴史の勉強だけでなく魔法の練習にも役立つかもしれない。
「『風属性の魔道具の歴史』。うん、面白そう!これにする、ありがとうマタン」
祝辞の後、学校長から新入生へ一人ずつ錫杖が贈られる。
錫杖にはそれぞれの生徒への期待を込めた宝石がはめ込まれている。
コーラルは珊瑚、石言葉は「成長」だ。
その後のガイダンスで男の子たちと初めて顔を合わせた
ルッカの兄のイーライ。長身で浅黒い肌をした精悍な少年だ。
イーライとルッカは魔法学校始まって以来の天才兄妹としておおいに期待されているらしい。
そして魔法医師を目指すケリーと考古学が得意なマタン。
男子3人女子4人、計7名のクラスで2年間を過ごすことになった。
魔法学校のスケジュールはハードだ。
午前中は魔法の実践の授業。
生徒はそれぞれの属性に応じて、専門の講師によるマンツーマンの指導を受ける。
午後は全員が教室に集まり座学となる。
魔導士は健康な肉体と明晰な頭脳を兼ね備えるべしという学校の方針により、講義は魔法学だけでなく、文学、歴史、数学、天文学、生物学、薬学と多岐にわたっている。
初授業は、魔法修練校舎で行われた。
「初めまして、コーラル。私が担当教師のダイアンです」
「よろしくお願いいたします」
「事情は女王陛下より伺っています。大変な任務になると思いますが、あなたに与えられた時間はとても短いのです。まずは身を守るための呪文から練習していきましょう」
「あの……私が魔法なんて本当に使えるようになるのでしょうか」
「そうね、不安な気持ちはわかるわ」
ダイアンはにっこり微笑んだ。
「この世界は精霊と自然と生命が一体になり作られているの。精霊と自然の恵を形に変えることができるのが魔導士です」
コーラルに手を前に出すように促す。
「風の魔法とは、大気を我が手足のようにコントロールすること」
「はい」
「雑念を払い、心を研ぎ澄ませて、空気と一体になるようイメージして」
コーラルは素直に従った。
クリムゾンヘブンでは風に身を任せ、流されるまま飛ぶこともあった。
そのときは自分が空気に溶け込んだような感じがした。
その気持ちを思い出す。
「われらが精霊よ、汝の大いなる加護をここに与え賜え」
コーラルの手からちいさな竜巻が生まれた。
それはあっという間に消えてしまったけれど、風の魔法使いへの大きな一歩だった。
戸惑うことも多かった地上生活だが、半年も経つとだいぶ慣れてきた。
今日は講義はないけれど、コーラルは勉強のために学校のカフェテリアに来ていた。
ここは、食事するだけじゃなく、自習したりグループ学習したりと好きに使うことができる。
開放感ある広々した空間で、生徒に人気の施設だ。
カウンターで注文したサンドイッチとカフェラテを受け取りトレイに乗せ、空いている席を探す。
「コーラル」
名前を呼ばれ、声のする方をみると、テラス席に小さく手を挙げるケリーと頭を抱えるイーライがいた。
「相席してもいい?」
「もちろん。君はレポート?」
「ううん、数学。恥ずかしいんだけど、このまえの抜きうちテストが赤点だったから課題出されちゃって」
あははと自虐的に笑ってみせる。
「じゃあ、ちょっと教えようか?」
「いいの?」
「どうせイーライの面倒もみなきゃいけないし、ひとりもふたりも一緒だから」
「ありがとう!助かる」
席に着いて、ノートを広げた。
1年生の座学は、ケリーがすべての教科でトップだ。
課題である関数の解き方を教えてもらう。
いつもながら丁寧で分かりやすい。
一通り説明してもらい、そのあと自力で何問か解いてみる。
ちらっとイーライを見たら、すっかりペンが止まっていた。
テーブルに積み重ねられた本の一冊に医学書があった。
ケリーは光の魔法の使い手で、医者になるのが目標だと言っていたっけ。
「ケリーはどうして医者になろうと思ったの?」
「ありがちな話だよ。子供のころ大怪我したけど、運よく魔法医師に治療してもらえたんだ」
治癒を得意とする光魔法だが、その数はとても少ない。
マケドニアの魔法人口のうち、光属性はほんの2パーセントほどだ。
魔法医師は高度な医学の知識と技術、魔法の治癒の力を組み合わせて、通常の外科手術では手に負えないような症状でも治すことができる。
10年前、幼かったケリーは学校の課外活動中に集団からはぐれてしまった。
迷い込んだ山の中で狼に襲われ深手を負った。
地元の猟師によって発見され病院に運び込まれた時には瀕死の状態だった。
しかし、たまたま巡回診察に来ていた王宮魔導士の医師の治療を受けることができ、一命をとりとめたばかりが、筋肉をえぐるほどの大きな傷も跡がわからないくらいきれいに治してもらった。
「そうだったんだ。立ち入ったこと聞いてごめんね」
「いや、隠しているわけじゃないし構わないよ」
「ケリーはちゃんと目標があってすごいね」
ううん、ケリーだけじゃない、クラスのみんな将来の夢に向かって頑張っている。
「コーラルにも使命があるだろ」
イーライが口を開いた。
(あ、起きていたのか)
ケリーも頷く。
クラスのみんなには宝玉に関して大まかな事情は話してあった。
「イーライは女王陛下直属の魔法戦士になるんだよね」
イーライとルッカの兄妹は軍人の家系だ。
彼らの曾祖父はマケドニア軍の元帥を務めた国の英雄で、父親も近衛隊に所属している。
二人とも幼いころから軍人としての英才教育を受けてきた。
魔法だけでなく、体術や武術、武器の使い方にも精通している。
「この国を守る仕事に就くことに異存はないし、天命だと思っている。ただ……」
「ただ?」
「もっと広い世界を見てみたい」
イーライは天井を見上げた。
「俺はマケドニアから出たことがほとんどない。ほかの国で自分の力がどこまで通用するのか試したい」
「冒険してみたい?」
「ああ。不謹慎な言い方かもしれないけど、コーラルがうらやましく感じる時がある」
「ルッカもそうかな?」
ルッカは女性初の近衛隊入りを目指すといっていた。
「たぶんね」
すべての問題を解き終えた後、ケリーにざっとチェックしてもらい、OKがでた。
「ケリー、ありがとう。ほんとに助かった」
「どういたしまして。そうだ、歴史のレポートは終わった?」
「お見通しだね、まだ手付かずだよ」
「ちょっと待って」
メモをちぎると、レポートに使いやすい歴史書のタイトルを数冊さらさらと書いて渡してくれた。
コーラルはその足で王宮の図書館に向かった。
クリムゾンヘブンの図書館とは広さも蔵書量も桁違いで、ジリアンが見たら喜ぶだろうなと来るたびに思う。
歴史書の書棚に近づくと、予想通り考古学マニアのマタンがいるのが見えた。
ケリーのメモを渡すと、
「これはE列の一番上、こっちはC列の真ん中あたり」
司書のように教えてくれた。
「コーラルはテーマは何にしたの?」
歴史の授業では月に一度、自らテーマを選びレポートを作成することになっている。
「今回もバルクムーン関連にするつもりだけど……」
宝玉を探しに行くまでに少しでも東側の砂漠についての知識を蓄えておきたくて、歴史のレポートは毎回、バルクムーンにかかわる内容にしている。
「ただ、5回目ともなるとさすがにネタきれで……」
「うーん」
しばし考えこむマタン。
「そうだ、こんなの興味ある?」
一冊の本を書棚から引っ張り出した。
タイトルは『帝国の宝物庫』
「バルクムーン帝国の宝物庫に収められた魔道具の目録なんだ」
「へえ」
「ここ見てよ」
真ん中あたりのページを開く。
「風使いの杖?」
これによると帝国にはシャフーザという超一流の風使いがいた。
強力な魔法使いというだけでなく、魔道具の制作においても天才的な才能を発揮していた。
数々の発明品の中でも、傑作と言われるのが風使いの杖。
風属性の魔導士の潜在能力を最大限に引き出し、さらに魔力を何倍にも高めることができたという。
挿絵も添えられていた。
樫の木を削りだしたゴツゴツした杖には、バルクムーン帝国の国章とシャフーザのサインが刻まれている。
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