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第40話 【パラレルワールド~もうひとつの未来】伯爵夫人は殺人事件に巻き込まれる-9-
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人間版Siri、もといアラン・シェパードのおかげで、続編は無事に完成した。
彼を帰した後、私は一人で原稿の推敲していた。
シェパードの文字は奇麗で読みやすい。担当編集者も、私の悪筆より、こっちの方が喜んでくれるだろう。
「アレクシス奥様、休憩なさいませんか」
ゾーイがお茶と焼きたての熱々スコーンを持ってきてくれた。コケモモのジャムが添えてある。
ありがとうとお礼を言いつつ、意見を求める。
「ねえ、ゾーイ、貴女が私に嫌がらせをするとしたら何をする?」
「そうですね……」
ゾーイは頬に手を当てて考え込む。
嘘でも『私に奥様を裏切るようなことはできません!』などと言わないところも好きだ。
「例えば、私の大切な物を隠すとか?」
「それは部屋付きの侍女が盗んだって真っ先に疑われまてしまいますわ」
「それもそうよね」
「アレクシス奥様はあまりものに執着しないタイプですし、気が付かないか、『ないなら別にいいわ』っておっしゃりそうですよね」
「ああ、言いそうだわ」
「主人の夫を誘惑して寝取りたいところですけれど、このお屋敷の旦那様は奥様一筋でほかの女は視界に入りませんし」
「そ、そうかしら?」
ゾーイはベッドメイキングをしているから、朝の寝室の惨状を知っている。
ちょっと、――いやかなり――恥ずかしくなってきた。
「小説の話ですよね?」
「そうよ。平民出身の主人公が貴族社会に馴染めないでいることを強調できるようなエピソードがもう少し欲しいなと思ったのよ」
「うーん」
ゾーイが人差し指で顎をとんとん叩く。私の癖がうつっていて、思わず笑ってしまいそうになる。
「もし、私がヒロインに嫌がらせするなら、平民の無知を突くようにしますわ」
「つまり?」
「貴族の常識をわざと教えずに、外で恥をかくように仕向けます」
「なるほど」
続編では、大衆食堂の配膳係だったヒロインのチェルシーは子爵家当主となったウィルバートと身分差を超えて無事に結婚する。
今度は女主人として使用人を仕切る立場になるのだが、貴族の流れをくむ古参の侍女たちは平民だったチェルシーを到底受け入れることができない。
昼の観劇に出かけるチェルシーの着替えを手伝う時に侍女は、青いドレスに合わせてアクアマリンのイヤリングをつけさせる。
平民上がりのヒロインは宝石には詳しくないため、そのまま外出してしまう。
光る宝石は夜の宝石だ。劇場でチェルシーは貴婦人たちから口々に窘められる。
衆人の前で恥をかいたことよりも、自分が使用人たちから歓迎されていないことを知り、悲しみに暮れる――――。
うん、いいかもしれない。
「明日、シェパードを呼びますか?」
「ううん、ほんの数ページだし、自分で書いてしまうわ」
私はペンをとる。
新たなエピソードを加えたページを差し替えると、従者に出版社に届けさせた。
彼を帰した後、私は一人で原稿の推敲していた。
シェパードの文字は奇麗で読みやすい。担当編集者も、私の悪筆より、こっちの方が喜んでくれるだろう。
「アレクシス奥様、休憩なさいませんか」
ゾーイがお茶と焼きたての熱々スコーンを持ってきてくれた。コケモモのジャムが添えてある。
ありがとうとお礼を言いつつ、意見を求める。
「ねえ、ゾーイ、貴女が私に嫌がらせをするとしたら何をする?」
「そうですね……」
ゾーイは頬に手を当てて考え込む。
嘘でも『私に奥様を裏切るようなことはできません!』などと言わないところも好きだ。
「例えば、私の大切な物を隠すとか?」
「それは部屋付きの侍女が盗んだって真っ先に疑われまてしまいますわ」
「それもそうよね」
「アレクシス奥様はあまりものに執着しないタイプですし、気が付かないか、『ないなら別にいいわ』っておっしゃりそうですよね」
「ああ、言いそうだわ」
「主人の夫を誘惑して寝取りたいところですけれど、このお屋敷の旦那様は奥様一筋でほかの女は視界に入りませんし」
「そ、そうかしら?」
ゾーイはベッドメイキングをしているから、朝の寝室の惨状を知っている。
ちょっと、――いやかなり――恥ずかしくなってきた。
「小説の話ですよね?」
「そうよ。平民出身の主人公が貴族社会に馴染めないでいることを強調できるようなエピソードがもう少し欲しいなと思ったのよ」
「うーん」
ゾーイが人差し指で顎をとんとん叩く。私の癖がうつっていて、思わず笑ってしまいそうになる。
「もし、私がヒロインに嫌がらせするなら、平民の無知を突くようにしますわ」
「つまり?」
「貴族の常識をわざと教えずに、外で恥をかくように仕向けます」
「なるほど」
続編では、大衆食堂の配膳係だったヒロインのチェルシーは子爵家当主となったウィルバートと身分差を超えて無事に結婚する。
今度は女主人として使用人を仕切る立場になるのだが、貴族の流れをくむ古参の侍女たちは平民だったチェルシーを到底受け入れることができない。
昼の観劇に出かけるチェルシーの着替えを手伝う時に侍女は、青いドレスに合わせてアクアマリンのイヤリングをつけさせる。
平民上がりのヒロインは宝石には詳しくないため、そのまま外出してしまう。
光る宝石は夜の宝石だ。劇場でチェルシーは貴婦人たちから口々に窘められる。
衆人の前で恥をかいたことよりも、自分が使用人たちから歓迎されていないことを知り、悲しみに暮れる――――。
うん、いいかもしれない。
「明日、シェパードを呼びますか?」
「ううん、ほんの数ページだし、自分で書いてしまうわ」
私はペンをとる。
新たなエピソードを加えたページを差し替えると、従者に出版社に届けさせた。
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