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第12話 ハンドラーの正体

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「このリストに名前のある誰かの持ち物でしょうか?」
「いえ、ラウル様。ここには名前のない人物です。確実にハンドラーの物でしょう」
「ハンドラーとはなんですか?」
「通常、スパイは自分以外のスパイの存在を知らされません。万が一、スパイであることがバレたとき、ほかの仲間のことを喋ったりしないようにするためです。秘密を守る訓練はされますが、知らなければ喋りようがありませんからね。
そこで必要になるのはスパイたちをコントロールする人物です。それが支配者ハンドラーです。ハンドラーはスパイを統括し、本国からの指示をスパイに伝えるのです」

ラウルがおずおずと手を挙げた。

「ミアさん。その、あなたはどこでそのような知識を身に着けたのでしょうか?本当はただの侍女ではありませんよね?」
「言うな、ラウル。その質問は俺は何度も飲み込んでいる。今はミアのその知識が必要なんだ」

中隊長は続きをと私に促す。

「おそらくリンダは偶然このリストを手に入れてしまった。もしかしたら返せといわれて、見返りを要求したのかもしれません。リンダ殺害の実行役はリストにあった料理人でしょう。後宮の厨房にいたのですから、グレース様の食事の毒見役がリンダであることも知っていました」
「この方法なら、誰もが狙いは第一側妃だと思い込むだろう。本当の目的を悟られることはない」
「ええ」

しかし、とラウルが首をひねる。

「ハンドラーはおそらく、政治の中枢にいるか、身分の高い人物ですよね。後宮の侍女とどう接点があるのでしょうか?」
「直接入手できないのなら、誰かから預かったのかもしれないな。毒見役の交友関係が分かればいいのだが」

ふと侍女ネットワークで聞いたことを思い出した。

「そういえば、彼女には恋人がいたそうです。たしか、名前はトーマス・ハーフナーといいました。外に買い物に出かけたときに偶然知り合って恋仲になったそうなので、てっきり市場で働く青年かと思い込んでいましたが」

ラウルが記憶をたどっている。

「たしか、ネヴィル副議長の秘書がそんな名前でした」

政治家関連のファイルをめくって確認する。

「間違いありません」

上司の物を秘書が手に入れ、自分の恋人に預かってもらった。ストーリーとしてはおかしくない。
また、議会の副議長というポジションもハンドラーには適している。

「よし、その秘書を連れてきてくれ」
「承知しました!」

ラウルが飛び出していった。
しかし、すぐに息を切らせて戻ってきた。

「大変です、秘書は1か月前から出仕していないそうです」

1ヵ月前といえばリンダが毒殺されたころだ。

「心配した同僚が自宅を訪ねたところ、旅行に行くという書置きがあったそうですが、衣類や旅行鞄などは残っていたため不思議に思っていたそうです。まさか、侍女のように殺されたのでしょうか?」

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