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第6話 悪徳令嬢は誘拐を企てる-1-

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■第3章■

ヒロイン:クロエ・バッテンベルク

攻略対象:ウイリアム2世(王太子)




第3章は、我がマルカーノ王国の王太子ウイリアム2世の花嫁選びとなっている。
お妃候補は3名。ヒロインのクロエ・バッテンベルク嬢のほか、シャーロット・ウィンザー嬢、グレース・オンズロー嬢と、いずれも王家に次ぐ家督のご令嬢だ。
クロエをこのお妃レースで優勝させる、恋愛シミュレーション・ゲームとしては王道なストーリーだが、そもそも王太子や貴族の名門御三家のお嬢様方とどうお近づきになったらいいものか見当もつかない。

近衛隊副隊長を務める父の仕事のスケジュールをこっそり盗み見たところ、王宮近くのブリリアント・ガーデンにて、王太子と妃候補の令嬢3人とでお茶会が行われることがわかった。
いいアイデアが浮かばないので、まずは敵情視察を兼ねてお茶会を覗きに行くことにした。
馬に乗っていくので、今日はドレスじゃなく乗馬スタイルだ。

ブリリアント・ガーデンに着くと、少し離れたところに馬をつなぎ、中の様子が見られそうなところがないか周囲をうろついた。
完全に不審者よね、これ。
万が一、護衛官に捕まりでもしたら、キャンベル家の恥、お父様のメンツを潰してしまうことになる。
仕方なく少し距離をとってガーデンの門を見ていると、お茶会が終わったのか、王太子と令嬢たちが出てきた。
そばに停まっていた幌馬車から黒づくめの服の覆面男たちが降りてくると、王太子と令嬢を取り囲み、乱暴に荷台に押し込んでいく。
あっというまの出来事だった。

噓!!まさか誘拐??

私は急いで馬に戻ると、走り去った幌馬車の後を追いかけた。

30分は走っただろうか、さきほどの幌馬車が古城に停まっているのを見つけた。
もう何年も人が住んでいないのだろう、廃墟のようだ。
壁は傷み、庭も荒れ果てている。草木は伸び放題、家具や小物がたくさん打ち捨てられていた。
ゴミの山の中に、ほどよい長さの火かき棒を見つけた。
こんなものでも武器代わりになるかもしれない。

一番近くの木戸をそっと開け、城の中に入る。
薄暗い通路を進み、足音を忍ばせて階段を上ると、ざわざわと男たちが会話をする声が聞こえた。
攫いに来たやつらだけでなく、ほかにも何人も仲間がいるようだ。
やっぱり先に保安官に知らせればよかったか。
戻ろう、踵を返した途端、覆面の男と出くわした。
反射的に火かき棒を振り下ろす。
覆面男は軽く剣でいなした。
強い。
私はすばやく後退し、また火かき棒を構えた。

「待ってください」

男は剣を下ろす。
聞き覚えのある声。

「まさか、オーウェン様?」
「アレクシス、なぜ、あなたがここに」
「そんなことはどうでもいいですわ!あなたが誘拐犯だなんて、どういうこと?説明してくださいませ」

オーウェンは、はぁとため息をついた。

「本来、部外者へ話すことはできませんが、仕方ありませんね」

口は堅いから心配しないで欲しい。

「これは王太子妃を選ぶ試験なのです」
「え?」
「ご存じとは思いますが、我が国と隣国ゲツィス共和国との関係は悪化の一途をたどっていて、国境付近では一触即発の事態となっています。今後、戦争になることも十分あり得ます。
こんな不安定な情勢では、ただ美しいだけの女性では王太子妃は務まりません。将来、王妃となられる方には、賢さ、勇敢さ、そしてなにより王家と国民への忠誠心を持っていることが求められるのです」

古城の別々の部屋に令嬢3人を監禁している。
自力で危機を乗り越えようとする強さがあるか、機転が利くかを試されるのだ。

「そういう事情ですので、誘拐犯はすべて近衛隊の隊員です。令嬢たちや王太子が傷つけられることはありません。安心して、今日のところはおかえりください」

クロエの味方をしたいところだけど、この状況では何もできない。むしろ、下手に手を貸したりしたら、試験に失格してしまうかもしれない。

「そうね」

私は素直に引き下がった。

「試験ってスリリングな脱出ゲームみたいでおもしろそうね。やってみたかったわ。私も王太子妃候補に選ばれていたら参加できたのに」
「あなたなら自力でなんとかしてしまうでしょうね」

オーウェンが可笑しそうに笑う。
が、急に真顔になると、私を壁に押し付けた。

「たとえ殿下が相手でも、僕は他の男にあなたを渡す気はありませんよ」

そしてまた、強引にキスをしてくる。
ただ馬車の時のように甘く丁寧な口づけではなく、荒々しいキスだった。
私の唇をこじ開けて、舌を絡ませてくる。

「んんっ……」

思わず吐息が漏れる。
私は抗うこともなく、彼のされるがままになっていた。


にわかに上の階が騒がしくなった。

「どうした?」
「殿下が行方不明です!」
「なんだと」

オーウェンは階段を駆け上がる。
私も彼についていく。

妃候補たちをそれぞれ監禁した後、王太子は別室に通された。
さきほどお茶を運ぼうと隊員がドアを開けたところ、部屋には誰もいなかった。
王太子も今日の試験の重要性は理解しているから、勝手に外出などするわけがない。
そもそも、王太子がいた部屋の前には隊員たちが控えていて、誰にも気づかれずに部屋を出るのは不可能だ。

昔は書斎として使われていたのだろうか、壁にしつらえられた本棚にはまだたくさんの本が残っている。他には、今日のために運び込まれたらしいソファとテーブルがあった。
カーペットの上には国章の入ったボタンが落ちていた。
踏まれでもしたのか、形がゆがんでいる。
まさか、本当に誘拐されたのでは。
でも、どうやって連れ出したのか。
ドアからは出られないし、唯一の窓は明り取りのためで、大人が通れる大きさではない。


「ここの城を試験に使おうと提案されたのはどなたですか?」

隊員たちに尋ねる。

「若手の隊員でジョセフ・クラークです」
「書斎を殿下のお部屋にしようと決めたのもその方ですか?」
「はい、その通りです。客間のほうがいいのではないかという意見もあったのですが、どうしても書斎にするべきだと」
「わかりましたわ」

誘拐犯はそいつだ。

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