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第27話 人の恋路を邪魔するバカは馬に蹴られるくらいじゃ生ぬるい

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3日目の朝、サリッドは目覚めた。顔色もいい。
身体を起こして座らせ、彼の頬やおでこに触れる。よかった、平熱に戻っている。

「もう、あんな無茶はやめてよ」
「絶対に大丈夫だと思ったんだ。だって俺には女神の化身がついているからね」

サリッドは私の髪をひとふさ指に絡め、口づけをした。

「そうよ。私がそばにいる限り、何があったって必ずあなたを助けるわ」

思わず涙がこぼれた。
胸がいっぱいになり、私はたまらずサリッドに抱きつく。

「でも、あんまり心配かけないで。本当に心臓が止まるかと思ったのよ」
「レイシー、悪かった」

彼の長い指が私の涙を拭う。
私は彼の目を覗き込んだ。
サリッドが顔を近づけてきた。
唇まであとほんの数センチ。

「サリッド殿、本当に申し訳ない。余が悪かった!!」

バカ王子がジャンピング土下座を始めた。

空気読めよ、このバカ!!
今すぐレイピアで切り刻んで魔獣の餌にしてやりたい。魔獣が食中毒起こしても知らんけど。

「殿下、頭を上げてください」

サリッドは私の身体を離すと、バカ王子のところに行ってしまった。
あるじである国王陛下のご友人を守るのは騎士として当然の務めです。殿下がご無事でなによりです」
「許してくれるのか……」

あーもう、千載一遇のチャンスだったのに。
仕方なく、私は朝食の準備を始めた。
久しく食べていないサリッドのために、胃に優しいものにしようかな。



サリッドの回復を待って、再度、純化石の鉱脈にチャレンジすることにした。
バカ王子は留守番させることにしたが、さすがに文句は言わなかった。

3時間後、洞窟に戻ると、バカ王子がふくれっ面で待っていた。

「遅いぞ!! いったい何をやっていたんだ!」
「申し訳ありません、殿下」
「石を採るだけだから1時間もかからないで終わるといったじゃないか!」

黙れ、このバカ。

「崖の上の方にクリフレインディアがいたから、ついでに角を集めてきたのよ」

大きな麻の袋をドサッと置く。

「角とはなんだ?」
「この角を砕いて煎じて飲むと、砂漠の風土病の治療薬になるの。大人なら罹っても大したことないんだけど、お年寄りや子供は重症化しやすいから、毎年、何人もの人が亡くなっているのよ」

角は一年に一度、この時期に一斉に抜け替わるので大量に落ちているのだが、クリフレインディアは急斜面を好んで生息しているため、一般人がほいほいと気軽にとりに行けるものでもない。

「ほんの少量でも効果絶大だから、角1本で軽く50人分は作れるわ。次に寄るのは結構大きい街だから、薬店に売るつもりよ」
「……そなたたちはいつも他人のために動いているのだな」

王子は不思議そうな顔をしていた。

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