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第1章
1.目標と、新しい仲間。
しおりを挟むその日限りのパーティーとのクエストを終えて、俺は帰路についていた。
道中で考えるのは、やはりあの魔族から受けた呪いのこと。おそらくはステータスを反転させる、というものだと思われた。本来なら強い冒険者が弱体化され、魔族の餌食になる、というのが既定路線だったのだろう。
「でも、俺は違ったのか。弱いから、逆に強くなった」
そのことから、俺が導き出した結論はそれだった。
俺は世界有数の弱小冒険者。だから反転の呪いを喰らったことで、ステータスは弱体化ではなく、大幅に強化された。
それこそ、世界有数の強豪冒険者、として。
幸運だったのは、あの魔族の呪いが今でも継続していること。
おそらくは永続するタイプのものだったのだ。
「でも、こんな力を手に入れても……これから、どうすれば?」
そこまで考えて、俺は現実に立ち返る。
そうだった。俺は冒険者として、なにを為せばいいのか。
目標が不確定だった。それでも、当面の目標らしきものはあった。それは――。
「とりあえず、ずっと憧れてきた冒険者としての生活を目指そう。誰かから必要とされて、仲間を守れる、そんな冒険者に!」
俺は胸ポケットから、冒険者カードを取り出す。
そこに書かれていたのは冒険者の誓い。その中でも俺の胸の中に強く刻まれているのは、冒険者たるもの全ての人から尊敬される者であれ、の一文。
今までは、それ以前の問題だった。
尊敬される以前に、みんなの足を引っ張ってばかりで、なにもできなかった。
「よし、それじゃ――」
明日から、頑張ろう!
そう心に誓って、俺は家へと向かって駆け出した。
◆◇◆
――翌日。
俺はいつものように、冒険者ギルドへと顔をだした。
そして、新しいクエストを受けようと思って、掲示板の方へと向かった時。いつもとは違う光景が広がっていることに気付いた。
「……ん。なにか、揉め事か?」
人だかりが出来ていた。
その中心では、なにやら男の声と少女の声がする。
耳を澄ませばどうやら、仲間割れをしている様子だった。
「アンタの余計な攻撃で、アタシの出番がなくなったでしょうが!」
「うるせぇ! てめぇはスタンドプレイすぎるんだよ!」
「アンタたちがノロマだからでしょう!?」
「んだと、やんのかミレイナ!!」
聞こえてきたのはそんなやり取り。
どうやら、パーティーの中での連携について揉めているらしい。しかし、ミレイナという名前は、どこかで聞いたような覚えがあるのだが……。
そう考えていると、相手の男がこう言い放った。
「ミレイナ、お前は今この時をもって追放だ!」――と。
それに、周囲の野次馬たちはどよめいた。
そこに至って俺は思い出す。ミレイナという名の少女のことを。
ミレイナ・イングリッド――この街アーシアの中で、最も腕が立つと言われていた少女冒険者だ。その剣の腕は王都の騎士団からスカウトされるほど。
とにもかくにも、今までの俺とは住む世界の違う人物だった。
「はん、こっちから出ていってやるわよ! こんなパーティー!!」
そんな彼女はいま、この時をもってパーティーを追放されたのだ。
そして、この場を立ち去ろうとする。人だかりは綺麗に分かれて、俺とミレイナは一直線に向き合う形となった。そこでようやく俺はミレイナの容姿を確認する。
「え、思ったより……?」
そこにいたのは、自分と大差ない年齢の女の子。
外見から考えるに、年齢は十七から八、といったところだろうか。赤い髪を腰まで伸ばし、身に着けている鎧は急所だけを守る軽装なもの。
顔立ちは整っており、しかしながら鋭い蒼の眼差しには気圧されてしまう。
彼女は俺を認めるとスッと目を細めた。
「アンタ、そこどいてくれる?」
そして、まるでゴミを見るような目でそう言った。
俺は少しだけムッとして、その場に立ち続ける。そんな時だった。
「なんだ、誰かと思えば役立たず治癒師のキーンじゃねぇか」
奥から、そんな声が聞こえてきたのは。
それを聞いて、俺とミレイナは目を向けた。声の主は先ほどまでミレイナと言い合っていた中年の冒険者だ。彼は俺と少女を交互に見て、ニヤリと笑った。
「ほほう、こりゃ面白い。最強と最弱が揃うとはな」
そんなことを口にする冒険者。
なにが言いたいのだろうか。俺は首を傾げた。
すると、彼の口からは思わぬ言葉が飛び出すのだった。
「ミレイナ、お前――そのキーンとパーティーを組めば良いんじゃねぇか?」
「はぁ……!?」
「え!?」
声を揃える俺とミレイナ。
それに対して、冒険者はニヤリと笑って言う。
「スタンドプレイがしたい最強と、誰かの助けが必要な最弱。お似合いじゃねぇか! なぁ、キーンにとってもミレイナにとっても、悪くない話だと思うが?」
それは、新しいパーティーメンバーを募集している俺には嬉しい話だった。最弱認定には慣れているので、そこについては触れない方向で。
しかし、ミレイナの方はどうなのだろうか。
俺はちらりと少女の顔を見る。すると、彼女はニッと笑って――。
「いいじゃない、面白いわ! キーン……、だっけ。それでいい?」
そう言った。
そして、真っすぐに手を差し出してくる。
あとは俺がこの手を取るかどうか、それで決まるようだった。
「…………」
だとすれば、答えは決まっていた。
俺は一つ頷いてから、ミレイナの手を取りこう答える。
「俺なんかでよければ。よろしく、ミレイナ」
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