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アル村編
プロローグ どうして俺が
しおりを挟む『ひいぃぃっ!? 逃げろ、逃げろォ!! ――殺される!?』
『くそっ! どうして、いつもこうなるんだ!!』
――悲鳴。
女や子供は逃げ惑い、男たちは応戦する。
しかし、それすら叶わない。力なき俺たちの【種族】はただ蹂躙されるのみ。燃え盛る森の中から逃げ出そうと、必死になって走る――もとい、ともかく移動するだけだ。逃げて逃げて、ただただ逃げて、そうしていつかはアイツらの【経験値】になるのではないか、という恐怖に怯えている。
――轟音。
今までの平和な暮らしには似つかわしくないモノ。
あぁ、そうだ。前だってそうだった。アイツらはどこに隠れていようとも俺たちを見つけ出して、その命を刈り取る。今回だってそうだ。俺たちはただ平和な暮らしがしたかっただけなのに、少し害があるから、ほんの少し邪魔だから、そんな理由で命を奪われるのだ。
だけど、今回だって逃げ切ってみせる。
そう、思っていたのだけど――
『ちょっと待ってくれよ! なんで俺だけ置いてかれなきゃならないんだよ!?』
『誰かが犠牲にならねばならん! 貴様は我らの中でも最も力が弱い! 仮についてきたとしても、足手まといにしかならん!』
――なんという、ことか。
俺の村の族長はそう言って、俺のことを切り捨てようとした。
いいや、族長だけではない。それ以外の、仲間だと思っていた奴らだって、それを肯定するような視線をこちらに投げつけてきていた。それこそ『今まで足を引っ張ってきた分、最後くらい役に立て』と言わんばかりに。彼らは俺と目が合うとそれを逸らしたが、なおのこと、思っていることは伝わってきた。
たしかに、だ。
たしかに俺は、この【種族】の中でさえ弱い。
【魔力】が足りないせいで、【能力】だってまともに使うことが出来ない。何をやっても中途半端だったし、みんなに迷惑をかけてきたとも思ってる。――だけども、こんな最期ってあんまりだろう?
信じていた。
それでも好きだった仲間に見捨てられて、死んでいくなんて……。
『おい! いい加減にしろよ! 行くなら、早く足止めに行ってくれ!』
そう思って震えている俺に、仲間だと思っていた誰かが叫んだ。
すると咳を切ったように『早く行け!』の大合唱。子連れの親も、友達だと思っていた奴らも、みんなが『お前は役立たずだ』、『邪魔だから消えろ』という烙印を押し付けてきた。それはなんて残酷で、なんと無慈悲なことだろう。
だけども、せめて――
『それが、俺に出来ることなら……』
――せめて最期にくらい、誰かの役に立てるなら。
そう、思ってしまった。こんな仕打ちを受けながらも、俺はどこかで仲間の役に立ちたいと、そう願ってしまった。俺の命がみんなの役に立てるなら、どんなにいいことだろうか、と。
だから、俺は仲間――だった奴らに背を向けた。
これは決別の時。俺にとって一世一代の大勝負へと赴く、その瞬間だった。
『来るぞ! 逃げろーっ!』
そして、その時誰かがそう叫んだ。
すると悲鳴を上げながら、背後の気配が散っていく。
取り残されるのは、俺だけだった。どうやらみんな、無事に逃げられたようだった。それは良かったと、そう思う反面、どこか物悲しくも感じられる。それと同時に、怒りさえ湧いてきた。
そう。俺を取り巻くすべての環境に――
「――何だよ。残ってんの一匹だけじゃねぇか」
「これでは、ろくな【経験値】にならない……」
すると、その時――終わりがやってきた。
アイツら――勇者たちだ。
「しかし、塵も積もれば山となる――とも言いますぞ?」
「そうだよ! 千里の道も、一歩から――だよっ!」
勇者たち一行は、総勢四名。
口々に何かを言いながら、俺のことを取り囲んだ。
俺はぐるりと、そいつらの顔を見ていく。これから俺が戦う相手の顔を。そして、これから俺のことを――
「そんじゃ、一応倒しておきますか。ほんの足しにくらいはなるだろうし」
――殺す、相手の顔だ。
リーダー格――すなわち勇者であろう男が、高々と剣を振りかぶる。
俺はそれから目を逸らさずに、自身の内にある魔力を総動員して抵抗した。
【分裂】――しかし、【魔力】が足りない。【失敗】した!
だが、それもかなわず――勇者の一撃が俺を捉える!
『うあっ……!?』
痛みなんて、なかった。
それくらい一瞬の出来事だった。
俺の一世一代の戦いは、あっけなく、幕を閉じるのであった。
「――うわ。【経験値】1しか入ってねぇ! 本当に、塵だよ塵!」
「ザコ、だった……」
そう言って騒ぐ、勇者たちの声が聞こえる。
意味は分からない。俺には【人間】の言葉なんてよく理解できない。
それでも、馬鹿にされているのは分かった。俺のことなんて、その辺の石ころと変わらないと思っていることも。何の障害とも思っていなかった、ということも……。
『くそぉ……っ!』
最後に、そんな声が出た。
いくらなんでも、こんな終わり方あんまりじゃないか、と。
そんな風に、己の運命を呪った。そして、出来ることならばと願う。
もし――もう一度。
せめてもう一度だけ、生を受けることが出来たなら。
もう、こんな目に遭わないほどの力を。それこそ、勇者にも負けない力を、と。
そして、そう願ったところで――
『――――――』
俺は【この種族】としての生涯を、静かに終えた――
◆◇◆
――そうして。
どれくらいの、時間を眠っていただろうか。
数秒か、数分か、はたまた数年か――
「ん……っ?」
――眠りから覚めた時。
目の前にあったのは、予想だにしない景色だった。
大きく広がった空間――城の中、であろうか。レンガ造りの壁に、朱い絨毯の敷かれた床。奥には大きな、【人間】でも数人が同時に通れそうなほど、大きな扉。天井には、豪華絢爛なシャンデリア。それでも外からの光が差し込まず、やや薄暗いのは、この城の主の趣向かもしれなかった。
そして、何よりも違和感があったのは――
「手……? 足も?」
――四肢が、あることだった。
手足がある。自由に動かすことが出来る。
今までに感じたことのない感覚に、一瞬戸惑うが、どうにか立ち上がった。そして、自分の座っていたモノを見た時に、俺は驚きこう言葉を漏らす。
「玉、座……?」
そう。それは――王が腰かけるであろう、荘厳な玉座であった。
「な、何だっていうんだ……!?」
意味が分からない。
俺の頭の中は、酷く混乱して、考えが何もまとまらなくなっていた。
だけど、それだけでは終わらなかった。そんな俺に、声をかける者があったから。俺の思考はそこで一度、寸断された。
「お目覚めになられましたか――?」
俺は声のした方を振り返る。
中性的な声を発したその者は、漆黒のフードを被っていた。背丈は『今の』俺よりは低い。ふわりとした存在感はどこか希薄で、吹けば今にも消えてしまいそうな、そんな雰囲気だった。俺はあまりの出来事の連続に、返答することは出来ない。
しかし、その者の言葉は――俺にある答えをもたらした。
そう。それは――
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――俺の運命を変える、大事件。
最弱の【スライム】だった生涯の終わり。
そして、【魔王】としての生涯の始まりを告げるモノだった――。
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