いつになったら、魔王討伐いくんですか勇者様? ~お目付け役賢者の日記~

あざね

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14.記憶と感情

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 ――これは、アルの記憶の断片。


 炎があった。熱量があった。人が焼け死ぬ臭いがした。
 齢十余歳であったアルは、泣き叫びながら父と母の後を追う。父は迫りくる火の渦を氷魔法で鎮めながら、そして母は治癒魔法で我が子の身体を守りながら。メイドたちを盾にすることもあった。生まれの貧しい者から順番に、反逆者たちの凶刃に倒れていく。血飛沫が舞い踊り、烈火によって蒸発していった。

 屋敷の中は地獄絵図。
 轟々となる火炎の中において、生存本能が剥き出しになっていた。
 それでも、力関係はなおも揺るがず。昨日まで笑って話し合っていた人々が、我先にと格下の者たちを蹴落としていった。まだ若い――騎士団に入隊する前のアルの目には、いかように映ったであろうか。この世は結局、弱肉強食であると見るか。それとも――。

『――リンクレット・マチス、覚悟!!』
『お父様!?』

 アルフレッドの父――リンクレットへ、反逆者がなまくらを片手に飛びかかる。
 それにいち早く気付いたアルは、声を上げた。

『くっ!? 倒しても倒しても、虫のように湧いてくるな!』

 リンクレットは息子の示した方向へと、瞬時に光弾を放つ。
 それは、魔力を単純に射出するモノであった。だが当時、最高の魔法使いと呼ばれていたリンクレットの一撃は、並の威力ではない。狙い過たず反逆者の頭部を捉えたそれは、その者の首から上を乱暴に弾き飛ばした。

 反逆者はただの骸となり、倒れ伏す。
 アルの母――マリアは、我が子の目を覆ったがそれも遅い。
 少年はすでに、いくつもの生命が絶たれるのを見てきた。今さらその男の死を目の当たりにしたところで、動揺などなかった。いいや。あるいはすでに、麻痺してしまっていたのか。アルは光なき瞳をして、逃げていたのであった。

 だが、その地獄も間もなく終わる。
 外へと繋がる道が見えてきた。そして、そこへ向かって一直線に――。

『な、お前は!?』

 ――駆け抜けようと、そうした時であった。
 いよいよアル、リンクレット、そしてマリアの三人の前にある男が現れたのは。

『…………………………』

 その男は、黙して何も語らない。ただただそこに立っていた。
 黒の外套を羽織り、鋭い青の眼差しを向けてくる。リンクレットは、その者を見て小さくこう呟いた。

『……リンド・ヴァンデンハーク』――と。

 男――リンドは、その声にピクリと眉を動かす。
 どうやら二人は顔見知りらしい。しかし、アルにはそのようなことどうでもいい。ただこの時、この耐え難い時間が終わってくれれば、と。それだけを考えていた。


 だが、思いもしなかった。
 その結末はあまりにも残酷であり、凄惨であったことを。
 反逆者の頭、リンド・ヴァンデンハークの手によって、両親の生命が――。


◆◇◆


「――――ッ!?」

 アルは目を覚ます。
 紛うことなき悪夢を見ていた。全身に嫌な汗をかいている。
 ここしばらくは見ることのなかった夢。それは、目の前で両親が殺される夢。

 ――戦争が、あった。
 その最中において、アルは両親を失った。
 住んでいた屋敷は焼かれ、その後コルドーに引き取られたのである。もっとも、引き取られたと言っても親子のような関係ではなく、それこそ上司と部下のようなそれであったが。剣術などの指南も受けたところから、師匠と弟子、と言ってもいいかもしれない。

「ここは、孤児院か……?」

 だが、今はそんなことどうでもいい。
 アルは自分の所在を確認した。どうやら、ここは孤児院の一室らしい。
 こじんまりとした、一応は来客用のそれなのだろうその部屋のベッドに、アルは身を横たえていた。窓から見える外はすでに日も落ちて、暗くなっている。

 情けないことであるが、気を失ってしまっていたらしい。
 アルはそのように考え至って、深くため息をつくのであった。よもや自分が、穢れた血の者の助けを受けなければならなくなるとは。そう、若干ではあるが恥じ入る。しかし、助け自体には感謝をしなければならなかった。

 そうとなれば、探さなければならない二人がいる。
 そうだ、その二人とはハヤトと、それに――。

「――――――――ッ!!」



 ――『アナ・ヴァンデンハーク』――。



 そうだ。自分の両親を殺害した男――その、娘であった。
 全身が震えてくる。喉が、握りしめられた拳が、息さえも震えてきた。
 この感情はなにか。どす黒く、しかしその反面に恐怖を抱いている感情とは。それを押し込めるようにして、アルは身を縮めた。
 決して、外へ溢れ出さないように、と。
 このような醜い感情をあの少女に向けるのは、間違っている、と。


 頭では理解できている。
 それならば、堪えることが出来るはず。



 アルの長い夜は、まるで終わりのないように――まだ続くのであった。


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