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 レーシェと出逢ってから、休日や仕事前、帰りが遅くならなかった日はレーシェの処に遊びに行っている。

 勉強だけでなく施設で仕入れた最近の近隣の情勢、それらをまとめ分析する。 1人では進まないけど、2人でならかなり捗った。

 私が作った料理も食べれる様になり、心が安定してきたら身体に馴染むのも早かった。

 やっぱり美味しいものを食べて自分の本音を聞いてくれる人が居たらそれだけで救われるよね。

 歩行訓練や、剣術の稽古なども少しづつしていく。国に戻った時に苦労しないように。

 でも、雨が降っても廊下は濡れないし、侵入者も今まで聞いたことがない。そう思いレーシェに尋ねれば、古い魔法が掛けられているから、使用人は必要ないのだと言われた。
 リリムがいる屋敷はわからないが、こちらは許可を得たしか外部から入れない、持ち込めないのだとか。だからこそ、何故、リリムが入り込む事が出来たのか謎である。

 

 レーシェと遭って半年が経った。その間も色んな場所を訪れ情報を集めるも一向に有力な物に辿り着かない。
 宝石を盗んだとされる使者の行方も未だに分かっていない。あの宝石の取引現場にいたのは別の人間(※)だったのでそこは間違い無いだろう。

※  レーシェから特徴聞いて照らし合わせてみた。


 16になるまでに国に帰らなければいけない。少し焦りも出てくるが、取り敢えず、宝石だけでも返してはどうかと提案する。

 答えは否。あの宝石は、細工のしてある桐の箱に入っていてこそ価値のある物なんだとか。
 面倒な物を作ってくれた。ため息しか出ない。

 そんな折、施設側から出張依頼が来た。何処かのお屋敷で舞って欲しいとの事。ただし、施設の人間が入れないので、自身で信頼できる者をつけて欲しいと言われた。無理であるのなら、断っても構わない、強制ではないと言われ、その客の事について調べることにした。
 1人では限界があるので、王都の影の執事さんを頼って。
 
 そしたら面白い事に、呼んでくれた方、桐の箱を持っているではありませんか。
 偽物かもしれないけど確かめる必要性がある。それに、宝石を盗んだ使者と関わりのある者も来ると聞けば、レーシェの代わりに問い質そうと誓った。
 もう一つ下らない事に、何故かアーバインの第二王子と、側近2人が居るんだって。
 表向きは、探し物に協力するにあたっての情報交換の場。
 裏を返せば、良い機会だから此処で3人を始末しようの会。

 ・・・・・なんか、面倒な事になりそう。まあ、私の顔知られてないから大丈夫かな。

 執事さんに誰か付き添いをとお願いすると、自分が行きますと行ってくれた。気配消す必要の無い人って羨ましい。
 日時を報告して、先に私だけ屋敷に入る様に言われた。

 後から侵入します。

 ある意味最強ですね。
 扇はリヴァル様からの贈り物で、予備で鉄扇(全てが鉄で出来ているので重い)を身に付けておく様に言われ、屋敷に入る前に飲んでおいてくださいと、薬も渡された。薬物に対する薬なんだとか。
 衣裳も必ず肌の露出のない物をと念を押され、では当日に、と別れた。

 施設の方に仕事を受ける事を伝え、では、と今回の主催者と面会する。はっきり言って、胡散臭い人物である。
 私の姿を見て気持ちの悪い表情をするし、どこまでサービスしてくれるのかなんて聞いてくる。
 舞を披露して、晩酌のお手伝いを少しだけなら、という契約で書類を作り施設に預ける。勿論金庫に。すり替えできないように対策もして。


 レーシェには仕事で何日か来れないことを伝え、呼ばれた屋敷に向かった。
 

 



※※※※※

 第二王子視点

 陛下から婚約者が決まったと聞いた時、帝国のお姫様とはどれだけ我儘なのかと興味が湧いた。
 自国の令嬢でさえ気に入らない者に対してえげつない事をしているのだから、大国の皇女ともなればもっと酷いだろうと思った。

 その考えは、初めての顔合わせで吹き飛んだ。
 努力家で自分に厳しく周囲の者には優しい皇女。繕っている訳ではないその人柄が一瞬で気に入った。
 しかし何故か彼女を見た瞬間、夫婦を思い浮かべることは出来ず、信頼できる友人になれると頭に浮かんだ。

 それが本能だった事は、婚約の解消を告げる手紙を受け取ってから分かった。

 彼女からは、申し訳ないと綴られた手紙をもらい、陛下には皇帝から、解消に至る事情が書かれていた。
 特に落ち込むでもなく、陛下の話を聞いてもう一度に逢いたいと伝えるも、体調を崩している。
 贈った宝石を受け取りに行くから様子を聞いて来させようと、向かわせた使者が裏切って宝石を盗むなど考えもつかなかった。

 それから、伝や、情報屋、商人を使い、行方を探すも見つからず、国内でも貴族の反発が出てき始めたので、信頼できる者にも頼る事にした。

 

 ある時、ルーデンで宝石の取り引きが行われるとの情報を得て、内密に陛下に連絡を入れ、兄上の側近である公爵家嫡男と、私の側近の1人を連れてルーデンに向かった。



 まさか、嵌められているとは知らずに。

 
 
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