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 何の準備もしていない中、ペレ爺と奥さんを迎える事になった。

 だけど、バーナードさんは落ち着いて対処していたし、お祖父様なんてどんな嫌味を言ってやろうかなんて言っていた。どうやら日常茶飯事の事らしい。

 淑女教育を終えてるのを見てもらおうと、お祖父様が用意してくれたドレスを着てお出迎え。カーテシーもばっちり決めて言葉遣いも改めた。

 ペレ爺には女の子の成長は早いな、と言われ、奥さんには、完璧ですよと褒められた。

 お礼を言い、小さいけどサロンに案内する。
 知り合いしかいないから口調もいつも通りで構わないと言われ、普段通りに話し掛けた。

 ペレ爺の奥さんは病気で目が見えにくくなっているそうで、物を渡す際には細かく説明すると、気を遣わせてごめんなさいね、と謝られた。
 問題無い旨を伝え、昼食を食べ、久しぶりに手合わせをお願いした。

 誰かが家の周りで中の様子を探っている。
 庭師と料理長、お祖父様の執事さんは念の為本邸に避難してもらう。奥さんは1人にしておけないのと、ペレ爺が離れたがらず、相手をして貰うから見ていて欲しいと、近くに居るように手配した。

 動きやすい服に着替え、ペレ爺に稽古を付けてもらう。動きでは優っていても、相手の動きを読む速さ向こうが上。良い訓練になる。

 途中ペレ爺が筋肉痛が~、と奥さんの所に戻ったので休憩。
 その間に普段使う短剣2本を用意する。ルーネストも準備万端。

 全員が身構えれる中、本邸から来たのは、王族を護る近衛騎士の集団だった。

「父上!」

 ひとりが叫んだのを合図に、私に向かって矢が飛んでくる。
 軽く身体をひねり矢を受け止め放り投げる。

「無理なさらないでくださいよ。お嬢様」

「全く問題ない。準備運動もバッチリ」

 お祖父様から、宝石の入った桐の箱を投げ渡され、無くすなよと言われる。
 胸元に入れ込み了解です。と言うが早いか、襲ってくる者を土に沈めていく。
 流石にペレ爺の奥さんが居るので、血生臭いのは避けたい。

 私とルーネストでほぼ全員仕留め、残りの者をどうしようか迷っていると、お祖父様が頷いてくれた。

 短剣の1つを近衛の者に投げつける、すかさずルーネストが周りをすり抜け、引っ張り出し締め上げる。見事な連携プレイ。
 もう1人はいつの間にか居なくなっていたが、バーナードさんが見当たらないので問題ないだろう。

 誰が来たのか分からず、お祖父様を見ると手招きされた。

 後ろから焦った様な声で、(多分ペレ爺の事だろう)呼ぶ声が聞こえた。

「父上!これは一体どういう事ですか」

「何を言っておる、お前が来ると言うから先に来て敵を全部引き受けてやったんだろうが。リリムに感謝せんか」

 のほほーんとペレ爺は言うが、護られている人は兜を取った。力の抜けた声で、

「少女に護られて何を言っているんですか?」

 でもペレ爺いい歳だよ?

 場に似合わない雰囲気が漂っていた。それを打破したのはお祖父様。取り敢えずお茶にしようか。

 お祖父様から離れた、ルーネストと共にお茶の準備に取り掛かりに行ったその時、火球が私目掛けて飛んできた。
 急に現れた火の玉に対処出来ず、取り敢えずルーネストだけでも、と彼を突き飛ばす。

 火にのまれる、と顔の前で腕を重ねる。
 
 ・・・・・衝撃もなく熱くもない。

 恐る恐る腕をおろし、自分の身体を確認する。
 火球は綺麗に消え去っており、静寂だけが辺りをおおった。

 右腕から何かが外れる感覚がして見てみると、リヴァル様から貰ったブレスレットが砕け落ちていた。

 頭が真っ白になり、瞬間走り出していたのをルーネストが止めに入る。

「ルー離せ、アイツ許さない!」

「落ち着けお嬢。父が処分した。それに護りの魔法が掛かっていたんだろう?使えば壊れるのは当たり前だ」

「当たり前って、初めてだったんだよ?初めて誕生日にプレゼントを貰ったんだよ?なのに何で壊されなくちゃいけないの!」

 ポロポロ涙を溢しながらルーネストに抗議する。

 せっかく、せっかく・・・・

「リリム、はプレゼントに貰ったものがもう一つあったじゃろ?
 今晩はそれを抱いて寝るといい。そうすれば贈ってくれた相手の夢に入り込むことが出来る。そこで事情を説明しなさい。
 無くなってしまった物は作り出す事は出来ない。ましてやは、魔法で作られた物。わしらではどうしようもない。わかるね?」

 お祖父様に説明され、ルーネストにもそういう事だ、と言われる。
 それでもまだ納得できていない私にお祖父様は言った。

「リリム、お前の身体に傷一つでも付いてみろ、こんな国簡単に消し去られるわ。
 でも、それではリリムが悲しむかもしれない、だからリリムにブレスレットを贈って、身体を護る魔法を掛けてくれたんじゃ。
 相当愛されとるなリリム」

 お祖父様の話を聞いてルーネストを振り返る。頷かれたのでお祖父様の言っている事は合っているのだろう。
 渋々納得してルーネストに拘束を解いてもらう。
 そのまま山に向かおうとしたら止められた。

「宝石の入った箱は置いて行け。それが無ければ好きにできるじゃろ?」

「夕食の食材調達してきます」

 今はこの場に居たくなかったので、鬱憤を晴らすのに山に入った。暫く出なくても良いか、と軽い気持ちで。


「父上これは一体」

「お前も間が悪いな。選りに選ってあの子を怒らせるなんて」

「はぁ?父上が勝手にいなくなるのがいけないのでしょう?それにあの少女は誰なんです?公爵家にもう1人女児が居るなんて聞いていません」

「あ奴らが言わんかったからな、知らんのも当たり前じゃろ?」

「では、あの少女は・・・・」

「ああ、公爵家の5番目の子で16のデビュタントを終えれば平民に落ちる。これは公爵の意向だ。そして帝国の皇族の意向でもある。
 無闇矢鱈と帝国を刺激するな、帝国のしかも魔法を使える者に愛されているんだ、公爵の肩書きなんぞ要らんだろう」

「では、」

「ああ、デビュタントに合わせて帝国から使者でも来るだろう。何度も言うが、刺激するなよ」

「父上と同じにされるのは心外です。では、デビュタントのパートナーは誰が務めるのですか?」

「此奴」「はい」

「前公爵で問題ないのですね。はぁ、分かりました。
 公表はしません。それで良いですね?」

「ああ、構わん。でだ、確認するだろ?宝石と箱」

「・・・、そうですね」

「晩飯も食っていくだろう?リリムが食材一杯獲ってくるから」

「・・・そうですね」

「まあ、お前ら2人で頑張れ。嫁さん2人は向こうでお茶でもしていなさい」

「前公爵お前も寄らんか」

「確認済みだから寄らん。帝国の人間にも確認済みだ。贈られた、レーシェ殿な」

「「はっ?会ったのか?(会えたのか?)」」

「静養都市で療養中だったらしく、屋敷の一室勝手に借りてた時に会ったそうだ」

「ま、さすがリリムと言っておくか」

「父上、それで済まされると本気でお思いに?」

「まあ、どちらにせよもう一度確認しておけ。そうそう、第二王子にも会ったと言っておったぞ。薬が効いているのに動けるなんて、良く訓練されてるってな」

「良かったじゃないか、息子褒められて」

「では、有名な舞子というのは」

「「リリムの事だな」」

「公爵とそっくりだったと言うのは?」

「親子だからな」

「・・・取り敢えず宝石と箱の方から確認します」



 前王、現王、王太子の3人で確認し宝石、桐の箱が本物である事を認める。

 暫くすると、リリムがバーナードと大量の肉と魚を持って帰って来た。
 それを見たわしはルーネストにシェフを呼びに行かせる。

 解体、料理にはペレ爺以下料理の出来る者も加わり、豪快な料理が並べられた。

 王妃も最初は戸惑っていたが、姑が黙々と食べているので、勇気を出して一口食べるとやみつきになった。
 流石に食べ過ぎるとダメな物は、都度取り上げる様にし、兵士も含めお腹いっぱい食べる事が出来た。


 パレ爺達が帰る時、またなと言われて嫌な顔をすると、時期待ち人が来るじゃろう、楽しみじゃな。
 頭を撫でられ気分が落ち着いたので、またねと声を掛けた。本当に来てくれるだろうか。ブレスレット壊したこと怒られ無いかな?

 みんなを見送り片付けをしてから身体を綺麗に洗い上げた。
 夢で会うにしても綺麗にしておきたい。

 今日は早めにベッドに潜り込んだ。勿論扇を握りしめて。

 お祖父様には良い夢をと、お休みの挨拶をされた。

 うん、夢でも良いから会って謝りたい。





 リリムが寝たのを確認し、森の中での様子をバーナードに確認する。

「荒れていましたが、暫くすると落ち着かれていましたよ」
 
 大切な物を壊されたのだから怒って当然なのだが、時が来たら壊れる様になっておった。その時間が少し早まったに過ぎない。
 
 そう、誕生日を迎える直前で壊れる様に設定されていた。

 リリムが知れば、そんな事はないと言ったかも知れないが、実際は違う。

 日付が変わる頃に部屋に結界が張られるだろう。いや、もう既に張られているかも知れない。16になると同時にリリムの純血を奪い証を刻む筈。

 ・・・・はぁ、デビュタントまでは大丈夫と思ったが、ひ孫の顔を見るのも早そうだ。

 自由は制限されるかもしれんが、リリムには幸せになってもらいたい。

 バーナードの入れたお茶を飲みながら、明日の朝の事を話し合った。







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