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 ブレスレットが壊された次の日、良い夢を見て気持ち良く目が覚めた。リヴァル様に沢山抱きしめられ愛された夢。
 ふと右手首を見ると綺麗なブレスレットが付けられていた。嬉しくなり口付けを落とせば淡く光を放った。
 前のは壊してしまったけど、今回は死ぬ迄大事にしようと心に誓った。
 
 今日が誕生日だと気がついたのは、ご飯を食べに食堂に降りた時だった。
 屋敷の皆んなとお祖父様が揃って出迎え、おめでとう!と言ってくれた時だった。

 えっ?っと驚いていると皆んなもえっ?という顔をされてしまった。
 それを見かねたお祖父様が呆れた顔で声をかけて来た。

「なんじゃリリム、自分の誕生日を忘れてしまったのか?ちゃんと前に教えたじゃろうが。
それにほれ、右手首に付けているブレスレットも誕生日プレゼントじゃろう?ワシらからもちゃんと用意しておるぞ。
 勿論貰ってくれるな?」

 まだ呆気に取られている私の背中を押してくれたのはルーネストだった。
 振り返ると笑顔で頷かれプレゼントの箱を目の前に出された。おめでとうと言われ、嬉しくなり、涙が出そうになり何とかありがとうと返すことが出来た。

 それを始まりに皆んなが色々な物をくれた。気持ちだけでも嬉しいのに、物まで用意してもらえるなんて自分はなんて幸せなんだろうと思った。
 両親からは疎まれていてもこうして私の誕生を祝ってくれる人がいるというだけで、ただそれだけで嬉しくて涙が出る。

 プレゼントの中身を見せてもらうと、そのほとんど全てが冒険者として活動するのに役に立つ物ばかりであった。
 アクセサリーと呼ばれるものは一つも無いが、使用する時に送り主を思い出せるし、大切に使えば長持ちしそうで重宝しそうだ。

 その事を伝えたら喜んで貰えた。他にも使い方を教わったりと楽しい時間を過ごしていたけど、やはり空腹には耐えられずお腹が鳴った。それもみんなに聞こえるくらい大きな音で。

 みんなに笑われつつ、ご飯にしましょうとナタリーさんに言われ席に着いた。久しぶりに皆んなと食べるご飯。同じテーブルでみんなで食べると美味しいよね。頬も緩んでいたようだ。
 朝ごはんにしては豪華なものが出て来たので、朝からは重たく無いですか?と言えば、もう昼じゃぞ、とお祖父様に言われてしまった。
 一体どのくらい寝ていたんだろう、私。ルーネストに聞いても時間には起きましたと言われる始末。私だけが寝坊してしまったようで申し訳なかった。
 項垂れていると、お祖父様に良い夢を見ていた様なのでそのままにしておいた。と気を使わせてしまったようだ。

 沢山ご飯をいただき、食後のお茶を楽しんでいると、ペレ爺が奥さんと訪ねてきた。

「リリム誕生日おめでとう。プレゼントはわしとリーからデビュタント用のドレスだ。それに見合った宝石なんかも渡そうと思ったんじゃが、勝手にリリムを着飾らせると怒られそうでな。。今回はこれで我慢しておくれ」

「あなた、そんな事を言うものではありませんわ。リリムさんは皆さんから愛されているのだから宝石など無くても輝いていますよ。
 それにねリリムさん、ドレスの方の刺繍は私がさせてもらったの。久しぶりだし、目もほとんど見えないからどうかと思ったんだけど良かったら受け取って貰えないかしら?」

 あまりの事にびっくりして言葉が出なかった。それでも私のための一点物なんだと思えば嬉しくて仕方がない。
 それにドレスはお祖父様が用意してくれるとばかり思っていたからとてもうれしい。

「わぁ、ありがとうございます。でも、私がいただいて良いんですか?お孫さんに渡したりとかは・・・」

「ああないない。うちの孫は男ばかりだからな」

「そうですよ。それに、お嫁に来た子は皆んな息子達がデザインなどに口出ししていますから、私たちの出番はないんですよ。
 なので貰ってもらえるととても嬉しいわ。それにドレスはリリムさんのサイズで作っていますからね」

 んーと考え込むも、お祖父様も大丈夫じゃ、と言ってくれているので、有り難くいただく事にした。
 お礼を言い、お茶を入れ直してもらいサロンに移動してお茶にする。
 リーさんとは久しぶりに会うので、色んな話をして話を聞いてとても楽しい時間を過ごせた。
 
 お迎えは昨日ペレ爺を父上、と呼んでいた人が沢山の騎士を連れてやって来た。
 思わずペレ爺に、窮屈で大変そうだね。と言えば、慣れてしまえばそうでもないがリリムには難しいだろうな。と言われてしまった。 

「では今度はデビュタントのパーティでな、
綺麗な姿楽しみにしておるぞリリム」

「リリムさん、身体がしんどいと思ったら無理せず休んでくださいね。次会える時を楽しみにしていますよ。
 ドレスは出来上がり次第此方に届けますね」

「はい、ありがとうございます」

「またなジジイ、また領地の方に遊びに行くから待っとれよ」

「来なくていい。来るならわしの執務を手伝え」

「ふん、嫌に決まってる。解放されてわしは自由なんだ」

「こっちに迷惑かけといて何が自由だこのジジイ。他の者の心労を考えんか」

「なんで自分の心労が減ったのに他の者の心労の心配をしなければいけないんだ」

 お祖父様とペレ爺の言い合いが続きそうなので、リーさんに先に馬車に乗ってもらい、ついでペレ爺を呼ぶ。餌は勿論私、ペレ爺ぎゅーってして、といえば物凄い勢いで此方にやって来て抱きしめてくれる。
 無理はするな、と頭を撫でられ馬車に乗り込むペレ爺に手を振り、見えなくなるまで見送った。

 そしてふと疑問に思った事をお祖父様に聞いてみた。

「ペレ爺を迎えに来てる人って偉いの?」

「まあ、この国では偉いのかもしれんな」

「普通に偉い人ですよ。この国の王ですから」

 しれっとバーナードさんが教えてくれる。そこで納得もした。成る程だから護衛が多いのか。
 でもペレ爺来る時リーさんと2人で、普通の馬車で来てるよね?というか馬車見ないし、歩いて来てるよね?
 頭に疑問符が浮かぶ。首を傾げていれば、抜け出すのが得意なんじゃ。とお祖父様とバーナードさんが言う。
 王族の身の安全を守る人って大変よね。つくづくそう思った。

 晩御飯も私の好物が食卓に並んだ。皆で食べると美味しい。
 私の16歳の誕生日は幸せな時間の中過ぎていった。




※※※※※※※※


 ペレ爺視点

 昨日の今日であるが、今日はリリムの誕生日。デビュタントの16歳。

 私は若い子が喜ぶ物はわからないので妻のリーシェルに聞いた。
 そうしたら、折角だからドレスを贈ってはどうかと提案された。
 早速あやつの所に連絡し了承を得た。

 サイズは王都の公爵家の別宅の使用人に聞くとして、デザインなどは・・・・・妻に任せるか?

「何を考えているのかよくわかりますが、王妃に頼めば流行りのデザインで作って貰えますよ。ですがそうですね、公爵の奥様は家の中に籠り切っているのですよね?
 でしたら、私がそのドレスに刺繍をしましょう」

 そう、公爵領のお屋敷にいる奥方は殆ど部屋から出られないそうだ。理由は分からない。あやつが言うには子供との確執からだと言っておったが。
 母親がするはずのことだが、今のリリムの両親では無理があるからそちらの方がリリムが喜ぶな。

 早速息子に手配を頼み、ドレスを作る布地に妻が刺繍を施していく。
 目が見えないとは思えない程複雑かつ緻密、正確である。
 何年経っても腕は衰えない物だと感心した。昔作ってもらったハンカチの刺繍が懐かしい。

 

 2日続けて王宮を抜け出す。というか普通に出ていく。
 妻の為に途中馬車を拾い途中まで行き、そこから歩いて公爵家の別宅にいく。
 食後のお茶をしていたようだが、喜んで迎え入れてくれた。勿論リリムだけ。
 ジジイはまた来たのかと言う顔をするし、執事2人も渋い顔をしていた。
 
 誕生日を祝い、プレゼントは後で贈る旨を伝えると喜んでくれた。

 リリムと少し話をした後、妻に相手をしてもらう。その間にジジイと話をする。昨夜の事だ。

 話を聞けばやはりにもう種を仕込まれている。
何とかデビュタントまでは大人しくしているように説得しようにもジジイの孫だからな。といえば呻かれ納得された。もう少し踏ん張ってもらいたいものだ。

 今日も今日とて息子が迎えに来た。暇なのか?
 それにリリムは息子がどんな役職なのか知らないので普通に対応している。
 まあ、リリムだからそれで良いだろう。疑問に思っているかもしれないが。

 帰り際に妻が無理はしない様にと釘を刺していた。
 素直に聞いていたから問題ないだろう。


 帰りの馬車の中で息子に聞かれた。何故かの令嬢に構うのかと。帝国皇族、その中でも力のあるものに目をつけられているからだ、そいえば押しだまった。
 かの皇族は謎が多い。だが、今代の皇族は要注意だ。絶対に敵に回してはいけない。

 特に魔力持ちは危惧されているし、皇城軟禁されるとも聞いた事がある。
 リリムに種を仕込んだのは十数年前に皇城を破壊した者だろう。
 抑えきれない力を持つ者ほど恐ろしいことはない。
 息子には今一度皇族の危険性を指摘しておいた。わかっているのかいないのか。
 何かあってからでは国が消滅している可能性の方が高い。

 無事にデビュタントを迎えれる事を祈るばかりだ。



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