32 / 58
廻る時
三十一
しおりを挟む目が覚めると其処はベッドの上であった。確か庭でお茶をしていて・・・・
ガバッと起き上がっても眩暈と気持ち悪さで再びベッドに沈んでしまう。
針を刺されたということは薬を入れられたという事。何の薬なのかも分からず、どうしようか迷っていると、私付きの侍女が部屋に入ってきた。
「おはよう」
そう声を掛ければ、お嬢様お目覚めになられたのですね。と仰々しく喜ばれた。
頭にハテナが浮かんでいるが今はどうでも良い。私が何時からこの状態なのかを理解するのが先。
「いきなりでごめんね。どうして私はベッドで横になっていて、こんなにも身体が重たいの?」
「・・・・・それは・・・旦那様が説明くださいます」
「旦那様?夫の事?どうして彼が?」
「お嬢様は今回の事どの位まで覚えておられますか?」
「えっ、うーん。針を刺されて意識を失ったことかな?で、ベッドに誰かが運んでくれたんでしょう?」
「そうです。そしてお嬢様が此処に居座り続けていた自称継母と義妹にお茶に誘われたことも、お嬢様の部屋に残されていた手紙から確認済みです。首領にも報告済みで、お嬢様の意識が戻り次第此方に来られるそうです」
「貴女と爺様には手間をかけさせるわね。私も目が覚めたことだし貴女もゆっくりしてね」
「とりあえず王宮に居る旦那様に連絡を入れます。お水も用意しますね」
迅速に連絡をしたからだろう、半刻もしないうちに夫が帰ってきた。
やっぱり使える侍女は違うね。って、彼女の本職侍女じゃ無いんだけどね。潜入メインの子らしいから。
「リーズラント目が覚めたか。痛い所は?気持ち悪い所はないか?」
はい。抱きしめられて息が出来無いほど苦しいです。その内白目剥いて口から泡拭きそうです、はい。
ゴン
その音と共に夫が抱きしめていた腕を緩めた。あの世が見えましたね。魂とやらが口から抜けていきそうでした。
「無事かリーズラント」
「爺様、お久しぶりです。こんな状態での迎えになりましたがお元気ですか?」
「わしはな。じゃが・・・・」
「どうされましたか?」
「リーズラント、貴女に話しておかなければいけ無いことがある」
?何時になく真剣な夫と気遣わしげな爺様。何があったのだろう?
爺様と夫は顔を見合わせた。そして頷き夫が口を開いた。
「ごめん。子供が流れた」
その言葉の意味がわからなかった。子供が流れるとはどう言う事だろう?私は夫では無く爺様をじっと見つめた。
そして爺様が重たい口を開いてくれた。
「リーの胎に宿っていた赤子は死産でもうリーの胎の中には居ない」
えっ?どう言う事?お腹の中から子供が居なくなるの?どうして?あの執事に刺された針が原因?
私が混乱していると、コンコンと扉がノックされ私にも馴染みの医者が入って来た。次いでお腹の子を見てもらっていた産婆さんも。
「こんにちは、お久しいぶりですねお嬢様。意外に元気そうで何よりです」
「馬鹿もん何処が元気じゃ。身体が起き上がれん時点でアウトじゃ」
「えーと、お久しぶりです。今回はどうして此方に?」
「「その後の様子を見にきたに決まっている」」
その後?
「何も覚えとらんのか。ふぅ、それもそうかあの時も大分取り乱したからな」
「取り敢えず瞳孔は問題ないようだな。身体は・・・また鍛えれば問題ないだろう」
「では腹の方を見ようかの。どれ、服を捲って腹を出せ」
え?え?今?夫居るよ?
「ぐだぐだ言わんと早よせんか。ちゃっちゃと動く」
ひぃぃぃぃ。相変わらず恐ろしい。だけども身体を動かそうにも上手くいかない。
侍女や夫に手伝ってもらい寝間着を捲る。下着は履いたままでも何も言われなかったが、月の障りが来た時のように布が当ててある。
何時の間に始まったのだろう?
其方に意識が行っていたら産婆さんにお腹を押された。思わず叫んでしまった。
「子供がお腹の中に居るんですよ」
「もう子供はおらん。月の障りと共に出て行った。生きては居らんかったよ。残念じゃがな」
「・・・嘘ですよね?」
「嘘じゃない、一度意識を取り戻した時も伝えたろ?信じたくなくて記憶を消したか?」
徐々に、そう徐々に記憶が甦っていく。前は元気に生まれて来てくれたのに、今回はダメなんてそんな酷いことはない。
悲鳴に似た声を上げて私は意識を失った。何故子供が犠牲にならないといけなかったのかわからなかったから。
「あっ、あっ、あっ、・・・ああああああああああああああああ」
再度突きつけられた真実に私は顔を手で覆い涙を流した。
何で、なんでなんでなんでなんでなんで、只生きていただけなのに如何して。
「そうじゃな、問題はあの執事。彼奴じゃ。王宮でも王妃の子を殺したりと色々しておったからな。多分じゃが其方が子を成す事で追い出されるのを危惧したんじゃろうて」
それだけ?たったそれだけの為に子供が殺されたの?折角私に宿ってくれた子なのに。
あの執事そんなに危険人物だったの?深く調べなかった私の所為?そうだよね、私がしっかりしていればあの子達を殺さなくて済んだんだから。
「ごめんなさいごめんなさい。許して」
其処から私は壊れてしまった。そして、身体が自由に動く様になった時裏の池で私は手首を切った。
情けなくて、哀しくて、不甲斐なくてこれ以上生きていたくなかった。
それ以外の選択肢がその時私の中に無かった。
0
あなたにおすすめの小説
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
旦那様、彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵夫人フルールは、夫である伯爵と愛人の秘書に長年頭を悩ませていた。
何度夫に苦言を呈しても「彼女は仕事において必要不可欠なパートナーだから」と一切聞く耳を持たない。
困り果てていたそのとき、彼女は突然前世の記憶を取り戻した。
このままだと夫と愛人の真実の愛の犠牲になってしまう。
それだけは御免だ。
結婚五年目にして、彼女はようやく夫を見限り、新たな事業を立ち上げた。
そして事業を成功させたフルールの隣には、いつも同じ男が立っていた。
その男は誰なのかと問い詰める夫に、フルールはニッコリ笑って言った。
「彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる