夢か現か

黒梟

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廻る時

三十一

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 目が覚めると其処はベッドの上であった。確か庭でお茶をしていて・・・・
 ガバッと起き上がっても眩暈と気持ち悪さで再びベッドに沈んでしまう。
 針を刺されたということは薬を入れられたという事。何の薬なのかも分からず、どうしようか迷っていると、私付きの侍女が部屋に入ってきた。

「おはよう」

 そう声を掛ければ、お嬢様お目覚めになられたのですね。と仰々しく喜ばれた。
 頭にハテナが浮かんでいるが今はどうでも良い。私が何時からこの状態なのかを理解するのが先。
 
「いきなりでごめんね。どうして私はベッドで横になっていて、こんなにも身体が重たいの?」

「・・・・・それは・・・旦那様が説明くださいます」

「旦那様?夫の事?どうして彼が?」

「お嬢様は今回の事どの位まで覚えておられますか?」

「えっ、うーん。針を刺されて意識を失ったことかな?で、ベッドに誰かが運んでくれたんでしょう?」

「そうです。そしてお嬢様が此処に居座り続けていた自称継母と義妹にお茶に誘われたことも、お嬢様の部屋に残されていた手紙から確認済みです。首領にも報告済みで、お嬢様の意識が戻り次第此方に来られるそうです」

「貴女と爺様には手間をかけさせるわね。私も目が覚めたことだし貴女もゆっくりしてね」

「とりあえず王宮に居る旦那様に連絡を入れます。お水も用意しますね」


 迅速に連絡をしたからだろう、半刻もしないうちに夫が帰ってきた。

 やっぱり使える侍女は違うね。って、彼女の本職侍女じゃ無いんだけどね。潜入メインの子らしいから。

 
「リーズラント目が覚めたか。痛い所は?気持ち悪い所はないか?」

 はい。抱きしめられて息が出来無いほど苦しいです。その内白目剥いて口から泡拭きそうです、はい。

 ゴン

 その音と共に夫が抱きしめていた腕を緩めた。あの世が見えましたね。魂とやらが口から抜けていきそうでした。

「無事かリーズラント」

「爺様、お久しぶりです。こんな状態での迎えになりましたがお元気ですか?」

「わしはな。じゃが・・・・」

「どうされましたか?」

「リーズラント、貴女に話しておかなければいけ無いことがある」

 ?何時になく真剣な夫と気遣わしげな爺様。何があったのだろう?

 爺様と夫は顔を見合わせた。そして頷き夫が口を開いた。

「ごめん。子供が流れた」

 その言葉の意味がわからなかった。子供が流れるとはどう言う事だろう?私は夫では無く爺様をじっと見つめた。
 そして爺様が重たい口を開いてくれた。

「リーの胎に宿っていた赤子は死産でもうリーの胎の中には居ない」

 えっ?どう言う事?お腹の中から子供が居なくなるの?どうして?あの執事に刺された針が原因?

 私が混乱していると、コンコンと扉がノックされ私にも馴染みの医者が入って来た。次いでお腹の子を見てもらっていた産婆さんも。

「こんにちは、お久しいぶりですねお嬢様。意外に元気そうで何よりです」

「馬鹿もん何処が元気じゃ。身体が起き上がれん時点でアウトじゃ」

「えーと、お久しぶりです。今回はどうして此方に?」

「「その後の様子を見にきたに決まっている」」

 その後?

「何も覚えとらんのか。ふぅ、それもそうかあの時も大分取り乱したからな」

「取り敢えず瞳孔は問題ないようだな。身体は・・・また鍛えれば問題ないだろう」

「では腹の方を見ようかの。どれ、服を捲って腹を出せ」

 え?え?今?夫居るよ?

「ぐだぐだ言わんと早よせんか。ちゃっちゃと動く」

 ひぃぃぃぃ。相変わらず恐ろしい。だけども身体を動かそうにも上手くいかない。

 侍女や夫に手伝ってもらい寝間着を捲る。下着は履いたままでも何も言われなかったが、月の障りが来た時のように布が当ててある。
 何時の間に始まったのだろう?

 其方に意識が行っていたら産婆さんにお腹を押された。思わず叫んでしまった。

「子供がお腹の中に居るんですよ」

「もう子供はおらん。月の障りと共に出て行った。生きては居らんかったよ。残念じゃがな」

「・・・嘘ですよね?」

「嘘じゃない、一度意識を取り戻した時も伝えたろ?信じたくなくて記憶を消したか?」

 徐々に、そう徐々に記憶が甦っていく。前は元気に生まれて来てくれたのに、今回はダメなんてそんな酷いことはない。
 悲鳴に似た声を上げて私は意識を失った。何故子供が犠牲にならないといけなかったのかわからなかったから。

「あっ、あっ、あっ、・・・ああああああああああああああああ」

 再度突きつけられた真実に私は顔を手で覆い涙を流した。
 何で、なんでなんでなんでなんでなんで、只生きていただけなのに如何して。

「そうじゃな、問題はあの執事。彼奴じゃ。王宮でも王妃の子を殺したりと色々しておったからな。多分じゃが其方が子を成す事で追い出されるのを危惧したんじゃろうて」

 それだけ?たったそれだけの為に子供が殺されたの?折角私に宿ってくれた子なのに。
 あの執事そんなに危険人物だったの?深く調べなかった私の所為?そうだよね、私がしっかりしていればあの子達を殺さなくて済んだんだから。

「ごめんなさいごめんなさい。許して」


 其処から私は壊れてしまった。そして、身体が自由に動く様になった時裏の池で私は手首を切った。

 情けなくて、哀しくて、不甲斐なくてこれ以上生きていたくなかった。





 それ以外の選択肢がその時私の中に無かった。
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