デビルサマナー

John Smith/ジョン スミス

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『疑問に思う。デビルサマナー軍と天使の戦況はどうなんだろう』
『実際に忙しいんだろうよ。ヒマラヤ山脈を盾にして、東南アジア連合と連携を取りながら戦い続けて一ヶ月。この前のシュヴァルツ作戦で……負けはしたけど、貴重な交戦のデータを得られた。その中から、色々と次世代兵器のアイデアとか出るだろうからな』
 
 所詮は噂だけど、と浜草が呟く。
 
『戦闘データを得た技術者が、水を得た魚のように元気になったとか……いやな、例え、だな』
 
死んで言った人たちを犠牲にして得たデータなのだ。あまり、いい例えとも言えないだろうと湊の顔が少し歪んだ。
 
『無駄にしたくないのさ、デビルサマナーの死を。次に死なせないのが、技術屋さんの仕事だ』
『…まあ、悪魔のあの字も、出てきてない、俺らには、関係ない、話だけど、な』
 
 湊が落ち込んだ顔を見せる。浜草は苦笑しながら、それを見ていた。
 
『……デビルサマナー訓練が始まるのはやれ来週か、それ来週か、って毎週はしゃいでたもんなお前』
 
毎週期待を裏切られていた美鶴湊10歳は、いい加減凹み始めていた。
 
『まあ、そう腐るなって。根性なしの振り落としも済んだ。耐え抜いた俺らも自信が付いた。
 座学、銃器の訓練、格闘訓練も基礎は済んだ………多分だけど、来週からデビルサマナー訓練にも入るだろうぜ』
「え、本当か!?」
 
途端、大声を出して元気になる湊。現金な様子に、浜草は苦笑した。
 
『まあ、多分だけどな』
 
希望の光とも言える言葉。それを聞いた湊は走りながらジャンプし、ガッツポーズを取った。
 
―――そこに、グロッケン教官の怒声が飛んだ。
 
「美鶴ゥ!」
 
「はい!!」
 
 湊は背後から聞こえたあまりの大声に、反射的に返事をした。その声は、訓練場にいる全員にも聞こえたようで、同期の仲間も全員が硬直していた。まるでパブロフの犬のように条件反射で立ち止まり、その場でしゃっきりと姿勢を正した。
 怒声の対象である湊の一番近くにいた泰村は、一瞬だけ立ち止まり―――すり足を駆使しながら、徐々に湊から離れていった。
君子危うきに近寄らずと、安全区域に避難したのだ。
 
『許せ、湊。お前が悪いんだ』
 
『見捨てるのか、浜草!』
 
湊は戦友の裏切りを嘆いた。そのまま追いたくなったが、それはまずいと怒声の方向へとゆっくり振り返った。
 
そして武は振り返った先で―――教官の笑顔を見た。
 
そこに在ったのは慈悲深い顔だった。浅黒い肌に、黒い髪。長身で筋肉質な体。加え、整った顔の造形はまるで本で見たモデルのよう。イケメンが、そっと湊に微笑みを向けていた。だが、笑みを向けられている湊は、顔を赤くするどころか、青ざめていた。ただの一欠片も笑っていない教官の目を直視してしまったからだった。
間も無くして、宣告は成された。
 
「元気そうだな予定より10周追加」
 
息継ぎもない、相手に二の句もつなげさせない、巧緻かつ速度に優れる一言。
一拍おいて告げられた内容を把握した湊は、途端苦悩の表情を見せた。
 
(っていうか具体的な数を言われると周回を数えなくちゃいけないでしょうがー!)
 
悟りが消えると、湊は叫びながら転げ回りたい衝動にかられた。
だが、責は自分にあるので黙らざるを得ない。これ以上の追い打ちを受ける危険性は、絶対に避けなければならない。口答えをしようものなら、星になってしまう。そう、ここにいる皆はある一つの真理を持つに至っていた。
 
忘れられない、はっきりと覚えているのだ。3ヶ月前、訓練初日に起きたあの事件のことを。あまりに無法な、子供そのものだった訓練生に成された対応。というか、たった一つの拳。だけどその威力は規格外そのものであった。
 
――――彼らは知った。『拳で人は飛べるんだ』、という新たな事実を発見したのだ。
 
あの日以来、湊達訓練生は己の命に誓っていた。生きるべき明日に向けて宣誓したのだ。ああ、この教官には絶対に逆らうまいと。湊が絶望する傍ら、浜草はとりつく島もない教官の端的な一言に頷き、流石とつぶやいていた。
 
心の中だけで呟き、納得の表情で頷いている。だけど続けられた無情の一言により、その表情は激変した。
 
「ああ、もちろん全員でな」
 
笑顔での追撃。対象は、浜草を含む他の訓練生5人だった。その全員の口から、声にならない悲鳴があがった。だが前述の通り、ここで"何故"とかいう―――馬鹿な問い返しはしない。誰だって生きていて、生きている内は星にはなりたくないから。
 
内心で、今はもういない戦友――――初日に教官に横柄な態度を取ってふんぞり返って、そのままお空のお星様になったあいつ――――を思う。あの勇者は今日も青空の彼方できっと笑っていることだろう。そして、彼は笑顔で告げるはずだ。『俺のようになるな』、と。
 
彼の貴い犠牲――――とはいっても隊を辞めただけ――――は、湊達の心の中に遺されていた。
 
遺志を継いだ湊達訓練生、故に教官に反論・文句・不満は持てど、直接教官にぶつけるような愚は繰り返さない。だから、矛先は別の人物へと向けられた。
 
弱者が持つ理不尽に対する怒りの矛先。それが弱い方へ向くのは、賢い人間の知恵だと言えよう。浜草は視線だけで、『後で武をボコろう』、と他の4人に合図を送り、全員が視線で了承を示した。満場一致で決議案が通過し、提案は可決されたのである。
 
「で、走るのか―――走らんのか?」
 
事態の推移を無言で見守っていた教官が、優しく静かな声で訓練生達に問いかける。
最終通告ともいう声色に、訓練生達はびしりと素晴らしい敬礼を返して、答えを返す。
 
走るのか、死ぬのか。そう聞こえた全員は、丁寧に返答した。
 
「是非とも、走らせて頂きます」
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