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―――その日の、深夜。
グロッケン教官は、辺りが薄暗くなった休憩所で一人、虚空を見上げながら煙草をふかしていた。影行は滅多なことでは煙草を吸わない。吸うのは、酒を飲んだ時か―――辛いことがあった時だけ。この場合は、後者だ。グロッケン教官は、夕方に息子と同等の年齢のデビルサマナー候補生と話した内容を小さい背中と共に思い出すと視線を落とし、ため息ととも煙草の煙を弱く吹き出す。
「……くそ」
グロッケン教官は毒づく。未だ本音を飲み干しきれていない自分に。そしてこんなクソッタレな世界に息子と同世代の子供を放り出さなければならない、自分に対して。本来ならば反対していた。それもそうだ、どんな親が10の息子を死地に送り込みたがる。長崎に来たのも、別れた妻との間に残された、数少ない絆の結晶である息子を守る為。息子と妻が居る日本まで、天使の牙を届かせないためだ。そのために、志願した。あのまま腐っていることは出来ないと、死地へとやってきたのだった
「………歴代一位のデビルサマナー適正、か」
軍は無駄を嫌うところだ。本来なら訓練を受けることも許可されない湊が何故、訓練を受けられるのか。その理由が、それだ。湊が適性試験でみせた、常識はずれの適性。データを取る教官は、まず機械の故障を疑った。次に目薬をした。その後、再度試験を受けて―――結果は、変わらなかった。むしろ、初回より上がっていた。
教官は―――上層部と"懇意"という、男の教官は、そのまま上に報告したという。そして今は、これだ。
グロッケン教官は、想う。
「もし、あの時の試験官が自分だったのであれば、湊はデビルサマナー候補生になどならなくて済んだのかもしれない」と。
あの常識的を自負している自分ならば、この馬鹿げた事態になるのを止められたんじゃないか、と。
(いや、俺には何も言えないか………それに、上が隠している意図や意向もある)
そも、そういう次元のものではないのかもしれない。我が子の異常さを鑑みて、唸る。
異常に過ぎる湊の適性。
そう、鍛えた成人男子のデータを抜いての成績など―――普通の人間では有り得ない。異様という一言でもすまされない。天才、と一言で括れるものでもない。起こりえないのだ、本来ならば。
友人は"天使の脅威を認めた人類が新しい進化をしたのだ"とか、
"もしかしたら国連というかヤンキー共のクソッタレな陰謀で―――"という与太話の持論を展開していた。本来ならば一笑にふしていた。しかし、もしかしたら本当なのかもしれないと考えてしまう程に、湊のデビルサマナー適性は異様だった。
今は機材の故障ということで、湊の試験の結果は公表されていない。それもそうだろう。軍は信用が第一。誰も、狂言師などにはなりたくない。グロッケン教官も、その結果については湊であっても、伝えなかった。
―――それに、奇妙なことはそれだけではない。
「夢を見た、か」
グロッケン教官は湊に聞かされた夢について、考える。本人もいまいち分からないと言っていた夢の数々。それを聞いたグロッケン教官は、聞かされた時に違和感を覚えた。そして気づいた翌日―――湊に言った。その夢の内容を誰にも話すな。
絶対に、誰にも話すなと。グロッケン教官が覚えた、違和感の正体。それは、天使の事についてのことだった。湊が語った夢の内容。その中に、本来ならば絶対に知りえないことが隠されていたからだ。
(天使の外見。それだけじゃない、天使のの総数におけるミドル級の割合。スモール級の前腕の堅さ、ラージ級の衝角のレーザー能力―――どれも、民間人には知らされていないことだ)
パニックを恐れて、民間人には秘匿されている天使の情報がある。衛士でも、軍に入って始めて学習できる天使の詳細がある。
グロッケン教官は前線で戦っていたことがある。今より弱い悪魔で。だから知っている?
それは立場あってのこと。客観的に考えて普通の民間人―――しかも10に満たない少年―――が、知っているはずがないのだ。本来ならば知らないはずの武はしかし間違えることなく、天使の詳細を語った。果ては、まだ発見されていないだろう天使のことも。
それで、『とにかく長崎にいかなくてはならない。このままでは取り返しがつかなくなる』と思ったらしい。理由から行動まで、尋常のものではあり得ない。グロッケン教官はあまりに荒唐無稽なこの状況に、頭を抱えざるをえなかった。
「………くそ」
最善の見えない状況の中毒づいた。五里霧中だと、内心の苛立ちを重ねていく。慎重になればなるほど選べない難題だった。息子や少年兵のために命を賭ける覚悟はあるが、それでも守りきれると断言出来ると言うほど、グロッケン教官は未熟でもない。さりとて、何もしないままでは状況は変わらない。
訓練を受けさせたのは、せめてもの苦肉の策だった。衛士の適性が少しでもあれば、関東に帰っても軍に―――軍にまだ在籍しているだろう信頼できる友人に推薦して、どうにか出来るかもしれない。
そう思って、資料を―――適性を測るだけの試験を受けさせた。しかし、それが裏目に出てしまうとは、グロッケン教官をして思ってもいなかった
ついには上層部のおかしな企画は潰れることなく。湊もデビルサマナーとして訓練を受けることを拒まなかった。むしろ、志願した。
そう、今現在―――人類側は圧倒的に不利な状況なのだ。月での戦闘からこっち、天使が地球の中国に降下し始めてからちょうど3ヶ月。本格的な開戦以降、天使を相手にする戦闘で、まともに勝てた試しがなかった。
米国。あの世界最強の国であっても、自国の一部を焦土にして、カナダの国土の内50%を放射能まみれにしてようやく排除できる程に、天使は強いのだ。
それがどういう事を指すのか。米国の強さを嫌というほどに知っていグロッケン教官には、その異様さが理解できていた。
かの計画の名前は、『セントラル計画』。米国が持つ第二世代デビル召喚端末の開発、運用に関わる基礎技術を習得する事を目的として発動された計画だ。
その合同研究チームの一員として派遣されていた。任地での不慮の事故によって死亡した人員の代替となる、いわゆる中途派遣ではあったが、それでもグロッケン教官はそこで十二分に理解したことがある。
ひとつは、米国が保持している巨大な軍事力について。影行は天井を仰ぎながら白い煙を空に吐き出すと、苦笑しながら思い出した。
米国で見せつけられた兵器の数々。堅牢で長大な砲を持ち、何よりも数が多かった戦車。戦術機を次々に生み出す工場。充実した設備に、屈強な兵士達。
ふたつめは、天使の強さ。そう、米国が保持する力をもってしても、"あれ"だけの軍事力と生産力を持つ米国でも、まだまだ足りていないという現実。"あの"アメリカでさえ、天使が相手では核無しには勝利を得られないのだ。
そんな馬鹿げた強さを持つ化け物が、ユーラシアで猛威を振るっている。だから、グロッケン教官はここまで来た。妻がいる関東にその牙が届く前に、一刻も早く―――米国以上に有用なデビル召喚端末機をつくるために。もちろん、自分一人では無理だ。だが、数ある戦術機の部品の内の一つならば可能だった。
それでも今のままでは無理だろう。影行は戦術機の研究が進んでいることは分かっていたが、その進む速度が、時間が足りないことも悟っていた。
以前に行われた天使の家攻略作戦―――インド亜大陸での勢力挽回を懸けて発動された、亜大陸中央にある"ボパール家攻略作戦の結末を考えれば分かることだった。
アフリカ連合と東南アジア諸国も参戦したあの大反抗作戦。宇宙戦力が初めて投入され、軌道爆撃や軌道降下部隊なども導入された大規模作戦の中、人類はいつもとは違う結果を得られた。いつもと違う手応えがあったと、誰もが口に揃えて言った。
だが、こうも言っている。"決め手が無かったから負けた"と、生還した衛士の誰もが言っている。そして、負ければ自分もそこまで。
今思えば、得られたものが多かったあの作戦だが、その損耗は非常に大きい。
戦力だけではない。長い間戦線を維持してきてやっとの、大反攻作戦の失敗は、兵士達の士気にも影響を及ぼしていたのである。インド亜大陸で戦線を維持した一ヶ月のある基地も年になろうとしている。日本への上陸を水際で食い止める為に建造されたこの長崎基地には天使侵攻を体力食い止める体力残っていないかもしれない。
次の侵攻に耐えられるかどうか。
綻びは、もう誰の目にも見える所まで来ていた。
15にも満たない少年兵を徴集するなど、今までは考えもしなかった話だ。それが許されることも。1ヶ月の基礎訓練、その後1ヶ月のデビルサマナー訓練の、半年満たない速成訓練など、作戦前では一笑に付されて終わりだったろう。それがまかり通っているのが現状だった。基地の友人が司令室の前で見た、"ソ連のお友達"が関わっているかもしれないが、本来ならば通らないことが通っている事実に違いはない。
戦況としては末期的とも言えるのではないか。整備員である影行さえも思っていることだ。他のデビルサマナーや戦車兵、歩兵達も皆思っていることだろう。
(いったい、どうすればいいんだろうな?)
グロッケン教官はいずれ来る我が子の過酷な運命を考えながら、思考の渦におちいる。どうすればいいのか、自分に何ができるのかを考える。
だけど、最善と思える答えは何もなく。それでも頭を抱えて考える影行の視界がぼやけていった。視線は自然に下へと落ちていく。その先で、グロッケン教官の視界の端に、首からかけているペンダントの煌めきが映った。
「……そうか、そうだよな」
それは、無言のメッセージだった。中に居る人物からの、応援か、罵倒か、それは分からないが何らかの声に違いがない。そう思ったグロッケン教官は口の端に笑みを浮かべながら、ペンダントを握りしめた。
「万全ではなくても、か………俺はここで、自分の出来ることを最大限に。自分にしか出来ないことをやるしか………それしか、ないんだよな」
小さく、だけど力強く。そう呟いて煙草の火を消したインド出身のグロッケン教官は自分の頬を両手で叩き、まだ仕事が残っている戦場へ。
自分の力を発揮できる、デスクへと向かっていった。
グロッケン教官は、辺りが薄暗くなった休憩所で一人、虚空を見上げながら煙草をふかしていた。影行は滅多なことでは煙草を吸わない。吸うのは、酒を飲んだ時か―――辛いことがあった時だけ。この場合は、後者だ。グロッケン教官は、夕方に息子と同等の年齢のデビルサマナー候補生と話した内容を小さい背中と共に思い出すと視線を落とし、ため息ととも煙草の煙を弱く吹き出す。
「……くそ」
グロッケン教官は毒づく。未だ本音を飲み干しきれていない自分に。そしてこんなクソッタレな世界に息子と同世代の子供を放り出さなければならない、自分に対して。本来ならば反対していた。それもそうだ、どんな親が10の息子を死地に送り込みたがる。長崎に来たのも、別れた妻との間に残された、数少ない絆の結晶である息子を守る為。息子と妻が居る日本まで、天使の牙を届かせないためだ。そのために、志願した。あのまま腐っていることは出来ないと、死地へとやってきたのだった
「………歴代一位のデビルサマナー適正、か」
軍は無駄を嫌うところだ。本来なら訓練を受けることも許可されない湊が何故、訓練を受けられるのか。その理由が、それだ。湊が適性試験でみせた、常識はずれの適性。データを取る教官は、まず機械の故障を疑った。次に目薬をした。その後、再度試験を受けて―――結果は、変わらなかった。むしろ、初回より上がっていた。
教官は―――上層部と"懇意"という、男の教官は、そのまま上に報告したという。そして今は、これだ。
グロッケン教官は、想う。
「もし、あの時の試験官が自分だったのであれば、湊はデビルサマナー候補生になどならなくて済んだのかもしれない」と。
あの常識的を自負している自分ならば、この馬鹿げた事態になるのを止められたんじゃないか、と。
(いや、俺には何も言えないか………それに、上が隠している意図や意向もある)
そも、そういう次元のものではないのかもしれない。我が子の異常さを鑑みて、唸る。
異常に過ぎる湊の適性。
そう、鍛えた成人男子のデータを抜いての成績など―――普通の人間では有り得ない。異様という一言でもすまされない。天才、と一言で括れるものでもない。起こりえないのだ、本来ならば。
友人は"天使の脅威を認めた人類が新しい進化をしたのだ"とか、
"もしかしたら国連というかヤンキー共のクソッタレな陰謀で―――"という与太話の持論を展開していた。本来ならば一笑にふしていた。しかし、もしかしたら本当なのかもしれないと考えてしまう程に、湊のデビルサマナー適性は異様だった。
今は機材の故障ということで、湊の試験の結果は公表されていない。それもそうだろう。軍は信用が第一。誰も、狂言師などにはなりたくない。グロッケン教官も、その結果については湊であっても、伝えなかった。
―――それに、奇妙なことはそれだけではない。
「夢を見た、か」
グロッケン教官は湊に聞かされた夢について、考える。本人もいまいち分からないと言っていた夢の数々。それを聞いたグロッケン教官は、聞かされた時に違和感を覚えた。そして気づいた翌日―――湊に言った。その夢の内容を誰にも話すな。
絶対に、誰にも話すなと。グロッケン教官が覚えた、違和感の正体。それは、天使の事についてのことだった。湊が語った夢の内容。その中に、本来ならば絶対に知りえないことが隠されていたからだ。
(天使の外見。それだけじゃない、天使のの総数におけるミドル級の割合。スモール級の前腕の堅さ、ラージ級の衝角のレーザー能力―――どれも、民間人には知らされていないことだ)
パニックを恐れて、民間人には秘匿されている天使の情報がある。衛士でも、軍に入って始めて学習できる天使の詳細がある。
グロッケン教官は前線で戦っていたことがある。今より弱い悪魔で。だから知っている?
それは立場あってのこと。客観的に考えて普通の民間人―――しかも10に満たない少年―――が、知っているはずがないのだ。本来ならば知らないはずの武はしかし間違えることなく、天使の詳細を語った。果ては、まだ発見されていないだろう天使のことも。
それで、『とにかく長崎にいかなくてはならない。このままでは取り返しがつかなくなる』と思ったらしい。理由から行動まで、尋常のものではあり得ない。グロッケン教官はあまりに荒唐無稽なこの状況に、頭を抱えざるをえなかった。
「………くそ」
最善の見えない状況の中毒づいた。五里霧中だと、内心の苛立ちを重ねていく。慎重になればなるほど選べない難題だった。息子や少年兵のために命を賭ける覚悟はあるが、それでも守りきれると断言出来ると言うほど、グロッケン教官は未熟でもない。さりとて、何もしないままでは状況は変わらない。
訓練を受けさせたのは、せめてもの苦肉の策だった。衛士の適性が少しでもあれば、関東に帰っても軍に―――軍にまだ在籍しているだろう信頼できる友人に推薦して、どうにか出来るかもしれない。
そう思って、資料を―――適性を測るだけの試験を受けさせた。しかし、それが裏目に出てしまうとは、グロッケン教官をして思ってもいなかった
ついには上層部のおかしな企画は潰れることなく。湊もデビルサマナーとして訓練を受けることを拒まなかった。むしろ、志願した。
そう、今現在―――人類側は圧倒的に不利な状況なのだ。月での戦闘からこっち、天使が地球の中国に降下し始めてからちょうど3ヶ月。本格的な開戦以降、天使を相手にする戦闘で、まともに勝てた試しがなかった。
米国。あの世界最強の国であっても、自国の一部を焦土にして、カナダの国土の内50%を放射能まみれにしてようやく排除できる程に、天使は強いのだ。
それがどういう事を指すのか。米国の強さを嫌というほどに知っていグロッケン教官には、その異様さが理解できていた。
かの計画の名前は、『セントラル計画』。米国が持つ第二世代デビル召喚端末の開発、運用に関わる基礎技術を習得する事を目的として発動された計画だ。
その合同研究チームの一員として派遣されていた。任地での不慮の事故によって死亡した人員の代替となる、いわゆる中途派遣ではあったが、それでもグロッケン教官はそこで十二分に理解したことがある。
ひとつは、米国が保持している巨大な軍事力について。影行は天井を仰ぎながら白い煙を空に吐き出すと、苦笑しながら思い出した。
米国で見せつけられた兵器の数々。堅牢で長大な砲を持ち、何よりも数が多かった戦車。戦術機を次々に生み出す工場。充実した設備に、屈強な兵士達。
ふたつめは、天使の強さ。そう、米国が保持する力をもってしても、"あれ"だけの軍事力と生産力を持つ米国でも、まだまだ足りていないという現実。"あの"アメリカでさえ、天使が相手では核無しには勝利を得られないのだ。
そんな馬鹿げた強さを持つ化け物が、ユーラシアで猛威を振るっている。だから、グロッケン教官はここまで来た。妻がいる関東にその牙が届く前に、一刻も早く―――米国以上に有用なデビル召喚端末機をつくるために。もちろん、自分一人では無理だ。だが、数ある戦術機の部品の内の一つならば可能だった。
それでも今のままでは無理だろう。影行は戦術機の研究が進んでいることは分かっていたが、その進む速度が、時間が足りないことも悟っていた。
以前に行われた天使の家攻略作戦―――インド亜大陸での勢力挽回を懸けて発動された、亜大陸中央にある"ボパール家攻略作戦の結末を考えれば分かることだった。
アフリカ連合と東南アジア諸国も参戦したあの大反抗作戦。宇宙戦力が初めて投入され、軌道爆撃や軌道降下部隊なども導入された大規模作戦の中、人類はいつもとは違う結果を得られた。いつもと違う手応えがあったと、誰もが口に揃えて言った。
だが、こうも言っている。"決め手が無かったから負けた"と、生還した衛士の誰もが言っている。そして、負ければ自分もそこまで。
今思えば、得られたものが多かったあの作戦だが、その損耗は非常に大きい。
戦力だけではない。長い間戦線を維持してきてやっとの、大反攻作戦の失敗は、兵士達の士気にも影響を及ぼしていたのである。インド亜大陸で戦線を維持した一ヶ月のある基地も年になろうとしている。日本への上陸を水際で食い止める為に建造されたこの長崎基地には天使侵攻を体力食い止める体力残っていないかもしれない。
次の侵攻に耐えられるかどうか。
綻びは、もう誰の目にも見える所まで来ていた。
15にも満たない少年兵を徴集するなど、今までは考えもしなかった話だ。それが許されることも。1ヶ月の基礎訓練、その後1ヶ月のデビルサマナー訓練の、半年満たない速成訓練など、作戦前では一笑に付されて終わりだったろう。それがまかり通っているのが現状だった。基地の友人が司令室の前で見た、"ソ連のお友達"が関わっているかもしれないが、本来ならば通らないことが通っている事実に違いはない。
戦況としては末期的とも言えるのではないか。整備員である影行さえも思っていることだ。他のデビルサマナーや戦車兵、歩兵達も皆思っていることだろう。
(いったい、どうすればいいんだろうな?)
グロッケン教官はいずれ来る我が子の過酷な運命を考えながら、思考の渦におちいる。どうすればいいのか、自分に何ができるのかを考える。
だけど、最善と思える答えは何もなく。それでも頭を抱えて考える影行の視界がぼやけていった。視線は自然に下へと落ちていく。その先で、グロッケン教官の視界の端に、首からかけているペンダントの煌めきが映った。
「……そうか、そうだよな」
それは、無言のメッセージだった。中に居る人物からの、応援か、罵倒か、それは分からないが何らかの声に違いがない。そう思ったグロッケン教官は口の端に笑みを浮かべながら、ペンダントを握りしめた。
「万全ではなくても、か………俺はここで、自分の出来ることを最大限に。自分にしか出来ないことをやるしか………それしか、ないんだよな」
小さく、だけど力強く。そう呟いて煙草の火を消したインド出身のグロッケン教官は自分の頬を両手で叩き、まだ仕事が残っている戦場へ。
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