デビルサマナー

John Smith/ジョン スミス

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八話

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 いつもより早く着替えをすまし、部屋の外に出る。今日は4度目の実機訓練。
 前回の訓練で悪魔のフィードバックもそれなりに調整できた。以前よりはやれるはずだ。
 
 そうして、湊は朝の点呼を待った。グロッケン教官が来る前に部屋の外に出て、いつもの通りにしていればいいと。

――――そして、間もなく違和感を覚えた。

「あれ、時間になったのに教官の姿が………それに何か、基地の様子が…………?」
 
 通常の軍人よろしく、というか当たり前なのだが、グロッケン教官は時間にうるさい人であった。
それなのに、時間になっても現れないなどと。湊は、こんな事は、この数ヶ月起きなかったことだと訝しんだ。だけど、何があったのかさえ分からないのではどうしようもない。湊と浜草はしばらく待機していた。そのまま更に数分が経過した後、代理という基地内の国連軍兵士が二人の前に現れ、点呼を取っていった。
 
そして点呼の後、朝食も終えた二人は、いつもと違う基地内部の様子を見ながら、昨日連絡を受けた集合場所へと足を運んだ。何かあれば、教官が話してくれるだろう。この慌ただしい様子も、説明してくれるだろうと思ったからだ。
 
やがて、二人は同じ訓練生と共に目的の場所へとたどり着いた。
 
ドアを開け、見回す。しかしそこにグロッケン教官の姿は無かった。
どうしたのだろうと訝しむ訓練生達だが、ここでこうしてぼけっと立っていることしかできず、教官の到着を待った。
すぐに、待ち望んでいた教官はやってきた。いつもより、数倍は険しい顔を表面に乗せて。湊達は、何かあったのだと悟った。
 
「敬礼!」
 
緊張感が高まる中号令が響き、湊達は教官に敬礼をする。教官も敬礼を返し、皆を見渡した。そして全員が揃っている事を確認すると、表情よりも更に険しい声で話し出した。
 
「訓練兵諸君。実に突然な話だが………慌てるな。落ち着いて、聞いて欲しい」
 
そう告げるグロッケンの眉間には、皺が寄っていた。
 
「昨日、未明。―――天使の家からここ、長崎基地向けて移動する天使の大規模部隊が確認された。予測針路は、この基地及び九州方面。それに伴い、早朝にこの基地は第二種戦闘態勢に移行した」
 
「―――え?」
 
天使の家とか、天使の大群とか。唐突な事態を告げる内容を聞いた全員が、変な言葉をもらしていた。それは―――基地内の慌ただしい様子。そして教官の顔と、声色から。分かっていたことではあるが、現実としては遠かったものだ。
 
今、話を切り出される寸前には、訓練兵の中で特別勘の鈍い者でも、何となく気づいていた事実だった。しかし、こうもきっぱりと告げられた事実に。予兆なく、唐突に訪れた事態に、訓練兵達は受け入れるよりも先にその現実性を疑った。
 
 情報が確定で、訓練でもなく―――現実に起こっているのか、確認するような表情を見せた。
それを見回したグロッケンは、ため息をひとつ落としていた。
 
「………お前たちの言いたいことは分かる。だが、これは訓練ではない。現実だ」
 
教官の言葉を理解した者から、数秒遅れての動揺の声が上がった。
それはまるで、悲鳴のようだった。
 
「………繰り返すぞ。天使の数は少なく見積もっても旅団以上。第一発見時の推測よりも多くなる確率が高いため、最低でも師団規模にはなるだろう」
 
 旅団規模で、総数が3000~5000。師団規模ともなれば、10000以上にもなる。つまりは、本格的な侵攻だ。
 
天使の家の中にいる天使、その余りモノがこちらに移ってきたのだろうか。しかし移るにも予測の時期と重ならないと言えた。そのことに疑問を覚えた浜草が、手を挙げる。
 グロッケンは頷き、言葉を促した。
 
「その、一番近い天使の家の方の天使は?」
 
長崎によほど近い、目下最大の脅威である目前の天使の家のどうなったのか。
グロッケンはその質問に対し、表情を崩さないまま答えた。
 
「幸い、と言ってもいいのか………そちらに動きは見られない。だが、他から来た糞共と連携して動く可能性はある」
「そんな………でも、この基地じゃあ!?」
「ああ。貴様の言うとおり、この基地はあくまで哨戒基地。そしてシュヴァルツ作戦で天使の家周辺に置いてきてた物資を取り戻すための、あくまで中継基地にしか過ぎない」
 
つまり、純粋な戦力が充実しているとは言い難い。
大隊規模の天使でさえ止めることはできないだろう。
 
「よって、この基地は放棄される。しかし背を向けて逃げるだけでは、殺してくれというようなものだ………足止め役が必要となる」
 
その言葉に、訓練兵全員がびくりと肩を震わせた。
ターラーはそれを見ながら、安心しろと告げた。
 
「見くびるな。まだ速成とはいえ、訓練も満了していない。そんなヒヨコ共に足止めを頼むはずが無いだろう。足止めは、この基地に駐留している私達の部隊と、近隣の哨戒基地と連携して行う」
「え………じゃあ、俺たちは」
「本日1000に、後方の東京基地へ輸送車を走らせる………技術者や整備兵達と共に、それに乗れ。これより貴様達が取る行動を復唱しろ………浜草」
「はっ! 我々、長崎基地所属の第一期特別予備訓練兵は、本日1000に後方の東京基地へと退避致します!」
「それでいい。その後の事は、基地の人間に聞け。次第、指示を与えるように伝えている」
「「「了解!」」」
 
訓練兵達が、敬礼を返す。
 
「………昨日の今日になるがな。お前たちを使えないと判断した訳ではない。この作戦は難度が高く、熟練の衛士でも生還は難しい………訓練の完了していないお前たちでは、全滅する可能性が高い」
 
一息ついて、言葉を続ける。
 
「むざむざと死地に送るような趣味は、私も上層部も持ってはいない………後方で鍛え、励め。そうすれば、いつかきっとお前たちはエースになれる………私からは以上だ」
 
解散の言葉が、静かな部屋に響く。
教官が退室し―――訓練兵の肩から、力が抜けた。
安堵の息がこぼれ出る。
 
「ふあ――――どうなることかと思ったよ。でも教官の言うとおり、俺たちじゃあ死にに行くようなもんだし」

 それが全てを物語っていた。性急なデビルサマナーの育成はまだ実用段階にない。だから見送られた。
 ブザーが鳴る。基地が、警報に染まっている。
 地獄のような訓練の日々は終わり、しかし実用段階にない湊達は後方へ下がる事になった。もう二度と、この鬼教官と会うこともないだろう。
 湊はこの地獄の日々を惜しみ、そして決別した。
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