デビルサマナー

John Smith/ジョン スミス

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機体にのしかかった、感じたことのない重み。そして次々に取り付くスモール級に、湊は情けない悲鳴を上げていた。網膜に投影された視界の大半が、スモール級の皮膚の色に染まっていく。
 ぎしぎしと、体が揺れる中、何かが削られる音を聞いた。

(死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ――――!)
 
スモール級の噛み付きが、人間の皮膚を上回るのは有名な話だった。デビルサモナーの死因の大半が、スモール級によるものなのも湊は知っていた。
 
それが現在進行形で自分に襲ってきているのだ。
 
果ては、頭からばっくりと喰われてしまう。湊は思い立った途端に、パニックに陥った。
 
その狂乱を察した上官がすかさず救助に入ろうとしたが、回避にと一度後方へと跳躍しているので、咄嗟には動けなくなっていた。

 湊は頭のどこかでそれを認識していた。間に合わないと、誰かが叫ぶような声が聞こえたきがした。
 
(この、ままじゃ、喰われ――――)

 脳裏に浮かぶのは、死の光景。まざまざと映る、胴体より食いちぎられた自分の内臓。
 まるで、何度も見たことがあるようなそれに、湊の思考が更に混乱の極地に達した。

(死ぬ。そう。まるで――――)

 それを見たのは、3人だけだった。
 湊と同じ戦場で、近くに居た3人だけだ。
 
 彼、彼女達はそれぞれが港を助けようと、天使の動きを見ている最中だった。
 子供を死なせる道理はない。デビルサモナーより以前に、大人として当然の認識を全員が捨てていなかった。

 だが、ミディアム級が湊機に近づき、前腕部を振り上げた光景を見た瞬間には、3人はそれぞれの頭で一種の諦めを浮かばせていた。
 
 上官は激戦の経験故か、特に多い。二人もその光景はよく見ていた。
 
 スモール級に仲間が喰われるのも、ミディアム級にコックピットごと潰されるのも、両手両足では数えきれない回数を見せられていた。だからこそ理解できることがあった。それは、どう見ても間に合わないタイミングだということ。どうしようとも手は届かず、死神の鎌を防ぐには時が足りない。助けられない無力を味わう時間がやってくるのだと。
 
3人はその感触を、半ば確信していた。
 
 
―――だから、何が起こったのかは分からなかった。
 
 
それは、熟練の衛士である上官をして、意味が分からない光景。
湊の悪魔はひざをついてはいるが、無事なのだ。損傷はある。たしかにある。
しかし、さっきまでは居たスモール級も、ミディアム級も居なくなっていた。
 
確認できたのは、上官だけ。はっきりと視認したのは、湊の悪魔が健在で――――取った行動、その4つだけ。
 
 
――――ひとつ、湊の悪魔が湊を鷲掴みにしてミディアム級に向け、"前に出て"。
 
――――ふたつ、左腕にミディアム級の一撃が当たると同時姿勢制御のための浮遊があって。
 
――――みっつ、独楽のように回転した武から"取り付いていたスモール級が弾き飛ばされて"。
 
――――よっつ、着地した湊の悪魔から、ミディアム級に向け魔力ビームの斉射し"その全てを命中させた"。
 
 
『は………』
 
二人は硬直し、間抜けた吐息のような声をあげていた。
だが即座に我にかえると、湊を再度襲おうとしている残りの天使を駆逐していった。
 
飛び散ったスモール級が集まってくるが、奇襲さえなければ十分に対処可能だ。
 
上官はそれに加わりつつ――――湊が何をやったのかを理解した後、全身に立つ鳥肌を抑えきれないでいた。
 
(やったことは分かる。分かるが――――今日戦場に出たばかりのルーキーが取れる行動か!? いや、熟練のデビルサモナーでも………!)
 
湊が何をやったのか、上官は頭の中で反芻する。
振り下ろされる腕、その威力が最も高くなるのは遠心力と体重が乗った先端部分だ。
ミディアム級の腕から繰り出される一撃は決して甘くはない。
真正面からまともに叩きこまれれば、強靭な装甲でもひしゃげさせられるぐらいの威力がある。
 
湊はそれを受けないためにむしろ踏み込んだ。威力が最大となるのは、遠心力が乗った先、要撃級の正面に立ちそれを受けた時になる。
 
だから先に当たるように、遠心力が乗る前に攻撃の"出"の部分で受け止めたのだ。回避ができないと判断したからこその防御行動だ。
 
大きな威力で殺されるより、小さい威力で損害を最小限に留めたのだ。
それと同時に機体を傾けさせ、姿勢制御による小さな浮遊を行った。
地面に立っている時よりも、宙に浮いている時の方が機体に走る衝撃の力は少ない。
 湊は噴射し宙に浮かび、そして衝撃によって生まれた慣性力を殺さない方向に、独楽のように機体を回転させた。
 
 湊とそれを掴む悪魔に生まれたのは回転により生まれた遠心力。それは、取り付いていたスモール級を強引に振りほどく力となった。竜巻に弾き飛ばされるようにスモール級は飛んで行った。
 
最後まで油断の欠片もなく、着地後には即座に構えは終わっていた。
 
迅速すぎる狙いつけ。鮮やかに、手近の脅威たる要撃級は撃破されていた。
 
こうして言葉にすれば簡単だ。簡単ではあるが、と上官は呻いていた。
 
(普通、あの刹那にそれが出来るか? 一歩間違えれば死ぬ中で、冷静に操作を………いや、恐らくは私でも無理だろうな)
 
 そもそもが規定の範疇にない選択と行動だ。発想そのものがイカれている。
 あんな機動、誰も教えないし、そもそも考えつかない。あれは何度も窮地に追い込まれた事がある者にしかできない、狂人の発想だ。
 
(流石にもう動けないようだが、しかし―――)
 
と、そこで近場にいる残りの天使を全滅させたターラーは、湊に通信を入れる。
 
無事か、応答しろ、と。
 
だが、返ってきたのは何とも異様な音だった。

おろろろロロ、という、基礎訓練時には聞き慣れた声。
 
それは、応答の声ではなく――――嘔吐音だった。

「いや………誰も吐けとは言っとらんのだが…………」
「オロロロォ………すみま、だいじょうぶでそロロロロロロ」
「大丈夫なのは何よりなんだが、こっちまで気分が悪く」
 
が、ここは戦場であるからしていない。当たり前でもあった。
 
一方で上官は、湊の踊るように見事な機動を見せられた後、戸惑っていた。
一連の行動の前に対して感嘆の念を抱くやら、はたまた後のギャップに呆れるやら。
 
同じくして湊の状態を知った二人も、何とも言えない表情になった。
 
『色々と言いたいことはあるけどねえ。いや、こういう時はどんな顔すればいいのか』
『ああ、ほんとに………って勘弁してくれよ。音聞いたらこっちまで吐き気が移ってくる。おい、ミナト、と言ったか。限界そうだが、大丈夫か?』
 
 湊はサムズアップしながら吐いた。
 
『………実に無理っぽいな。ったく、こんな短時間の戦闘で限界たあ、頼りになるんだかならないんだか』
『予備兵科の初出撃だぞ、仕方ないだろう。訓練も完全には終っていないんだ』
『な、は、初めてか!? それで、"アレとコレ"ねえ。この子が生き残って大人になったら色々と伝説になりそうだ』
『見事な吐きっぷりだしな』
『それは置いとけ。その前だよ、肝心なのは。全く、つまらない所に飛ばされたと思ってたけど………面白くなってきたじゃないか』

言いながら、3人は内心で酷く興奮していた。
得体の知れない、大きな何かに包まれる感触をどこかに感じながら
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