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湊は地下通路を使って新橋駅の真下にある国連軍専用駅へやって来た。
天井の高いかまぼこ型ドームの下には新幹線と同じ車両の高速列車が停車している。ホームや天井の照明やベンチなど、明治時代の停車場の雰囲気を漂わせていて、国連軍がかなり前から非常時にも本局と支局を結ぶ手段を準備していたことがわかる。
あらゆる交通機関がマヒしているのにここだけ無事なのは、線路が龍脈の上に建設されているからだ。
イオは物珍しそうに周囲を眺めている。
湊自身も初めて利用するので興味深げに見ているのだが、暢気に見物している時間はない。
「来たか…」
ホームの中央付近に司令官がいた。
「人を待つのは何年ぶりかな」
棘のある言い方ではなく、なぜか楽しそうだ。
「お待たせして申し訳ございません。彼女も同行の意思を示してくれましたので、わたしの判断で彼らの端末に専用回線に登録させていただきました。その手続きで遅くなってしまいました」
「いや、気にするな。こいつらに大阪で迷子になられても面倒だ。お前の判断は正しい。…では出発する」
湊たちは司令部の後に続いて高速列車に乗り込み、一路大阪へと発ったのだった。
電車内では司令官による簡単な講義が行われていた。
「大天使と人間は相容れない関係。奴がどんな手段に出ようとも、我々は全力で戦うまでだ。そのためにも菅野を探し出し、一刻も早く国連軍の機能を万全なものにしなければならない」
「だからこそ東京支局を真琴さんに任せ、自分を大阪へ向かわせるのだということは承知しております。そして次の大天使が出現する場所が大阪であるということも」
湊の言葉に司令官は笑みを浮かべた。
「ほう、そこまで察しがついていたか。その洞察力には感心する。そうだ、2体目の大天使は大阪に現れる。それまでに菅野を探し出せ」
「了解いたしました」
「大阪へ着くまでまだ時間はある。それまでゆっくりと休んでいろ。ドゥベの報告書はあとでかまわぬというのに、お前は夜遅くまでかけて書き上げたらしいな。今朝、司令室の机の上に置かれていた報告書は読ませてもらった。徹夜明けではいざという時に困る。少し寝ておけ」
「はい…ありがとうございます」
湊は立ち上げって一礼すると、少し離れたボックスの1席に腰掛けた。そしてリクライニングシートを深く倒すと、またたく間に深い眠りの中に落ちていったのだった。
「お帰りなさいませ、峰津院局長!」
出迎えた大阪本局の局員たちが一斉に司令官に敬礼をする。
その一糸乱れぬ行動が、本局局員の意識の高さというか、彼らのプライドの表れであると湊には感じられた。そして彼が想像していたとおり、局員の冷ややかな視線が二人に向けられた。
その視線に耐えながら、湊は司令官の斜め後ろの定位置で指示を待つ。
「湊、新田を連れて菅野の捜索にあたれ。会議は15時には終わるだろう、それまでに本局へ戻って来い」
「了解しました」
「ああ、念のために大阪での案内人を用意させた。…どこにいる?」
ヤマトは大阪本局の男性局員に訊いた。
「もう来ているはずなのですが…。どこへ行ったんだ?」
男性局員はホームの周辺をキョロキョロと見回す。
すると彼は視線の先に目的の人物を見つけた。
15・6歳くらいの少年で鋭い目つきをしており、両手をポケットに入れ仁王立ちになっている。
「和久井、遅いじゃないか」
「さっきからおったわ、このボケ」
年上の人間にボケと言い放つ少年。彼は民間人協力者のひとりらしい。
なんだか扱いが難しそうなタイプだと湊は思った。
男性局員の方は怒りもせず、やれやれといった顔で言う。
「じゃあ、和久井、後は頼んだ」
「…ああ」
ひと安心とは言いがたい状況だが、ミヤビは自分たちのために案内人を用意してくれたヤマトに感謝した。
司令官たちが去ったホームには湊とイオ、そしてと和久井少年が残された。
気まずい雰囲気が漂う中、湊が挨拶をした。
「自分はデビルサマナー予備兵科前衛の美鶴湊です。そちらは?」
「俺は和久井啓太。よぉ覚えとけ」
そしてぷいと横を向き、自己紹介しようとしたイオたちを無視し、さらに湊たちを残して歩いて行く。
「ああ、待ってください!」
啓太を追いかけながら湊が言う。
「街を案内してくれるんじゃないんですか?」
するとケイタは振り向きもせずに答えた。
「悪いがヒマやない。お前らと群れる義理もないわ。俺は悪魔を殺せるから国連軍に協力してるだけや」
「……」
「大阪は東京みたいにややこしい街やない。視察したかったら自分らでせぇや。国連軍のおエライさんに連れてこられてきたなら本局の場所くらい知っておるやろ? もしわからんかったら14時半にビッグマン前に来たら連れてったるわ。ほなな。まぁ、悪魔には気ぃつけや」
そして啓太は行ってしまった。唖然とする湊たちを残して。
「す、すごい個性的な人だね」
「イオ、アレは自分勝手って言うんだぜ。民間人だから規律が緩いんだろうな。デビルサモナーの数も最初の攻撃で大きく削られたようだし」
「そうなの?」
心配そうなイオの声に湊は慌てて元気な声を出す。
「心配しなくても大丈夫だ! 黒鉄は強い悪魔だし、翡翠やロードナイトも特性を持った技が使える。そういえばイオが召喚できる悪魔はなんなんだ?」
「えっと白銀っていう悪魔が使えるみたい」
「白銀!?」
驚く湊にイオも驚く。
「何か悪いの?」
「いや! むしろ強い! 黒鉄と双璧を成す強い悪魔の筆頭だ!」
氷属性の翡翠
チェーンで阻害系魔法を使うロードナイト
ドリルで穴を開けるビスマス
熱で敵を溶かす水晶
重力を操る黒鉄
空間を操る白銀
それぞれが特殊能力と個体性能を兼ね備えているが、黒鉄と白銀は例外なく強い悪魔というのが一般的だと話す。
「そ、そうなんだ。なんだか緊張してきちゃった」
「大丈夫。生き残れるさ」
大阪も壊滅状態となっていた。
たぶん名古屋や福岡・札幌といった都市も同様の惨状を呈していることだろう。
瓦礫の山と化した街も、昨日までは大勢の人々で賑わっていたはずだ。
しかし今は人影が殆どなく、きっとどこかの避難所で身を潜めていると思われる。
悪魔が出現して人を襲っているのは東京の状況と変わらないということだ。
しばらく歩いていると湊たちの前方に大きく傾いた大阪城が現れた。
このまま行くと大阪城公園に着くらしい。
湊がそんなことを考えていた時、突然彼女たちの数十メートル前方の道をものすごい勢いで駆け抜けて行くものがあった。
「悪魔!?」
それは人型をしてはいるものの、間違いなく悪魔だ。
ミヤビはとっさに端末をかまえ、悪魔を召喚する。
「来い! 黒鉄!」
「来て! 白銀!」
二人の背後から漆黒と白亜の巨人が現れる
天井の高いかまぼこ型ドームの下には新幹線と同じ車両の高速列車が停車している。ホームや天井の照明やベンチなど、明治時代の停車場の雰囲気を漂わせていて、国連軍がかなり前から非常時にも本局と支局を結ぶ手段を準備していたことがわかる。
あらゆる交通機関がマヒしているのにここだけ無事なのは、線路が龍脈の上に建設されているからだ。
イオは物珍しそうに周囲を眺めている。
湊自身も初めて利用するので興味深げに見ているのだが、暢気に見物している時間はない。
「来たか…」
ホームの中央付近に司令官がいた。
「人を待つのは何年ぶりかな」
棘のある言い方ではなく、なぜか楽しそうだ。
「お待たせして申し訳ございません。彼女も同行の意思を示してくれましたので、わたしの判断で彼らの端末に専用回線に登録させていただきました。その手続きで遅くなってしまいました」
「いや、気にするな。こいつらに大阪で迷子になられても面倒だ。お前の判断は正しい。…では出発する」
湊たちは司令部の後に続いて高速列車に乗り込み、一路大阪へと発ったのだった。
電車内では司令官による簡単な講義が行われていた。
「大天使と人間は相容れない関係。奴がどんな手段に出ようとも、我々は全力で戦うまでだ。そのためにも菅野を探し出し、一刻も早く国連軍の機能を万全なものにしなければならない」
「だからこそ東京支局を真琴さんに任せ、自分を大阪へ向かわせるのだということは承知しております。そして次の大天使が出現する場所が大阪であるということも」
湊の言葉に司令官は笑みを浮かべた。
「ほう、そこまで察しがついていたか。その洞察力には感心する。そうだ、2体目の大天使は大阪に現れる。それまでに菅野を探し出せ」
「了解いたしました」
「大阪へ着くまでまだ時間はある。それまでゆっくりと休んでいろ。ドゥベの報告書はあとでかまわぬというのに、お前は夜遅くまでかけて書き上げたらしいな。今朝、司令室の机の上に置かれていた報告書は読ませてもらった。徹夜明けではいざという時に困る。少し寝ておけ」
「はい…ありがとうございます」
湊は立ち上げって一礼すると、少し離れたボックスの1席に腰掛けた。そしてリクライニングシートを深く倒すと、またたく間に深い眠りの中に落ちていったのだった。
「お帰りなさいませ、峰津院局長!」
出迎えた大阪本局の局員たちが一斉に司令官に敬礼をする。
その一糸乱れぬ行動が、本局局員の意識の高さというか、彼らのプライドの表れであると湊には感じられた。そして彼が想像していたとおり、局員の冷ややかな視線が二人に向けられた。
その視線に耐えながら、湊は司令官の斜め後ろの定位置で指示を待つ。
「湊、新田を連れて菅野の捜索にあたれ。会議は15時には終わるだろう、それまでに本局へ戻って来い」
「了解しました」
「ああ、念のために大阪での案内人を用意させた。…どこにいる?」
ヤマトは大阪本局の男性局員に訊いた。
「もう来ているはずなのですが…。どこへ行ったんだ?」
男性局員はホームの周辺をキョロキョロと見回す。
すると彼は視線の先に目的の人物を見つけた。
15・6歳くらいの少年で鋭い目つきをしており、両手をポケットに入れ仁王立ちになっている。
「和久井、遅いじゃないか」
「さっきからおったわ、このボケ」
年上の人間にボケと言い放つ少年。彼は民間人協力者のひとりらしい。
なんだか扱いが難しそうなタイプだと湊は思った。
男性局員の方は怒りもせず、やれやれといった顔で言う。
「じゃあ、和久井、後は頼んだ」
「…ああ」
ひと安心とは言いがたい状況だが、ミヤビは自分たちのために案内人を用意してくれたヤマトに感謝した。
司令官たちが去ったホームには湊とイオ、そしてと和久井少年が残された。
気まずい雰囲気が漂う中、湊が挨拶をした。
「自分はデビルサマナー予備兵科前衛の美鶴湊です。そちらは?」
「俺は和久井啓太。よぉ覚えとけ」
そしてぷいと横を向き、自己紹介しようとしたイオたちを無視し、さらに湊たちを残して歩いて行く。
「ああ、待ってください!」
啓太を追いかけながら湊が言う。
「街を案内してくれるんじゃないんですか?」
するとケイタは振り向きもせずに答えた。
「悪いがヒマやない。お前らと群れる義理もないわ。俺は悪魔を殺せるから国連軍に協力してるだけや」
「……」
「大阪は東京みたいにややこしい街やない。視察したかったら自分らでせぇや。国連軍のおエライさんに連れてこられてきたなら本局の場所くらい知っておるやろ? もしわからんかったら14時半にビッグマン前に来たら連れてったるわ。ほなな。まぁ、悪魔には気ぃつけや」
そして啓太は行ってしまった。唖然とする湊たちを残して。
「す、すごい個性的な人だね」
「イオ、アレは自分勝手って言うんだぜ。民間人だから規律が緩いんだろうな。デビルサモナーの数も最初の攻撃で大きく削られたようだし」
「そうなの?」
心配そうなイオの声に湊は慌てて元気な声を出す。
「心配しなくても大丈夫だ! 黒鉄は強い悪魔だし、翡翠やロードナイトも特性を持った技が使える。そういえばイオが召喚できる悪魔はなんなんだ?」
「えっと白銀っていう悪魔が使えるみたい」
「白銀!?」
驚く湊にイオも驚く。
「何か悪いの?」
「いや! むしろ強い! 黒鉄と双璧を成す強い悪魔の筆頭だ!」
氷属性の翡翠
チェーンで阻害系魔法を使うロードナイト
ドリルで穴を開けるビスマス
熱で敵を溶かす水晶
重力を操る黒鉄
空間を操る白銀
それぞれが特殊能力と個体性能を兼ね備えているが、黒鉄と白銀は例外なく強い悪魔というのが一般的だと話す。
「そ、そうなんだ。なんだか緊張してきちゃった」
「大丈夫。生き残れるさ」
大阪も壊滅状態となっていた。
たぶん名古屋や福岡・札幌といった都市も同様の惨状を呈していることだろう。
瓦礫の山と化した街も、昨日までは大勢の人々で賑わっていたはずだ。
しかし今は人影が殆どなく、きっとどこかの避難所で身を潜めていると思われる。
悪魔が出現して人を襲っているのは東京の状況と変わらないということだ。
しばらく歩いていると湊たちの前方に大きく傾いた大阪城が現れた。
このまま行くと大阪城公園に着くらしい。
湊がそんなことを考えていた時、突然彼女たちの数十メートル前方の道をものすごい勢いで駆け抜けて行くものがあった。
「悪魔!?」
それは人型をしてはいるものの、間違いなく悪魔だ。
ミヤビはとっさに端末をかまえ、悪魔を召喚する。
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