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24話
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荒子川公園から戻ったミヤビが名古屋支局の司令室で休んでいると、彼女の側へロナウドとジョーが近寄って来た。
ロナウドは紙袋を持っている。
「君の分だ」
ロナウドはそう言って湊に紙袋を手渡した。
「これは?」
「昼飯だ。腹を減らしたままでは、いざという時に困るだろ? 少なくとも悪魔と戦った君にはそれ相応の食料を渡さなければフェアではないからな。俺も鬼じゃないから昼飯抜きで悪魔と戦わせるようなことはしないさ」
湊が中を覗くと、おにぎりがふたつ、筑前煮の缶詰、ペットボトルのお茶が入っている。
「それから君には荒子川で活躍した分のご褒美。ああ、これは国連軍から奪ったんじゃなくて、前に手に入れたやつだ」
ポケットから箱入りのチョコレートを出して紙袋の中に入れた。
「あ、ありがとうございます」
思いがけないことが起きたものだから、湊は戸惑ってしまう。
「ロナウドさんたちもちゃんと食事をするんですよね?」
湊は訊いてみた。
「ああ、もちろんだとも。サマナーである俺たちが戦わなければ、もっと多くの人間が危険に晒されるからな」
「確かに」
湊は自分の努力が無駄ではなかったと感じていた。賛同してくれなくても、他人の意見に耳を貸し、理解をしてくれるということがわかってとても嬉しかった。
「だが、あまりにも日本を軽視し過ぎている」
「つまり物資を渡せということですね?」
「そうだ」
やはりロナウドは湊を使って国連軍と取引をするという計画は変更しないようだ。
「…:仮に物資を手に入れたとして、それをあなたは被災者に全部配布してしまうつもりですか?」
湊はがロナウドに訊く。
「当然だ。必要としている被災者が大勢いるんだぞ。国連軍だけに物資を独占させるものか」
その答えにミヤビはため息をついた。
「物資の中にはジプスの活動に必要ではないと思われるものがいくつもあったということに気がついていないようですね?」
「何だと?」
「食料品や医薬品の他に居住性の高いテントやプレハブ住宅の資材が地下の一番広い倉庫に山と積んであったはずです」
「ああ、そういえばあったな。悪魔や天使との戦いに使うにしては妙だと思っていたが……しかしそれが何だというのだ?」
「この戦いの後に訪れる世界…それがどのような世界かわかりませんが、普通の生活に戻るまでには想像もつかないほどの時間がかかるでしょう。そして生きていく上で必要なのは衣・食・住。衣はともかく、食と住を欠かすことはできません」
そこまで言うと、やっとロナウドは気がついたようだ。
国連軍だけで消費するよりはるかに多い物資。
それはこの試練を乗り越えて生き残った者がさらに生きていくために必要なものが保管されていたということなのだ。
「しかし今この時に食糧を求めている被災者が大勢いるんだ。後のことは後で考えれば良い」
「そうでしょうか? 俺はこう考えます。ここで物資を全部分けてしまえば100人生き延びられるとしましょう。ですがその100人はこの先どれだけ生き残ることができるかわかりません。後で考えれば良いなどと言っていて、何も手に入れることができなければ100人全員が死んでしまいます。ですが国連軍に保管されている物資を温存したことで20人しか生き延びることができなかったとしても、その20人は必ず生き残ることができる。すべての人間を救うことができない以上、最大限に効果のある方法をとるのが当然じゃないですか」
「しかし死んでいく80人と生き残る20人をどう選別するんだ? 弱者には生き残る資格などないというのか?」
ロナウドの語調が強くなる。
「弱者に生き残る資格はないとは言いませんが、その弱者を生かすために誰かが犠牲になるのは明らかです。すでに億単位の人間が死んでしまったことでしょう。世界は滅びに向かって進んでいますが、それを防ぐのが国連軍の使命。そして生き延びた者たちの命を繋ぎ、困難を乗り越えて行かなければならない人類を導くのも国連軍の役割なんです」
湊は真摯に語りかけていく。
「大天使との戦いが終わってからが大事なのだとわかっているからこそ、あなたたちに恨まれ、狙われるほどの大量の物資を保管しなければなりませんでした。なにしろ日本国土の中でもっとも安全な場所が国連軍の本局と支局です。ここにはどんな災害でも耐えうる措置がしてありますから、天使との戦いの後に生き延びた人のための物資を蓄えておけるわけなんです」
「……」
「生きる者と死ぬ者を選別することなど人間には誰にもできません。大天使によるこの試練に耐えて生き延びた者こそ、新たな世界で生きていく資格を得られるのだと俺は考えます。これまで生物はすべて様々な状況において淘汰されて、その中で生き残った個体によって進化をしてきました」
「君の言っていることは正論だ。しかし君には人情というものがないのか? それとも自分が生き残る側の人間だと確信しているからか?」
「俺が生き残る側の人間だとはかぎりません。むしろ大天使との戦いにおいて最前線で戦っているのですから、避難所にいる被災者よりも死ぬ確率は高いはずです。ですが生きようとする意思は誰よりも強く、その意思の力が生きる力になるのだと信じています。何もしないで嘆いているだけの人間にはこの試練を乗り越えて生き残ることなど不可能。逆に自分の持つ力や知恵を活かして行動すれば生き残ることができる可能性は生まれます。死んでいく80人と生き残る20人のどちらになるかは本人次第ということです」
「そうか、だとしても今生きる弱者を生かすために戦いだろう」
ロナウドは紙袋を持っている。
「君の分だ」
ロナウドはそう言って湊に紙袋を手渡した。
「これは?」
「昼飯だ。腹を減らしたままでは、いざという時に困るだろ? 少なくとも悪魔と戦った君にはそれ相応の食料を渡さなければフェアではないからな。俺も鬼じゃないから昼飯抜きで悪魔と戦わせるようなことはしないさ」
湊が中を覗くと、おにぎりがふたつ、筑前煮の缶詰、ペットボトルのお茶が入っている。
「それから君には荒子川で活躍した分のご褒美。ああ、これは国連軍から奪ったんじゃなくて、前に手に入れたやつだ」
ポケットから箱入りのチョコレートを出して紙袋の中に入れた。
「あ、ありがとうございます」
思いがけないことが起きたものだから、湊は戸惑ってしまう。
「ロナウドさんたちもちゃんと食事をするんですよね?」
湊は訊いてみた。
「ああ、もちろんだとも。サマナーである俺たちが戦わなければ、もっと多くの人間が危険に晒されるからな」
「確かに」
湊は自分の努力が無駄ではなかったと感じていた。賛同してくれなくても、他人の意見に耳を貸し、理解をしてくれるということがわかってとても嬉しかった。
「だが、あまりにも日本を軽視し過ぎている」
「つまり物資を渡せということですね?」
「そうだ」
やはりロナウドは湊を使って国連軍と取引をするという計画は変更しないようだ。
「…:仮に物資を手に入れたとして、それをあなたは被災者に全部配布してしまうつもりですか?」
湊はがロナウドに訊く。
「当然だ。必要としている被災者が大勢いるんだぞ。国連軍だけに物資を独占させるものか」
その答えにミヤビはため息をついた。
「物資の中にはジプスの活動に必要ではないと思われるものがいくつもあったということに気がついていないようですね?」
「何だと?」
「食料品や医薬品の他に居住性の高いテントやプレハブ住宅の資材が地下の一番広い倉庫に山と積んであったはずです」
「ああ、そういえばあったな。悪魔や天使との戦いに使うにしては妙だと思っていたが……しかしそれが何だというのだ?」
「この戦いの後に訪れる世界…それがどのような世界かわかりませんが、普通の生活に戻るまでには想像もつかないほどの時間がかかるでしょう。そして生きていく上で必要なのは衣・食・住。衣はともかく、食と住を欠かすことはできません」
そこまで言うと、やっとロナウドは気がついたようだ。
国連軍だけで消費するよりはるかに多い物資。
それはこの試練を乗り越えて生き残った者がさらに生きていくために必要なものが保管されていたということなのだ。
「しかし今この時に食糧を求めている被災者が大勢いるんだ。後のことは後で考えれば良い」
「そうでしょうか? 俺はこう考えます。ここで物資を全部分けてしまえば100人生き延びられるとしましょう。ですがその100人はこの先どれだけ生き残ることができるかわかりません。後で考えれば良いなどと言っていて、何も手に入れることができなければ100人全員が死んでしまいます。ですが国連軍に保管されている物資を温存したことで20人しか生き延びることができなかったとしても、その20人は必ず生き残ることができる。すべての人間を救うことができない以上、最大限に効果のある方法をとるのが当然じゃないですか」
「しかし死んでいく80人と生き残る20人をどう選別するんだ? 弱者には生き残る資格などないというのか?」
ロナウドの語調が強くなる。
「弱者に生き残る資格はないとは言いませんが、その弱者を生かすために誰かが犠牲になるのは明らかです。すでに億単位の人間が死んでしまったことでしょう。世界は滅びに向かって進んでいますが、それを防ぐのが国連軍の使命。そして生き延びた者たちの命を繋ぎ、困難を乗り越えて行かなければならない人類を導くのも国連軍の役割なんです」
湊は真摯に語りかけていく。
「大天使との戦いが終わってからが大事なのだとわかっているからこそ、あなたたちに恨まれ、狙われるほどの大量の物資を保管しなければなりませんでした。なにしろ日本国土の中でもっとも安全な場所が国連軍の本局と支局です。ここにはどんな災害でも耐えうる措置がしてありますから、天使との戦いの後に生き延びた人のための物資を蓄えておけるわけなんです」
「……」
「生きる者と死ぬ者を選別することなど人間には誰にもできません。大天使によるこの試練に耐えて生き延びた者こそ、新たな世界で生きていく資格を得られるのだと俺は考えます。これまで生物はすべて様々な状況において淘汰されて、その中で生き残った個体によって進化をしてきました」
「君の言っていることは正論だ。しかし君には人情というものがないのか? それとも自分が生き残る側の人間だと確信しているからか?」
「俺が生き残る側の人間だとはかぎりません。むしろ大天使との戦いにおいて最前線で戦っているのですから、避難所にいる被災者よりも死ぬ確率は高いはずです。ですが生きようとする意思は誰よりも強く、その意思の力が生きる力になるのだと信じています。何もしないで嘆いているだけの人間にはこの試練を乗り越えて生き残ることなど不可能。逆に自分の持つ力や知恵を活かして行動すれば生き残ることができる可能性は生まれます。死んでいく80人と生き残る20人のどちらになるかは本人次第ということです」
「そうか、だとしても今生きる弱者を生かすために戦いだろう」
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