デビルサマナー

John Smith/ジョン スミス

文字の大きさ
24 / 26

24話

しおりを挟む
 荒子川公園から戻ったミヤビが名古屋支局の司令室で休んでいると、彼女の側へロナウドとジョーが近寄って来た。
 ロナウドは紙袋を持っている。
 
「君の分だ」
 
 ロナウドはそう言って湊に紙袋を手渡した。
 
「これは?」
「昼飯だ。腹を減らしたままでは、いざという時に困るだろ? 少なくとも悪魔と戦った君にはそれ相応の食料を渡さなければフェアではないからな。俺も鬼じゃないから昼飯抜きで悪魔と戦わせるようなことはしないさ」
 
 湊が中を覗くと、おにぎりがふたつ、筑前煮の缶詰、ペットボトルのお茶が入っている。
 
「それから君には荒子川で活躍した分のご褒美。ああ、これは国連軍から奪ったんじゃなくて、前に手に入れたやつだ」

 ポケットから箱入りのチョコレートを出して紙袋の中に入れた。
 
「あ、ありがとうございます」
 
思いがけないことが起きたものだから、湊は戸惑ってしまう。
 
「ロナウドさんたちもちゃんと食事をするんですよね?」
 
 湊は訊いてみた。
 
「ああ、もちろんだとも。サマナーである俺たちが戦わなければ、もっと多くの人間が危険に晒されるからな」
「確かに」
 
 湊は自分の努力が無駄ではなかったと感じていた。賛同してくれなくても、他人の意見に耳を貸し、理解をしてくれるということがわかってとても嬉しかった。
 
「だが、あまりにも日本を軽視し過ぎている」
「つまり物資を渡せということですね?」
「そうだ」
 
 やはりロナウドは湊を使って国連軍と取引をするという計画は変更しないようだ。
 
「…:仮に物資を手に入れたとして、それをあなたは被災者に全部配布してしまうつもりですか?」
 
 湊はがロナウドに訊く。
 
「当然だ。必要としている被災者が大勢いるんだぞ。国連軍だけに物資を独占させるものか」
 
その答えにミヤビはため息をついた。
 
「物資の中にはジプスの活動に必要ではないと思われるものがいくつもあったということに気がついていないようですね?」
「何だと?」
「食料品や医薬品の他に居住性の高いテントやプレハブ住宅の資材が地下の一番広い倉庫に山と積んであったはずです」

「ああ、そういえばあったな。悪魔や天使との戦いに使うにしては妙だと思っていたが……しかしそれが何だというのだ?」
「この戦いの後に訪れる世界…それがどのような世界かわかりませんが、普通の生活に戻るまでには想像もつかないほどの時間がかかるでしょう。そして生きていく上で必要なのは衣・食・住。衣はともかく、食と住を欠かすことはできません」
 
 そこまで言うと、やっとロナウドは気がついたようだ。
 国連軍だけで消費するよりはるかに多い物資。
 それはこの試練を乗り越えて生き残った者がさらに生きていくために必要なものが保管されていたということなのだ。
 
「しかし今この時に食糧を求めている被災者が大勢いるんだ。後のことは後で考えれば良い」
「そうでしょうか? 俺はこう考えます。ここで物資を全部分けてしまえば100人生き延びられるとしましょう。ですがその100人はこの先どれだけ生き残ることができるかわかりません。後で考えれば良いなどと言っていて、何も手に入れることができなければ100人全員が死んでしまいます。ですが国連軍に保管されている物資を温存したことで20人しか生き延びることができなかったとしても、その20人は必ず生き残ることができる。すべての人間を救うことができない以上、最大限に効果のある方法をとるのが当然じゃないですか」
「しかし死んでいく80人と生き残る20人をどう選別するんだ?  弱者には生き残る資格などないというのか?」

ロナウドの語調が強くなる。
 
「弱者に生き残る資格はないとは言いませんが、その弱者を生かすために誰かが犠牲になるのは明らかです。すでに億単位の人間が死んでしまったことでしょう。世界は滅びに向かって進んでいますが、それを防ぐのが国連軍の使命。そして生き延びた者たちの命を繋ぎ、困難を乗り越えて行かなければならない人類を導くのも国連軍の役割なんです」

 湊は真摯に語りかけていく。

「大天使との戦いが終わってからが大事なのだとわかっているからこそ、あなたたちに恨まれ、狙われるほどの大量の物資を保管しなければなりませんでした。なにしろ日本国土の中でもっとも安全な場所が国連軍の本局と支局です。ここにはどんな災害でも耐えうる措置がしてありますから、天使との戦いの後に生き延びた人のための物資を蓄えておけるわけなんです」
「……」
「生きる者と死ぬ者を選別することなど人間には誰にもできません。大天使によるこの試練に耐えて生き延びた者こそ、新たな世界で生きていく資格を得られるのだと俺は考えます。これまで生物はすべて様々な状況において淘汰されて、その中で生き残った個体によって進化をしてきました」
「君の言っていることは正論だ。しかし君には人情というものがないのか? それとも自分が生き残る側の人間だと確信しているからか?」
「俺が生き残る側の人間だとはかぎりません。むしろ大天使との戦いにおいて最前線で戦っているのですから、避難所にいる被災者よりも死ぬ確率は高いはずです。ですが生きようとする意思は誰よりも強く、その意思の力が生きる力になるのだと信じています。何もしないで嘆いているだけの人間にはこの試練を乗り越えて生き残ることなど不可能。逆に自分の持つ力や知恵を活かして行動すれば生き残ることができる可能性は生まれます。死んでいく80人と生き残る20人のどちらになるかは本人次第ということです」
「そうか、だとしても今生きる弱者を生かすために戦いだろう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...