デビルサマナー

John Smith/ジョン スミス

文字の大きさ
26 / 26

26

しおりを挟む
名古屋支局内に警報が鳴り響く中、第三の大天使が現れた。
第一大天使や第二大天使はまだ生物らしき姿であったが、この第三代天使はその形状からして生物には見えない。

ふたつの重なり合う輪の本体に水晶かそれに類似する鉱石のようなものがぐるっと囲んでいるのだ。しかしそれは紛れもなく7体の神の先兵のひとつである。
 湊の黒鉄とロナウドの水晶が最前線に立ち、さらに名古屋支局奪還作戦のために来ていた民間人協力者である鳥居純吾と伴亜衣梨が参戦。

東京・名古屋の国連軍の共同戦線によって立ち向かうが、第三大天使はぐるぐると回転し、内円と外円を合体・分離しながらさまざまな攻撃をしかけてくる。
おまけに合体時には人間側の攻撃は受け付けないという強敵だ。

次第に人間側の戦力は削られ、国連軍たちは次々と倒れていった。
ジュンゴの翡翠とアイリのロードナイトは奮戦するが、彼らは明らかに疲弊している。
ロナウドも死力を尽くして戦うが、悪魔だけでなく悪魔使い本人たちも体力を消耗していった
 
「このままじゃこっちが消耗するばかり。奴の力を削ぐ方法はないのか!?」
 
 湊と黒鉄もかなり疲れている。頭の回転も鈍り、第三天使の攻撃をかわすだけで精一杯だ。
 
ほんの一瞬だった。
湊の脳裏に僅かに「もしダメだったら」という不安が掠めた次の瞬間、黒鉄が第三大天使の放つビームに貫かれてしまったのだ。
断末魔の悲鳴のような声を上げた黒鉄は消えてしまう。
そして携帯の中で「修復中」という表示が悪魔リストの黒鉄の上に現れた。
黒鉄が使えなくなったことで、人間側の戦意はガタ落ちだ。
 
「くそッ」
 
ミヤビはビャッコの頭を撫でると、ビャッコは「承知した」とばかりにフェクダに襲いかかって行った。しかし物理攻撃・魔法攻撃とも受け付けない第三大天使にはまったく効果がない。
有効な方法は見つからず、仲間たちは次々に倒れていく。
 
その時だった。新たな悪魔が現れたのだ。
それと同時に若い女性の声がミヤビの耳に届いた。
 
「わたしに任せて!」
 
声の主は柳谷乙女。国連軍のの医療スタッフだ。
名古屋支局が占拠された時に人質になっていた局員のひとりで、本来なら彼女は司令室の外で悪魔の侵入を防いでいるはずだった。
彼女の使役している悪魔は翡翠。しかしレベルが低い。
湊たちが手こずる第三天使に対して戦闘力の低い翡翠では敵うはずがない。
しかし翡翠は予想以上の力を発揮した。
 翡翠が手にした氷の凍結攻撃を行うと相手の力が弱まっていったのだ。
 
「わたしの翡翠には弱体化のスキルを覚えさせておいたのよ」
 
オトメは自信満々の顔で言った。
たしかにどんな攻撃も利かない相手だが、弱体化すれば人間側の攻撃も届くようになる。しかし第三大天使も必死であり、力が残っているうちにと次々にビームを発射した。
 ロードナイト、翡翠、水晶と順に消滅していき、最後に残ったのは乙女の翡翠だけだ。そして第三大天使は翡翠を消滅させた次の瞬間、湊に照準を向けた。
これで人間側の悪魔はすべて第三大天使に全滅させられてしまった。
すべて修復中となり、再び召喚できるようになるまで時間がかかる。
第三大天使も虫の息だが、人間側に攻撃手段がないとなればどうしようもない。
そのフェクダは最後の一撃として、エネルギーを溜める。
 
「湊くん、逃げろ!」
 
 湊の悲痛な叫びが耳に届いた。しかしミヤビは意外にも冷静でいた。死を目前にしながら、彼女は驚くほど平常心でいる。
 
(こんな、ここで終わりなのか、こんな、何もできないまま)
 
 最後の抵抗として睨みつけることしかできない。その瞬間湊と第三大天使の間の床に魔方陣が浮き上がり、その中から最強の悪魔が現れた。
 
「鋼……!?」

 鋼は空間操作能力と重力操作能力、更には増幅機関を備えた最強の悪魔だ。中世鎧騎士のような鋼色の光沢が鈍く光る。

 この名古屋支局に現れるはずのない鋼が出現したのだ。その場にいた全員がありえないといった顔をし、ある一点に視線が集中した。
 それは第三大天使のビームによって天井が破壊されて地上に大きな穴ができている場所。
日が完全に沈み、空には青白い大きな月が昇っている。
その月をバックにして立つ人影は総司令だ。
 
「総司令?」
 
 大阪本局にいるはずの総司令が目の前にいた。湊はそんな疑問を抱くが、今はそれどころではない。
 最強の助っ人が現れたことで、周囲の空気が一変した。第三大天使は攻撃目標を鋼に変更し、ビームを発射する。
 しかし鋼は正面から受け止めてブラックホールが飲み込む。
 
「国連軍の秘蔵か」
 
ロナウドは呟くような小さな声で言うが、それは総司令の耳に届いていた。
 
「違う。これは私個人の力だ」
 
鋼は右手に重力球を生み出し、それを砲撃する。第三大天使を完全に消滅させた。
いくら弱っていたとはいえ、湊たちが何人もかかって倒せない大天使をたったひとりで倒してしまう大天使にその場にいた全員が驚愕した。
 
湊が総司令を見上げると、彼と視線が合った。
 
「うむ、貴重な若者が無事で良かった」
 
冷淡だが、その中にミヤビが無事であったという安堵感が込められた言葉だった。
 湊はそれだけ言って踵を返す。

「湊くん、君には話がある。ついて来い」
 
総司令はその場から離れようとするが、湊が呼び止めた。
 
「お待ちください。どんな処分であろうとも厳粛に受け止めますが、その前にやらなければならないことがあります」
「何をする気だ?」
「名古屋支局をこのままにしてはおけません。最優先は負傷者の手当と支局の復旧です。人員が足りませんから、わたしも作業に加わりたいんです」
「……好きにしてくれ」
 
少し考えてからそう言い放つと、総司令はひとりで立ち去ってしまった。
 
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...