異能持ち転生者達が強すぎますわ!〜中世ヨーロッパファンタジー世界の現地民を助けて〜

John Smith/ジョン スミス

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「うちをテーマーパークか何かと勘違いしたのか、昨晩未明に訪れた。来訪理由を丁寧に尋ねたのだが、同学年のクラスメイトに『街に蔓延る悪の魔法使いを倒して』と唆されたそうだ」
 
 ソイツの生死は最早聞くまでもないな。ご愁傷様として言い様が無い。楽に死ねた事を祈るばかりだ。
 しかし、同学年のクラスメイトだと……? おかしい。『転生者』は転校生十人だけの筈。転校した直後に関わらず『魔術師』の存在を知っている者がいるのだろうか?
 いや、そもそも前提からおかしいのでは無いだろうか?
 此方の疑問は余所に、『魔法使い』は構わず話を続けた。
 
「――『柴犬』。事前調査では『転生者』では無かった筈だが、今現在では『眼』と『耳』を送っても即座に潰される始末だ。実にきな臭い、年不相応の少女だと思わないか?」
 
 その『魔法使い』の口振りから、柴犬なる人物が『転生者』なのではと疑っているのは間違い無いだろう。
 というよりも、全てを把握している『魔法使い』が発見出来てなかったイレギュラーだと? きな臭い処の話じゃない。見えている核地雷じゃないだろうか?
 
 ……あ、やられた。これは聞いてはならない話だった、と今更ながら猛烈に後悔する。
 
 背筋に冷や汗が止め処無く流れ落ちる。そして『魔術師』の顔を改めて恐る恐る窺う。
 
 ――『魔法使い』は愉しげに笑っていた。袋小路に迷い込んだ哀れな獲物に最後の一撃を加えようとする狩人のように。
 目が見えない癖に、まるで此方の心理状況を全て見透かされているかのような錯覚すら感じる。嫌な感覚だった。精神的な圧迫に気負されてか、掌から滲み出る汗が気持ち悪い。
 
「彼女に関する情報を高く買おう。どんな些細な事でも良い。彼女について調べて欲しい。――君には期待しているよ、ルナティック・ササキ」
 
 ◆
 
 
「無料ほど高く付く買い物は無い。今後の教訓にする事だな」
 
 昨日の店で待ち合わせ、冷凍マグロに全部包み隠さず報告する。飛び切り厄介事を押し付けられた事も含めてだ。
 二千万の札束を渡し、手早く数え終わった後、冷凍マグロは札束を一つ抜き取ってオレの前にぽんと置いた。
 
「この百万は君の取り分だ。受け取れ」
「子供のお使い如きでそんなに貰って良いのか?」
「誰もやりたがらないからな。好き好んで『魔法使い』と相対したい奴はいない。……正確に説明すると、50%が組織の取り分で上納、『魔女の卵』を入手した者に45%、配達人に5%だ」
 
 ……まぁあの『魔法使い』に二度と遭いたくない気持ちは同意する。
 けれど、自分はあの『魔法使い』と何度も遭う事になるんだろうなぁ、と今から憂鬱な気分になる。
 それもその回数を自分で増やしたのだ。自業自得とは言え、中々に笑えない。
 
「……さて『魔法使い』の新たな依頼だが、相変わらず厄介極まるぞ」
 
 オレンジジュースを飲みながら、冷凍マグロは真剣に語る。
 にしても、アルコールの類は飲めないのだろうか? オレンジジュースじゃ今一格好が付かないと思いながら砂糖ありありのコーヒーを飲む。
 
「あの『魔法使い』はどうやって街の状況を把握していると思う?」
「……『眼』と『耳』になる使い魔を大量にばら撒いているのか?」
 
 小説だと動物型の簡易使い魔とかで偵察とかやっていたよなぁ、と思いながら冬川雪緒が頼んだ枝豆を摘む。結構美味しい。
 
「恐らくな。そしてそれは手段の一つに過ぎない。我々の想像すら付かない方法で、この何気ない会話も奴には全て筒抜けという可能性がある」
 
 情報を制する者が世界を制する。誰よりも苦心しているのはあの『魔術師』なのだろう。厄介な奴に眼を付けられたものである。
 
「『柴犬』はその情報網を掻い潜る能力の持ち主であり、擬態能力に長けた人物だろう。今の今まで『転生者』だと発覚しなかった高町なのは世代、最大級のイレギュラーの内情を探るんだ。覚悟しろ」
「言われなくても、今回のがどれだけヤバいヤマなのか実感しているさ」
 
 自分から首を突っ込んだから、もう覚悟完了済みだ。それに自分の身近に潜む巨悪を無視するなんて、自分にはどう頑張っても出来ないだろう。
 前々世からの性分とは言え、我ながら度し難いものである。
 
 ……『魔法使い』? あれは巨悪どころの話じゃない。隠れボスとか負け確定イベント用ボスとかそういう類の無理ゲーである。
 
 それにあれはこの街にとって『必要悪』だろう。何となくだが、そんな気がする。
 意図しているかしてないかは別だが、『魔法使い』の利益は基本的に海鳴市にとっても利益となる。と、不確かな目測を付けておく。
 
「生憎と我等の組織に小学生は君一人だ。校内でのバックアップは期待するなよ。――ターゲットと二人になる状況を間違っても作るなよ。戦闘に自信があるのなら、別だがな」
「……おいおい、小学生を直接嬲って情報聞き出せって言うのかよ」
「逆にその立場になる可能性があると言っている。正真正銘の規格外だ、ミス一つで死にかねないぞ」
「……解っているよ。同じ小学生なんていう甘い認識で言ったら即座に死にそうな事ぐらい、さ」
 
 表情には欠片も出さないが、本気で心配してくれている冷凍マグロの親切さが身に染みる。これが仁義って奴なのかねぇ? ならオレも近い将来、親分とか言って慕った方が良いのだろうか?
 
「あぁ、そうそう。君の前任者から『絶対に死ぬなよ。死んだらオレがまたあの『魔法使い』の処にいかなきゃいけないじゃないか!』と、有り難い応援メッセージが届いている」
「何処も有り難くねぇ!?」
 
 内心で褒めた傍からこれである。空気が読めるのだか、読めないのだか。
 
「にしても今回は『魔法使い』にまんまとやられた感が強いなぁ。何かアイツの弱味とか握ってないの?」
「……聞きたいか?」
 
 物凄く微妙な表情しながら尋ねやがった。多分参考にならないだろうが、一応頷いて聞いてみる事にする。
 
「――『魔法使い』は生後間もなく捨てられた孤児だ。生まれた直後に医師を一人焼き払ってな、両親からは忌み子扱いで『教会』に投げ捨てられたそうだ」
「医師を? 何でまたそんな事を……?」
「恐らくは正当防衛だろう。その産婦人科の医師の来歴を調べたが、妙なほど生後間もない赤子が不審死している。これは推測の域が出ないが、その医師は転生者で、転生者らしき赤ん坊を片っ端から間引いていたんだろうな」
 
 ……うわ、其処までするのかよ、と思えるような悪魔の所業だ。
 実際にその時『魔法使い』が焼き殺してなければ今尚間引きが続けられたという訳か。ぞっとしない話である。
 そしてこの話で重要なのは『魔法使い』が『教会』の孤児だったという事か。表立って対立していないのはそれが最大の理由なのだろうか?
 
「……? それが何で弱味なんだ?」
「まぁ焦るな、話はこれからだ。その数年後『魔術師』を捨てた夫婦の間に女児が産まれてな、この少女は大切に育てているそうだ。――その家庭に直接訪ねる事は無いが、その家だけ『魔法使い』の監視は目に見えるほど異様に厳重なんだよ」
 
 意外な事実である。捨てたのだから恨みこそしても、逆に厳重に保護しようとする気になるとは、あの『魔術師』らしくない。
 意外な一面、という奴なのか?
 
「へぇ? 捨てられたのに関わらず、意外と家族思いなのか? それとも自身に関わる事で巻き込まれないようにする最低限の配慮か?」
「オレはそうとは思えないな。その監視は『外敵』を警戒したというよりも、むしろ『中』を警戒しているように思えたしな」
 
 ……ん? 『中』だと? それは両親というよりも、その後に生まれた『妹』を警戒しているという事なのか?
 
「……おいおい、一気にきな臭くなったな。その女児ってのは転生者なのか?」
「さぁな。今の処、そういう素振りは皆無だがな。高町なのは世代にも誰からの眼も欺いていた化物が居たんだ。そういうのがもう一人居ても然程不思議ではあるまい」
 
 一人いるなら他にもいるという考えには納得だが、そんな化け物じみた奴が何人もいるとは精神衛生上考えたくもない。
 
「つーか、それ弱味か? どう見ても見える地雷にしか思えないんだが」
「踏み抜いてみるまでは存外解らぬものさ、実物なんてものは。まぁ自分で試してみる気が起こったらいつでも言ってくれ。骨を拾う準備ぐらいはしてやる」
「だーかーらー! いつからオレはそんな自殺志願者になったんだよォ――!?」
 
 結局、その話はまるで為にならなかったのだが、不思議と脳裏の片隅にこびり付くように残ったのだった。
 その後の会話で、本当に脳裏の片隅に放り投げられる事となるが――。
 
 
「――本当に弱味を握りたいのならば、その者の前世の『死因』を突き止めれば良い。此処まで言えば『三回目』のお前には解るだろう?」
 
 
 今までのが全て冗談だったと思えるぐらい暗く沈んだ口調で、冷凍マグロは此方の眼を射抜いた。
 弛緩していた空気が明らかに張り詰めた。心当たりがある、などという話ではない。心臓が引き裂かれそうになるほど重要な事項だった。
 
「……その様子ではお前も覆せなかったようだな。我々転生者の死因は『一回目』でほぼ決定する。一度辿った結末だ、生半可な行動では変えれない。第三者の、より強い方向性に歪められたのならば別だがな」
 
 帰り支度をしながら、冷凍マグロは淡々と述べる。無表情が板に付いているこの男にしても、この話題は触れたくないものだったらしい。
 
「――『結末』は変えれない、か」
 
 彼が帰った後も、暫く何か行動する気にもなれなかった。今まで必死に蓋を締めて、考えないようにしていた。
 『一回目』に至った結末は、形を変えて『二回目』の結末となった。細部は違えども、同じ結末だったのは確かだ。
 
 ならばこそ、これは他の転生者にとっても不可避の条理。同じ条件、同じ結末を用意してやれば、如何なる転生者も呆気無く破滅するに違いない。
 
「……迂闊な事を言ったのはオレか」
 
 つまり、これは冷凍マグロからの得難い諫言。他の転生者の弱味を探るという事は正真正銘の『宣戦布告』に他ならない。
 それを履き違えたまま、勘違いしたまま、魑魅魍魎の化物どもとぶち当たって何も解らずに破滅する処だったという訳か。笑うに笑えない状況である。
 
(――『一回目』も『二回目』も同じ破滅だった。ならば『三回目』も同じなのかな……?)
 
 非常に憂鬱だと項垂れながら、冷たかった筈のアイスコーヒーを口にする。
 温くなって微妙な温度になったコーヒーは死ぬほど不味かった――。
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