異能持ち転生者達が強すぎますわ!〜中世ヨーロッパファンタジー世界の現地民を助けて〜

John Smith/ジョン スミス

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 今度は興味津々と言った具合に話に食いついてくる。今一彼女の人物像が掴めない。
 冷徹無比な悪女かと思いきや、今みたいに童女のような反応も返す。何方も彼女の一面という事なのだろうか?
 
「今まで一度も考えた事の無い話題だな。あれか、一番強くて運が良くて格好良くてモテモテとかそんなもんか?」
 
 ドラゴンボールの孫悟空、ラッキーマン、数多のギャルゲー主人公を適当に思い浮かべながら返すと――柴犬は物凄く不機嫌そうに口を尖らせて沈黙する。
 無言の抗議である。元が美少女なだけに様になっていて恐ろしい。
 茶化す場面では無かったようだ。少しだけ反省する。
 
「解った解った、真面目に考えるからそんな顔するな。――そうだなぁ、『異常』である事かな?」
「ほほう、その心は?」
「平凡な奴では務まらない事は確かだ。異彩を放つ何かを持っているというのは、他人とは外れた部分を持ち合わせているという事になるんじゃないか?」
 
 こういう主人公と言えば『HUNTER X HUNTER』の『ゴン』とかが当て嵌まるんじゃないだろうか?
 あれは一見して正統派な主人公だが、内面は一番イカれている代表例である。
 
「面白い意見ねぇ。他の人間より優れた部分を『異常』呼ばわりかぁ。中々洒落ているね」
「そういうお前はどうなんだ? 人に聞くからには自らの解答ぐらい用意してるんだろう?」
 
 とりあえず、適当に話題提供、話を繋げながら相手の性格・嗜好などを探っていく事にしよう。
 こういう他愛無い会話に重要な要素は含まれている事だ。気づくか気づかないかは別次元の問題だが。
 
「その物語に対する『解決要素』を持つ事が『主人公の条件』かな。強さは必要無いし、異性を惹き付ける何かも必要も無い。物語という立ち塞がる『扉』の前に『鍵』を持っていれば良い」
「何だかかなりメタ的な要素だな。……その定義からすると『この世界』の主人公は誰になるんだ?」
 
 巻き込まれ型の主人公を全否定する身も蓋も無い定義である。
 でも、その手の主人公は読者と近い立場を取る事で物語に感情移入させる目的なのが多いか。
 
「この物語は主人公が不在でも勝手に解決する。故に主役という駒は実は不在なのよ。彼女の役割は解決が約束された舞台を踊るだけ――『道化』だね」
 
 清々しいまでに良い笑顔である。将来、こういう笑顔をする女性には金輪際近寄りたくないものである。
 
「そんな舞台だからこそ、舞台裏で蠢く根暗な『指し手』が好き勝手に暗躍出来るのよ。チェスの盤上のように物語を見立て、複数のプレイヤーが同時進行で手を打って状況を動かす。中には一人で勝手に動く駒もあるけどね」
 
 そして柴犬は「そういう奴に限って戦術で戦略を引っ繰り返すイレギュラーだったりするんだけどねぇ」と愉しげに付け加える。
 そんな『コードギアス・反逆のルルーシュ』に出てくる『枢木スザク』みたいな厄介な転生者が実際に居るのだろうか?
 
 ――さて、彼女の言い分は存分に聞いた。
 それで溜まった憤慨を一気に晴らすべきである。
 
「――お前等にとって、人の命とは何なんだ? どの程度まで軽く映っているんだ?」
「人の命なんて単なる消耗品よ。当然、他人も自分も等しくね」
 
 予想通りの言葉にぐぅの音も出ない。机の下に隠した握り拳に爪が食い込む。
 こんな遊び感覚で生命を散らした者がいるなど、遣る瀬無い。
 柴犬は挑発的な笑みを浮かべる。今の自分の正当な怒りが、さも滑稽に映ったらしい。
 
「――私の行いは間違い無く『悪』よ。これから積極的に事を起こすだろうし、犠牲になる人も増えるだろうね。これは呼吸をするかのように娯楽を求める行為、止めたら窒息死しちゃうわ」
 
 ――やはり、彼女・柴犬とは殺し殺される局面まで行くしかないらしい。
 ある種の覚悟をした瞬間、柴犬さんは溜息を吐いた。まるで子供の理不尽な怒りに対応する腐れた大人のような不逞な尊大さで。
 
「そうね、此処で貴方に敵対行動を取られ、直接対決になるのは今現在の状況下では望ましくないわ。命乞いの算段でもしようかしら?」
 
 くるくると自身の前髪を指先で弄りながら、彼女は余裕綽々に笑った。
 
 ――それは自信満々の、一片の迷いも無い、不敵な微笑み。
 
 殺し合いをする寸前まで此方の感情を悪化させておいて、それすらも彼女にとっては遊び感覚なのだろうか? 非常に忌まわしく思う。
 この女は此方の感情の動きを全て理解し、把握した上で嘲笑ってやがる……!


「君の価値が『魔法使い』に高く評価されているのは私の『当て馬』として非常に優秀だから。私と『魔法使い』が相争う最中は余り失いたくない手駒だろうね。それじゃ早期に決着が付いてしまえば? 君は『魔法使い』にとっていつでも使い捨て可能の捨て駒まで落ちるし、私にとっては敵対者の残り香として直接的にしろ間接的にしろ排除に掛かるだろうね」
 
 彼女の口車に乗るつもりは一切無いが、それはあの『魔法使い』の『使い魔』が救援に来るという異常事態についての明確な解答に他ならなかった。
 そういう目的であれば、ある程度は納得が行く。あの状況では傍観が最善だった筈、それなのに労を要して介入してまで助けた理由があったと考えるべきだ。
 それが彼女の言った事であると断定するのは危険極まる話であるが――。
 
「君自身の生存率を高めるのならば、私と『魔法使い』の暗闘が継続中の方がむしろ望ましいという事さ。君としても、ただでさえ危険の多い原作中に危険を倍増させる行為は控えたいでしょ?」
 
 柴犬は此方の心の中に僅かに生じた葛藤の芽を育むように、親切丁寧に補足説明する。
 その危険度を更に高めている張本人から言われれば説得力は倍増だな、と心の中で猛烈に毒付く。
 
「そして短絡的に此処で決着を付ける行為は非常に愚かだね。まず一つに情報アドバンテージが段違いである事。私は君の『能力』が風を操る類のものだと推測出来ているのに、私の能力に至っては情報が皆無。でもまぁ『魔法使い』自身は此処で激突して私の能力を確かめられるからそれで良いと考えているだろうね――オーガニックの時とは違って、援軍は来ないという事さ」
 
 ――そう、問題はまさにそれだ。
 
 オレは彼女の目の前では『ステルス』を使っていない。ただ『能力』を飛ばしてオーガニックを力任せに殴り飛ばしたのみである。
 それなのにオレの能力が風を操る類であると断定しているのは正体不明の察知能力及び監視能力の高さが此方の予想を遥かに上回っていた事の証明だ。
 
(最大の泣き所は、奴の戦闘能力の有無が欠片も解らない事。全てハッタリだとしたら称賛物だが、此方の『ステルス』を考慮した上で勝てると踏んでいる……)
 
 ス能力の全てを晒した覚えは無いが、秘めたる能力が未知数である以上、敗北の可能性は常に濃厚に付き纏う。
 いや、敗北の可能性など戦闘をする限り大小問わずに生じるものだ。今はこれの危険度から察するに、早急に排除した方が良いとオレの勘が警鐘を鳴らしている。
 
 彼女は残念ながら存在するだけで犠牲者を量産する正真正銘の『悪』だ。許されざる存在である。
 
「――凄いね、自分の生命と街の平穏を天秤に掛けて迷えるなんて。献身的だねぇ、まるで本物の『正義の味方』みたい」
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