異能持ち転生者達が強すぎますわ!〜中世ヨーロッパファンタジー世界の現地民を助けて〜

John Smith/ジョン スミス

文字の大きさ
16 / 26

16

しおりを挟む
 目覚まし時計が鳴る前に携帯が鳴り響く。
 眠気半分、不機嫌全開で着信ボタンを押す。相手が冷凍マグロでなければそのまま眠っている処である。
 
「――ふぁあ、朝っぱらから何だよ? 何かあったのかぁ……?」
『昨晩未明に『万能の願望機』が『王都』に落ちた』
「……おぉ、やっと原作始まるのか」
 
 確かに重大な事だ。魔女殲滅戦を行なってから二日後の出来事である。
 昨日落ちたという事は今頃『来訪者』が『万能の願望機』のモンスターにぶちのめされて今日の放課後に『主人公』に拾われる予定という事だ。
 眠気で微睡んでいる思考に活を入れて真面目に聞こうとする。
 
『ただし、一人に三個ずつだ』
「……え? ちょっと待ってくれ。それどういう事だ? ちょーっと、いや、まるで意味解らないんだけど?」
 
 余りにも唐突な文脈に思考が追い付かない。
 三個? それが『万能の願望機』の数ならば、一人にとは一体何の事だ? まるで特定の人物に三個ずつ配布されたかのような言い方である。意味不明である。
 
『……『万能の願望機』は七名の『マスター』の腕に三画の聖痕として刻まれた。……此処まで言えば解るだろう? 『令呪』としてだ』
「……はぁ!? おいおいおいおい、一体何が始まるんだよ!?」
 
 何で『万能の願望機』から、全く違う物語の単語に派生するんだ!?
 その『令呪』とはとある戦争において特殊な『使い魔』に対する絶対的な命令権であり、一画一画が膨大な魔力の結晶だったりする。
 混乱の極みに達する中、その惨状を予め想定してのか、冷凍マグロは重々しく告げた。
 
『――『王都』で行われる史上初の『聖杯戦争』だろうな。第二次が無い事を祈るのみだ』
 
 
 07/第一次聖杯戦争
 
 
 ――『聖杯戦争』、それは『聖杯』と思われる何かが発見された際に行われる争奪戦全ての総称であり、『聖杯』がとある宗教由来の本物か偽物かは大した問題では無い。
 では『聖杯』とは何か。何処ぞの世界的な宗教の聖遺物の一つであり、何故かは知らないが、良く『万能の願望機』となっている。
 逆説的に言うのならば『万能の願望機』であるならば、それらは全て『聖杯』であると曲解出来る。詳しくは『Fate』を参考にしてくれ。
 
『とりあえず、現状で入手した情報を確認する』
 
 そんなものが欠陥品の願望機である『万能の願望機』を利用して発生した異常事態の経緯を冷凍マグロは淡々と説明していく。
 
『判明しているマスターは二人。一人は以前に話した『反魔法使い同盟』の盟主だった男で『ランサー』を召喚したそうだ』
「へぇ、確か『魔法使い』に恨み骨髄なんだろう? サーヴァントを召喚したから調子に乗って『魔術工房』を攻めたりしないのかねぇ?」
『……残念だが、既に侵攻して返り討ちに遭っている』
 
 ――え? 展開早くね? ページを開いたら次の瞬間には首もがれていた奴並の端折っぷりじゃね? 救援を送って助かるかと思ったら後ろから頭部を銃で撃たれた並の虚無感である。
 
「……ごめん、良く聞こえなかった。というか理解出来なかった。もう一回言ってくれる?」
『昨晩未明の内に『魔道工房』に攻め入り、呆気無く敗北して『令呪』を略奪され、『ランサー』は『魔法使い』に主替えしたようだ。その際に『令呪』を一画消費している。――まぁ予想となるが『主替えに賛同しろ』と原作通り命じられたんじゃないか?』
「死者に鞭打つようで悪いけどさ、阿呆じゃね?」
 
 呆れて物が言えない。それは冷凍マグロ自身も同じようだった。
 
『救いようのない馬鹿なのは確かだな。一度情けで見逃されたとは言え、一度捕虜の身になっているんだ。『暗示』だの『契約(ギアス)』だの、幾らでも仕込めるだろう』
 
 あの『魔法使い』の事だ。逆らった瞬間に詰むような極悪な仕掛けを施していたのだろう。具体的には『キャスター』が寺院の人に仕込んだような人為的で後天的な絶対命令権とか。
 
『二人目は言うまでもなく『魔法使い』だ。この聖杯戦争の首謀者にして黒幕なのは間違い無いだろう。最悪な事に未だに自分のサーヴァントは召喚していない』
「……うわぁ、最悪じゃんそれ。『ランサー』が倒された時点で自分のを召喚出来るし、魔力消費も最小限で済むんじゃ……」
 
 この時点で『魔法使い』が勝利者に限り無く近い位置にいる事は確かだろう。
 原作通りに『ランサー』を斥候に使い潰して本命の『サーヴァント』で潰すという戦法も取れるという訳だ。
 ……しかし、いつも『ランサー』というのはこんな損な役割しか与えられないのだろうか? 運命? それともクラス補正なのか?
 
『次に我が陣営の基本方針を説明するが、全力で『魔法使い』をサポートする』
「勝ち馬に乗るのは良いんだけどさ、情報収集なんて『魔法使い』が自前で出来るんだからオレ達必要無くね?」
『いや、そうでもない。今回は『教会』が全力で妨害している。昨晩未明に『ランサー』のマスターを送り込んだのも彼等であり、信徒を使って街中に居る『魔法使い』の簡易使い魔を片っ端から駆除している』
 
 予想を反して全面攻勢なのか。かなり分が悪いと思うが、やはり『聖杯』は『教会』の宗義上にとって無視出来ないものなのか。
 いや、これは『魔法使い』の手に『万能の願望機』を与えたらヤバいからなのか?
 『魔法使い』の性格は典型的な世界への挑戦者そのものだ。その悲願は外の領域、根源への到達による『魔法より更なる上』に至る事である可能性は十二分に考えられる。
 ただでさえ厄介な『魔法使い』が『超魔法使い』になる。最高に厄介になるが、無駄に『聖杯』を使い潰してくれるならまだマシか。
 ただ問題なのは『魔法使い』の願望が外の領域ではなく内の領域、この世界そのものの改変ならば大惨事間違い無しである。『教会』としては何が何でも『魔法使い』に『聖杯』は渡せないだろう。
 
「というか、協力したマスターが速攻脱落しているから『教会』側は詰んでね?」
『まだマスターは他に五人いる。『魔法使い』に先駆けて擁立すれば当て馬になるだろう。そして其処だ、今回の我々がすべき事は他のマスターを探し当てる事だ』
 
 ……情報収集か。まぁ妥当な処だろう。まさか『サーヴァント』と戦えなんて命令されたら一目散に逃走する処である。
 この『聖杯戦争』における我々『能力使い』の役割など斥候ぐらいだ。脇役は脇役らしく、粛々と舞台の片隅で蠢くのが関の山だ。
 
『まさかとは思うが、一応確認しておこう。お前が『マスター』という事は無いだろうな?』
「残念ながら、令呪なんて何処にも無いぜ。一体オレ達が『マスター』だと何を呼べるんかねぇ? 縁ある能力使いか?」
 
 一応、自身の両腕を巻くって確かめながら言う。
 そもそも万が一『令呪』があったとしても魔力を生成する手段なんてないんだから、『サーヴァント』を現界させ続ける事が困難なのだが。
 不可能ではない、と断言出来るのは『サーヴァント』自身に魂喰いを強要すれば維持出来る的な意味でもある。『マスター』も『サーヴァント』も余程の外道でない限り実行しないだろうが。
 
『さぁな。面白い話ではあるが、『プッチ』や『DIO』を呼んだ日には令呪の三画目をサーヴァントの自害に使わないといけないな』
 
 『ジョジョの奇妙な冒険』のラスボスらを召喚したら、確実に裏掻かれて最終的に敗北する未来が見える。
 自分の『サーヴァント』が最終的な敵対者なんて笑うに笑えないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...