異能持ち転生者達が強すぎますわ!〜中世ヨーロッパファンタジー世界の現地民を助けて〜

John Smith/ジョン スミス

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「ルナティック君……」
 
 部屋に入ると、スターク・ジェガンが上半身だけ起こし、赤く腫れた眼で窓の外を眺めていた。
 涙は既に枯れ果てた、という酷い有り様だ。これをどうやって立ち直させるのか――。
 
「ごめんさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……! 私の、私のせいで……!」
 
 もう心が折れて、粉々に砕け散っていた。眼が死んでいた。
 考えてみれば当然か。彼女は魔法少女になる事で、自分の存在意義を形成して行った。それ以前はごく普通の少女に過ぎない。
 強靭な意志を形成する最初の第一歩を最悪な形で躓いたのだ。今の彼女に原作の面影を見出す事は出来ない。
 
「ルナ・ルミナスを助けたい。その為にはスターク・ジェガン、君の力が必要だ」
 
 今の自分が掛けられる慰めれる言葉はこれぐらいであり――スターク・ジェガンは泣きながら首を横に振った。
 
「……駄目。無理、だよ。私なんかじゃ、何も出来ないよ……!」
 
 嗚咽を零し、スターク・ジェガンは弱々しく泣き伏せる。
 
 ……無理だった。彼女はオレと違って正真正銘の九歳の少女だ。その彼女を再び戦場に駆り立てるのは酷な話だった。
 プランに修正が必要か。スターク・ジェガン抜きでルナ・ルミナスを救う方程式が――。
 諦めかけたその瞬間、ばたん、と勢い良く扉が開いた。空気を読まずに現れたのは『使い魔』だった。
 
「失礼します。包帯替えの時間です。男性は廊下の外に立って、待ってて下さいね」
 
 「え?」と言う間も無く手を引っ張られ、ドアの外まで押し出される。それもぽーんという勢いで。
 
「な、ちょ、ちょっと待て!?」
「もう、エッチですね、ルナティック君は。若い衝動を抑えられなくなって覗いちゃ駄目ですよ」
 
 反論する間も無く閉められ、かちっと鍵が閉められる。
 助けを求めるように『魔法使い』に視線を送るが、首を傾げて「?」の疑問符を浮かべる始末。あの吸血猫に任せるしかないのだろうか……?
 
「はいでは包帯を替えますね。服を脱いでください」
 
 言われるがままにスターク・ジェガンは自分と同年代のメイド服の猫耳少女に身体を委ねる。
 昨日受けた傷とは思えないほど身体に残った傷は浅く、その反面、心は罅割れて崩壊寸前だった。
 その何とも言えない外見とは裏腹に、鮮やかな手並みで包帯を綺麗に丁寧に迅速に巻いていく。自分では到底此処までの芸当は出来ないだろう。
 自身の存在価値を限界まで下向させ、スターク・ジェガンの精神は終わりの無い悪循環に陥っていた。
 
(……あれ? そういえば――)
 
 今になって漸く気づいたが、彼女に協力を要請した張本人の姿は何処にも見当たらない。
 試しに念話をしてみたが、反応は無い。まさか死んでしまったのだろうか? それとも、自分を見限って別の人に助けを求めに行ったのだろうか?
 それが正解だろう。自分には彼の見込んだ才能など無かったのだ。本当に彼を助けられる人は、必ず何処かに居る筈だ。自分以外の誰かが――。
 
「……あの、ラディッシュ君、たぬきは見ませんでした?」
「そういえば見掛けてないですね 昨日貴女が運び込まれた時点で居なかったです。後で探しておきますよ」
 
 一応尋ねてみたが、彼が此処に居る筈が無いと自嘲する。
 包帯が巻き終わり、猫耳メイド服の少女は二人分の紅茶を淹れて、ベッドの近くの机に置き、彼女自身も近くの椅子に座った。
 
「貴女本人だけの過失では無いですよー。ぶっちゃけ舞台が最悪だっただけですし。初舞台があれじゃ同情物です」
「わ、私は、ラディッシュ君に頼られ、助けられる力があるなら助けたかった。でも、私にはそんな力が無くて……!」
 
 一瞬で涙腺が決壊し、枯れ果てたと思った涙は止め処無く流れ出る。
 メイド服の少女は立ち上がり、ベッドに腰掛けてスターク・ジェガンを抱き締め、頭を撫で続ける。
 自分と同じぐらい小さな少女は、まるで母親のように泣く子を優しく宥める。また自分が情けなくなって、スターク・ジェガンは脇目も振らず、大声で泣き続けた。
 
「世の中、最善の選択が最善の結果を生むとは限らないのです。其処が難しい処ですからね」
 
 正しい事をしても正しい結果になるとは限らない。メイド服の少女はよしよしとあやしながら悲しげに語る。
 
「それに貴女はまだ九歳の子供です。失敗して当然ですし、失敗して良いんです。大人に迷惑を掛けて当然ですし、頼って良いんです」
「で、でも、私は、取り返しの付かない失敗、を……!」
「――自らのツケを自分で支払ってこそ大人なのです。子供のツケを代わりに支払うのもまた大人の義務なのです」
 
 自分の失敗の為に死んだ顔も知らぬ誰か、その誰かは見知らぬ自分を命懸けで助け、その結果死なせてしまった。
 その負債をどうやって穴埋め出来ようか? 否、出来よう筈が無い。それに匹敵する光などあろう筈が無い。
 
「彼はあの場に置ける最善の選択をした。その何よりも尊く高潔な意志をもって貴女達二人を生還させた。貴女がそれを悔やむのは、彼の意志と誇りを穢す事に他ならない」
 
 厳しく、けれども優しく抱き締めながら少女は詠う。
 
「――失敗した。それで貴女は嘆いて終わりですか? 生きている限り、次があります。真の敗北とは膝を屈し、諦める事。諦めを拒絶した先に『道』はあるのです。貴女は彼から次の機会を授かった筈です。そして受け取った筈です。――彼の意志を受け継ぐ権利が貴女にはあります」
 
 ――彼の、意志?
 解らない。私を助けて死んでしまった人の意志なんて、私なんかが解る筈が無い。
 私が死ねばそれで良かったんだ。それなら素晴らしい人が死なずに済んだ。こんな無意味な私の為に死なずに済んだのに――!
 
 ――いいえ、と少女は首を振る。
 まるで聖母のように慈愛に満ちた笑顔で、彼女は魔法の言葉を教える。
 
「そのデバイスの『銘』を今一度唱えて御覧なさい。貴女のデバイスの『銘』を――」
 
 彼女の視線の先には、テーブルの上には彼から貰った赤い宝玉があった。
 変わらぬ光を宿し、高町なのはは自然と手を伸ばして、その『銘』を唱えた――。
 
「……不屈の、心。レイジングハート――」
『――All right,my master.』
 
 ――この物語は魔法少女の物語ではない。
 けれども、魔法少女は不屈の心と共に、再び立ち上がる。
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